解雇174(日本ハウズイング事件)

おはようございます。 今週も一週間お疲れ様でした。

今日は、マンションの住込管理人の管理人室退去をもって自主退職と評価することの可否に関する裁判例を見てみましょう。

日本ハウズイング事件(東京地裁平成26年12月24日・労経速2239号25頁)

【事案の概要】

本件は、Y社から雇用されていたA、Bが、Y社に対し、労働契約上の権利を有する地位にあることの確認とバックペイの支払を求める事案である。

【裁判所の判断】

A、Bともに労働契約上の権利を有する地位にあることを確認する。

【判例のポイント】

1 8月2日の段階で、C課長は、本件マンションの管理人を交代することになる旨告げているものの、退職届を書くようにAらに告げているに留まる。それ以外に同日において、Y社から明確にAらを解雇するとの意思表示はなされたと認めるに足りる事実はない。また、C課長が、同日、Aらが解雇されたことを認めたという事実も証拠上、認められない。・・・以上からすると、本件労働契約について、Y社がAらに対して解雇の意思表示をしたと認めることはできない。

2 そもそも意思表示は、表意者が一定の効果を意欲する意思を表示し、法律がこの当事者の意欲した効果を認めてその達成に努力するものとされているから、自主退職(労働者から一方的に労働契約を解消すること)の意思表示についても自主退職という法律効果を意欲する意思が表示されたものと評価できるかが問題となる。そして、労働者にとって労働契約は、生活の糧を稼ぐために締結する契約であり、かつ、社会生活の中でかなりの時間を費やすことになる契約関係であることからすれば、かかる労働契約を労働者から解消して自主退職するというのは、労働者にとって極めて重要な意思表示となる。したがって、かかる労働契約の重要性に照らせば、単に口頭で自主退職の意思表示がなされたとしても、それだけで直ちに自主退職の意思表示がなされたと評価することには慎重にならざるを得ない。特に労働者が書面による自主退職の意思表示を明示していない場合には、外形的にみて労働者が自主退職を前提とするかのような行動を取っていたとしても、労働者にかかる行動を取らざるを得ない特段の事情があれば、自主退職の意思表示と評価することはできないものと解するのが相当である

3 確かに、本件においてY社が解雇の意思表示をしたという事実は認められず、Y社から解雇されたことが明確になっていない段階において、Aらにおいても退職届の作成を拒否し、自主退職もしていないのであれば、Aらとしては、管理人室を退去する必要まではなかったともいえ、管理人室を退去したことは自主退職を前提とするかのような行動であるともいえる。
しかしながら、Aらが本件マンションを退去した理由としては、本件マンションの管理人であれば、家賃を払わなくても済むが、8月2日のC課長やD主任とのやりとりで、管理人を解雇されたと思い、解雇されたのであれば居住権はなくなり、家賃を支払わなければならないと考え、やむなく退去したとのことであり、Y社から退職届を書くよう求められていた当時の状況からすれば、Xらがかかる認識に至ったのも無理からぬところといえる
以上からすると、Xらが本件マンションを退去したことだけをもって自主退職の意思表示をしたと評価することはできない。

解雇の意思表示も自主退職の意思表示もないから、雇用契約は今まで通り、続いているという判断です。

まさかの展開です。

上記判例のポイント2の解釈は参考になりますね。 是非、押さえておきましょう。

解雇を選択する前には必ず顧問弁護士に相談の上、慎重かつ適切に対応することが肝心です。決して、素人判断で進めないようにしましょう。