セクハラ・パワハラ9(サントリーホールディングスほか事件)

おはようございます。

今日は、パワハラでうつ病発症・休職等を理由とする損害賠償請求に関する裁判例を見てみましょう。

サントリーホールディングスほか事件(東京地裁平成26年7月31日・労判1107号55頁)

【事案の概要】

本件は、Y社の従業員であったXが、Xの上司であったAからパワーハラスメントを受けたことにより鬱病の診断を受けて休職を余儀なくされるなどし、また、Y社の○○室長であったBがAの上記パワーハラスメント行為に対して適切な対応を取らなかったことによりXの精神的苦痛を拡大させたとして、A及びBには不法行為(民法709条、719条1項)が成立すると主張するとともに、Y社にはXに対する良好な作業環境を形成等すべき職場環境保持義務違反を理由とした債務不履行及びAの使用者であること等を理由とした不法行為(民法715条1項、719条1項)が成立する等と主張して、Y社らに対し、休業損害等合計2424万6488円の損害賠償金及び遅延損害金の連帯支払を求める事案である。

【裁判所の判断】

Y社及びAは、連帯して297万円+遅延損害金を支払え

【判例のポイント】

1 Aの言動は、AがXを注意、指導する中で行われたものであったと認められるものであるが、一方、Aの上記言動について、AがXに対する嫌がらせ等の意図を有していたものとは認めることはできない
しかしながら、「新入社員以下だ。もう任せられない。」というような発言はXに対して屈辱を与え心理的負担を過度に加える行為であり、「何で分からない。おまえは馬鹿」というような言動はXの名誉感情をいたずらに害する行為であるといえることからすると、これらのAの言動は、Xに対する注意又は指導のための言動として許容される限度を超え、相当性を欠くものであったと評価せざるを得ないというべきであるから、Xに対する不法行為を構成するものと認められる。

2 Aの上記言動は、本件診断書を見ることにより、Aの部下であるXが鬱病に罹患したことを認識したにもかかわらず、Xの休職の申出を阻害する結果を生じさせるものであって、Xの上司の立場にある者として、部下であるXの心身に対する配慮を欠く言動として不法行為を構成するものといわざるを得ない。

3 Bは、X及びA双方に事情を聞くとともに、複数の関係者に対して当時の状況を確認するなどして適切な調査を行ったものといえる。そして、Y社においては通報・相談内容及び調査過程で得られた個人情報やプライバシー情報を正当な事由なく開示してはならないとされていることからすると、Bにおいて調査結果や判断過程等の開示を文書でしなかったことには合理性があったものといえ、しかも、Bは、Xに対し、Aへの調査内容等を示しながら、口頭でAの行為がパワーハラスメントに当たらないとの判断を示すなどしていたものであって、Bに違法があったということはできず、原告の上記主張は理由がない。

4 AのXに対する行為は、Y社の事業の執行について行われたものであって、不法行為を構成する以上、Aの使用者であるY社には使用者責任が成立する。
なお、本件全証拠を検討しても、Y社に職場環境保持義務違反及びY社自身のXに対する不法行為を認めるに足りる証拠はなく、Y社の債務不履行責任及び共同不法行為責任に係るXの主張はいずれも理由がない

損害としては、887万3642円を認定し、その後、素因減額(4割)、損益相殺をした後、270万円+弁護士費用(1割)という結論になりました。

どの会社でも起こり得る話です。

特に上司のみなさんは、成績不良な部下を持った場合には、感情的な対応をしないようにくれぐれも注意してください。

ハラスメントについては、注意喚起のために定期的に研修会を行うことが有効です。顧問弁護士に社内研修会を実施してもらいましょう。