Daily Archives: 2015年3月23日

不当労働行為106(K病院経営者(違法仮処分申立損害賠償)事件

おはようございます。 今週も一週間がんばりましょう。

今日は、ストライキ差止め請求者に対する損害賠償請求に関する裁判例を見てみましょう。

K病院経営者(違法仮処分申立損害賠償)事件(津地裁平成26年2月28日・労判1103号89頁)

【事案の概要】

本件は、Aの経営する病院の労働者で構成されるX1組合およびその上部組織であるX2組合が、Aによる違法な仮処分申立てに基づきXらのストライキの禁止を命ずる仮処分決定が発令されたとして、Aに対し、不法行為に基づき、Xら各自につき損害金550万円およびこれに対する遅延損害金の支払いを求めた事案である。

【裁判所の判断】

AはXらに対し、各165万円(無形的損害150万円+弁護士費用15万円)+遅延損害金を支払え

【判例のポイント】

1 仮処分決定の被保全権利が当初から存在しない場合に、仮処分申立人が同決定を得てこれを執行したことに故意又は過失があったときは、申立人は、民法709条により、相手方がその執行によって受けた損害を賠償する義務を負担すべきものであり(最高裁平成2年1月22日判決)、一般に、仮処分決定が異議もしくは上訴手続において取り消され、あるいは本案訴訟において原告敗訴の判決が言い渡され、その判決が確定した場合には、他に特段の事情のないかぎり、申立人において過失があったものと推認するのが相当である(最高裁平成43年12月24日判決)。

2 そして、本件訴訟のような仮処分申立てが不法行為に該当するとして提起された損害賠償訴訟において、仮処分申立てに係る被保全権利が当初から存在しないことが明らかになった場合も、最終的に当該損害賠償訴訟の判決の確定とともに被保全権利が存在しないという判断が確定するのであるから、上記の「仮処分決定が異議もしくは上訴手続において取り消され、あるいは本案訴訟において原告敗訴の判決が言い渡され、その判決が確定した場合」と別異に扱う合理的な理由があるとはいえないし、本件のように、仮処分決定の申立人が仮処分申立てを取り下げて本案訴訟も提起しない場合には、仮処分の相手方において、異議手続あるいは本案訴訟において被保全権利を争う機会が与えられないのであるから、かかる事情も考慮すれば仮処分申立てが不法行為に該当するとして提起された損害賠償訴訟において、仮処分申立てに係る被保全権利が当初から存在しないことが明らかになった場合にも、特段の事情のない限り、申立人の過失が推認されると解するのが相当である。

3 Xらは、一体となって、Aとの間で、本件増額支給の解明を求めて団体交渉を重ねてきたにもかかわらず、Aが本件増額支給を否定する回答を続けて団体交渉によっては事態が進展しない状況となったため、本件ストライキを実施することにしたものであるが、Aの本件仮処分申立てにより本件ストライキを途中で中止させられ、組合員の労働条件の改善のための重要な手段である争議権を封じられたものであるから、これにより組合員等のXらに対する信用、社会的評価が低下するなどの無形的な損害を受けたものというべきであり、本件増額支給問題についてのAの対応の不誠実さ、本件ストライキの正当性、組合にとっての争議権の重要性などの諸般の事情を総合考慮すると、Xらが受けた無形的な損害の額は各150万円とするのが相当である。

仮処分を申し立てる際は、本件のような流れになる可能性があることを念頭に置く必要があります。

注意しましょう。

組合との団体交渉や組合員に対する処分等については、まずは事前に顧問弁護士から労組法のルールについてレクチャーを受けることが大切です。決して素人判断で進めないようにしましょう。