おはようございます。
今日は、中国ロケ中の宴会での過度の飲酒・死亡と業務起因性に関する裁判例を見てみましょう。
ホットスタッフ事件(東京地裁平成26年3月19日・労判1107号86頁)
【事案の概要】
本件は、Xが雇用主であるY社の業務として行った出張中にアルコールを大量摂取し、その後に嘔吐し、吐しゃ物を気管に詰まらせて窒息死したことについて、労災保険法7条1項に規定する労働者の業務上の死亡に当たると主張し、渋谷労働基準監督署長に対し、Xの遺族において遺族補償一時金、葬祭料を請求したのに対し、本件処分行政庁がいずれも支給しない旨の処分をしたため、原告らにおいて、各不支給処分の取消しを求める事案である。
【裁判所の判断】
請求認容
【判例のポイント】
1 Xを含む本件日本人スタッフは、本件第2会合を、本件中国ロケの重要な目的である本件飛行場の撮影許可を得る窓口であるJほか鎮委員会の要人との親睦を深めることのできるいわば絶好の機会であると認識し、中国人参加者の気分を害さず、また好印象を持ってもらうため、勧められるがまま、「乾杯」に応じざるを得なかったものということができる。
これらの事情からすると、Xにおいて、本件第2会合において、積極的に私的な遊興行為として飲酒をしていたと評価すべき事実を見いだすことはできず、むしろ、本件第2会合において「乾杯」に伴う飲酒は、本件中国ロケにおける業務の遂行に必要不可欠なものであり、Xも、本件日本人スタッフの一員として、身体機能に支障が生じるおそれがあったにもかかわらず、本件中国ロケにおける業務の遂行のために、やむを得ず自らの限界を超える量のアルコールを摂取したと認めるのが相当である。
2 Xは、酒を捨てるなどして過度の飲酒を防ぐ方法があることを認識していたが、本件日本人スタッフがそれぞれ複数の中国人参加者に囲まれ、「乾杯」を勧められていたという本件第2会合の状況に鑑みれば、本件日本人スタッフは、いずれにせよ相当程度の飲酒を余儀なくされることになるものといわざるを得ず、過度の飲酒にわたらないように途中で酒を捨てるといった対策を実効的な程度に至るまでとるということは、事実上、相当に困難であったといわざるを得ない(X同様、中国における宴会の経験を有し、かつ、酒に弱いことを自覚していたEは、途中でトイレに吐きに行くなどの対策を講じたにもかかわらず、本件第2会合終了時には、過度の飲酒により動くことができなくなっていた)。したがって、Xが過度の飲酒を防ぐことができたにもかかわらずこれを怠ったということもできない。
3 以上の検討によれば、本件第2会合における飲酒行為により、Xが咽頭反射の反応がない状態で嘔吐したことは、同人の従事していた業務である本件中国ロケに内在する危険性が発現したものとして、業務の間の相当因果関係が認められ、これによって本件事故が発生したものであるから、本件事故は、労災保険法12条の8第2項、労基法79条、80条にいう「労働者が業務上死亡した場合」に該当するものというべきである。
なかなかきわどい判断ですね。
裁判体が異なれば、結論も異なったと思われます。
もっとも、個人的には、本判決の結論に賛成です。