Daily Archives: 2015年2月23日

解雇163(A住宅福祉協会事件)

おはようございます。 今週も一週間がんばりましょう。

今日は、協会の名誉を毀損したこと等を理由とする懲戒解雇に関する裁判例を見てみましょう。

A住宅福祉協会事件(東京高裁平成26年7月10日・労判1101号51頁)

【事案の概要】

本件は、Y社の職員として稼働していたXが、Y社から懲戒解雇されたところ(なお、Y社は、当審において予備的に普通解雇の主張を追加した。)、解雇無効を主張して、労働契約上の権利を有する地位にあることの確認を求めるとともに、Y社に対し、解雇後の未払月額賃金及び未払賞与の支払を求める事案である。

原審は、Y社の主張する事実は懲戒解雇の事由に当たらず、また、手続の相当性も欠いているとして、Y社のした解雇は無効であるとし、Xの本件請求について、地位確認を求める請求を認容した。

この原判決に対し、Y社のみが敗訴部分の取消を求めて控訴した。

【裁判所の判断】

控訴棄却

【判例のポイント】

1 Y社の当審における新たな主張を時機に後れた攻撃防御方法として却下すべきか否かについて検討する。上記のとおり、人事異動命令の拒否など当審で新たに主張した3つの解雇事由は、Xに対する解雇通知に明文で掲げられていたものであるから、これを原審で主張せずに当審になって主張したことは、攻撃防御方法の提出として時機に後れていることが明らかである。そして、原審においてこれらの解雇事由についての主張及び立証をすることが、不可能あるいは困難であったとする事情は何らうかがうことができないことに加え、原審におけるY社の訴訟追行が弁護士である訴訟代理人によってされていたことも考慮すると、当審においてY社の訴訟代理人が変わり、訴訟追行の方針等に変更があったことを考慮したとしても、当審に至って新たな主張をすることが時機に後れたことについては、故意又は重大な過失があるというべきである。

2 ・・・当審において新主張についての当否を判断するについては、従前の双方の主張や証拠調べの結果だけでは訴訟資料が不足していることが明白であり、当事者双方の主張立証を尽くさせる必要があり(少なくともXがこれを争っている以上、X本人の尋問の実施は必須であるし、併せてY社関係者の尋問が必要となることが想定される。)、その主張整理や証拠調べには、なお相当の時間を要するとみられるから、訴訟の完結が大幅に遅延するものというべきである

3 なお、念のため付言しておくと、仮に上記各解雇事由に関するY社の主張を時機に後れた攻撃防御方法として却下しなかった場合には、これまでの当事者双方の主張立証を前提とする本件証拠によっては、Y社主張の各解雇事由がXにあるとは認めるに足りないから、上記各事由による懲戒解雇をいうY社の主張を採用することはできないと判断することになる。

控訴審で新たな解雇事由を追加すると、本件のように、時機に後れた攻撃防御方法だと言われてしまいます。

一審のうちに、もっと言えば、一審の早い段階で解雇事由を固めておく必要がありますので、注意しましょう。

解雇を選択する前には必ず顧問弁護士に相談の上、慎重かつ適切に対応することが肝心です。決して、素人判断で進めないようにしましょう。