おはようございます。
今日は、定額残業代としての営業手当の有効性と割増賃金請求に関する裁判例を見てみましょう。
マーケティングインフォメーションコミュニティ事件(東京高裁平成26年11月26日・労判1110号46頁)
【事案の概要】
本件は、Y社との間で雇用契約を締結していたXが、Y社に対し、平成23年3月分から平成25年2月分までの時間外労働に対する割増賃金618万2500円+遅延損害金、付加金+遅延損害金を請求する事案である。
なお、一審判決は、営業手当を時間外労働の対価として認め、Xの請求から営業手当の金額を除いた1万4342円+同額の付加金のみの支払いを命じた。
Xは、一審判決を不服とし、控訴した。
【裁判所の判断】
Y社はXに対し、651万4074円+遅延損害金を支払え
【判例のポイント】
1 Xの1月の平均所定労働時間が173時間前後で、これに対する基本給が月額24~25万円であるところ、これを前提に、月17万5000円~18万5000円の営業手当全額が時間外勤務との対価関係にあるものと仮定して、月当たりの時間外労働時間を算出すると、・・・上記営業手当はおおむね100時間の時間外労働に対する割増賃金の額に相当することとなる。
2 労基法32条は、労働者の労働時間の制限を定め、同法36条は、36協定が締結されている場合に例外的にその協定に従った労働時間の延長等をすることができることを定め、36協定における労働時間の上限は、平成10年12月28日労働省告示第154号(36協定の延長限度時間に関する基準)において月45時間と定められている。100時間という長時間の時間外労働を恒常的に行わせることが上記法令の趣旨に反するものであることは明らかであるから、法令の趣旨に反する恒常的な長時間労働を是認する趣旨で、X・Y社間の労働契約において本件営業手当の支払が合意されたとの事実を認めることは困難である。したがって、本件営業手当の全額が割増賃金の対価としての性格を有するとの解釈は、この点において既に採用し難い。
3 本件営業手当の支払は割増賃金に対する支払とは認められず、また、本件営業手当は、労基法施行規則21条に列挙されている割増賃金算定の基礎賃金から除外される手当等のいずれにも該当しないことは明らかである。したがって、営業手当は、基本給とともに、割増賃金算定の基礎賃金となる。
4 本件訴訟に表れた一切の事情を考慮すると、Y社に対しては付加金の支払は命じないことが相当である。
原告の逆転勝訴です。
長時間の残業を前提とした固定残業代が支払われている場合には、労働者側としては、上記判例のポイント2の論理を主張することになります。
使用者側としては、固定残業制度には、このようなリスクがあることを十分に理解しておく必要があります。
日頃から顧問弁護士に相談しながら適切に労務管理を行うことが大切です。