おはようございます。
今日は、解雇、残業代不払いが不法行為を構成するとされた裁判例を見てみましょう。
甲総合研究所取締役事件(東京地裁平成27年2月27日・労経速2240号13頁)
【事案の概要】
本件は、Y社の従業員であったXが、同社の代表取締役であったB2及び同社の事実上の取締役とするB1に対し、B1らが、Xを違法に解雇し、同社をしてXに対し時間外手当を支払わせず、さらには、Xが得た同社に対する地位確認等請求事件判決の責任回避を目的として同社を計画倒産させたなどと主張して、民法709条ないし会社法429条1項に基づき、損害金及び遅延損害金を求めた事案である。
【裁判所の判断】
B1らは、Xに対し、連帯して、401万4566円+遅延損害金を支払え
【判例のポイント】
1 時間外労働を行ったことについては、時間外手当の支払を求める労働者側が主張立証責任を負うものではあるが、労働基準法は、労働時間、休日、深夜業について厳格な規定を設けていることから、使用者は、労働時間を適正に把握するなど、労働時間を適切に管理する義務を負うものであることは明らかである。そして、労働基準法は、使用者の賃金台帳調整義務を定めて、「賃金台帳を調整し、賃金計算の基礎となる事項及び賃金の額その他厚生労働省令で定める事項を賃金支払の都度遅滞なく記入しなければならない。」(同法108条1項)と規定し、また、同法施行規則54条1項は、上記法律の規定によって賃金台帳に記入しなければならない事項として、労働日数、労働時間数、労働時間延長時間数、休日労働時間数、深夜労働時間数などを規定している。さらに、厚生労働省労働基準局長が平成13年4月6日発出した「労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関する基準について」(基発第339号通知)においても、・・・とされているところである。
2 Xは時間外労働に従事したことが認められるところ、B1はXが時間外労働に従事していることを認識し、また、B2についても、就業規則と異なる状況が発生していることを認識していたにもかかわらず、B1らは、労働基準法に違反してXに時間外手当を支払っていないところ、この不払は、B1らが、Y社の代表取締役などとして、従業員の出退勤時刻を把握して時間外勤務の有無を確認できるとともに、時間外勤務があるときは、その時間外手当の支払が円滑に行われるような制度を当然整えるべき義務があるのに、これを怠ったことによるものと評価できるのであるから、従業員4名という小規模な会社であったY社において代表取締役などの地位にあったB1らが、上記当然の義務を懈怠してXに対し時間外手当の支払をしなかった行為は、不法行為を構成するものと認められる。
3 Xには、本件解雇より事実上失職した結果、得られなかった賃金相当の損害が生じたものの、本件解雇と相当因果関係を肯定できる逸失利益の範囲については、通常、再就職に必要と考えられる期間の賃金相当額に限られるものと解すべきである。そして、Xの職歴及びY社における就業期間その他の事情を総合考慮すると、Xが再就職に必要と考えられる期間としては、本件解雇発効後3か月と認めるのが相当であるから、137万4000円をもって、本件解雇によって生じた賃金相当の逸失利益と認めるのが相当である。
4 本件において、Xは、多大な精神的損害を被ったと主張するものの、その原因は、突然解雇によって雇用の機会を奪われ、継続して賃金を得られない状態が生じたことにあるものであって、財産的利益に関するものであると解されることからすると、Xには、上記逸失利益の填補によっても回復困難な精神的損害が生じたものと認めることはできないから、慰謝料請求は認められない。
珍しいケースですね。
不法行為構成で訴訟をすると、解決金額のあまり高くないため、どうしても、地位確認の構成をとることが多いですが、今回の事案でも、わずか3か月分しか認められていません。
日頃から顧問弁護士に相談しながら適切に労務管理を行うことが大切です。