Daily Archives: 2015年3月9日

解雇165(社会法人東京都医師会(A病院)事件)

おはようございます。 今週も一週間がんばりましょう。

今日は、院内の風紀、秩序を乱した等を理由とする懲戒処分に関する裁判例を見てみましょう。

社会法人東京都医師会(A病院)事件(東京地裁平成26年7月17日・労判1103号5頁)

【事案の概要】

本件は、Y社が管理・運営する病院に勤務する医者であるXが、3か月間の停職の懲戒処分を受けたこと、医長から医員へ降任され、それに伴って降格されたことについて、これらが無効であるとともに、Xに対する不法行為に当たるとして、Y社に対し、①医長として勤務し、上記降格前の給与を受ける雇用契約上の地位の確認、②上記降格前の賃金額と実際に支払われた賃金額との差額及びこれに対する遅延損害金の支払い、③停職期間中に支払われるべき賃金及びこれに対する遅延損害金の支払い、④慰謝料300万円及びこれに対する遅延損害金の支払いをそれぞれ求める事案である。

【裁判所の判断】

本件懲戒処分は無効

本件降任及び降格は有効

慰謝料請求は棄却

【判例のポイント】

1 ・・・本件懲戒処分の理由となるべきXの非違行為の態様は、管理職でありながら、本件病院の方針や院長の指示に従おうとせず、また、本件病院の方針の推進や検査業務に支障を生じさせ、さらに、十分な根拠なしに公然と、薬剤検査科長がパワーハラスメント行為を行ったかのような発言をして、これを誹謗中傷するなどしたというものであり、決して軽微なものではない。
しかしながら、他方、本件懲戒処分の内容は、本件就業規則において、免職に次いで重い停職処分であり、しかも、その停職の期間は、本件就業規則上許される期間のうちで最長のものであって、Xとしては、3か月間にわたり賃金を得ることができないという重大な不利益を受けるものである

2 そして、本件懲戒処分の理由となるべき非違行為については、決して軽微な態様のものではないとはいえ、前件訓告処分がされてから4~5年後にされたものであること、基本的には、本件病院内部にとどまる行為であり、患者に対して直接被害を与えるようなものではないことなどの諸事情に照らせば、平成20年2月にカルテを無断で破棄したという事実があったこと等を考慮しても、上記非違行為に対する懲戒処分として3か月間にもわたる最大期間の停職処分をもって対応したことは、重きに失するものといわざるを得ない
以上によれば、本件懲戒処分は、相当性を欠くものとして、無効であると認めるのが相当である。

3 本件懲戒処分が無効であると認められても、Xが管理職としての適格性を欠くことを理由としてされた本件降任及び本件降格については、人事権を濫用したものであると認めることはできず、有効であるというべきである

4 本件懲戒処分については、無効であると認められるところであるが、そのことから直ちに不法行為を構成するものと認められるものではない。Xについては、懲戒処分を受ける客観的に合理的な理由があったといえるのであり、本件懲戒処分が無効と判断されるのも、3か月間の停職という処分を選択したことが社会的相当性を欠くものと認められるからにすぎない。これらの事情に照らせば、Xの救済については、停職期間中の賃金の支払請求を認めることで足り、本件懲戒処分は、Xに対する不法行為に該当するものではないというべきである。
したがって、Xの慰謝料の請求は、理由がない。

懲戒処分の理由はあるけれど、処分が重すぎるということで、ぎりぎりのところで無効となっています。

裁判官によっては有効と判断する場合もありうると思いますがいかがでしょうか。

また、懲戒処分が無効であっても、降任及び降格は、人事権の濫用にはあたらないというバランス感覚は参考になります。

解雇を選択する前には必ず顧問弁護士に相談の上、慎重かつ適切に対応することが肝心です。決して、素人判断で進めないようにしましょう。