賃金88(フジスター事件)

おはようございます。

今日は、賃金格差の一部が性別に基づく不合理な取扱いとされた裁判例を見てみましょう。

フジスター事件(東京地裁平成26年7月18日・労経速2227号9頁)

【事案の概要】

本件は、Y社に雇用され、約20年間勤務した後、平成21年5月9日付けで定年退職したXが、在職中、Xが女性であることを理由として、賃金及び賞与が男性従業員よりも不当に低く抑えられてきたため、本来Xが受けるべきであった平成18年5月分以降の月例賃金、住宅手当、時間外割増手当、退職金、夏季・冬季賞与及び決算賞与の額と実際にXが支給された額との各差額相当額、年金差額相当額、慰謝料及び弁護士費用の合計として、①主位的に1621万4960円、②予備的に1551万7093円の損害を被ったと主張し、不法行為に基づく損害賠償請求をした事案である。

【裁判所の判断】

Y社はXに対し、55万円(慰謝料50万円+弁護士費用5万円)+遅延損害金を支払え。

その余の請求は棄却

【判例のポイント】

1 Y社における賃金決定過程は、諸要素を考慮するものの、最終的にはY社代表者の判断で決定している部分が大きいものである。
企業として、いかなる点を重視して従業員にインセンティブを与えるべきか、という事柄は、当該企業の経営判断に属するものであり、当該企業の経営方針等に照らし、一定の職種によりインセンティブを与えるという方針の下で給与決定をすること自体は、それが職種の違いを踏まえても合理性を有しない不当な差別にわたると評価される場合に該当しない限り、違法とされるものではないというべきである。

2 Xは、平成20年2月8日付けの本件合意書において、本件組合フジスター支部の支部長として記名押印をしているところであるが、本件合意書には、X以外の本件組合の特定の組合員4名について住宅手当、家族手当及び主任手当を同年2月から支給する旨の条項、過去分の住宅手当及び家族手当については、上記組合員4名に対し、解決金名目で210万3000円を支払う旨の条項の他、いわゆる清算条項(「本件に関し」との限定を付したもの。)が設けられている。・・・本件合意書における清算条項の当事者である「組合員」にはXも含まれるということが本件合意書締結当時の当事者の意思に合致するものと解するのが相当であって、Xの、平成20年1月分までの住宅手当及び家族手当については、Y社との関係においては、本件合意により清算済みであり、現在ではY社に対する請求権を有しないというべきである

3 Xは、在職中、Y社の不法行為により、同じ企画職の男性従業員と比べて、役職手当(主任手当)の支給される時期が著しく遅くなるという不利益を被っていた。そして、その不利益は、Xが支給されるべき時間外割増手当やXが受給すべき年金額にも一定の不利益を及ぼすものである。これらの不利益の程度を具体的に認定することができないことは既に述べたとおりであるが、Xは、Y社のかかる取扱いにより、性別により差別されないという人格権を侵害されたものであり、これによりXが被った精神的苦痛を慰謝するには、上記のXが被った不利益をも考慮した相応の金員の支払が必要である。そこで検討するに、Xと、企画職の男性従業員との間の主任手当の支給額の差額、Xの勤続年数、Y社における賃金決定方法について、経営陣の裁量に委ねられる部分が大きく、Xの予測可能性が乏しいといえること、上記のとおりXが具体的な程度を認定することはできないが一定の不利益を受けていること、その他本件に現れた諸般の事情を総合すると、Xの慰謝料は、50万円と認めるのが相当である。

原告側の代理人の訴訟活動の大変さが思い浮かびます。

慰謝料の金額、少なくないですかね・・・? 日本の裁判所ではこんなもんでしょうか?

日頃から顧問弁護士に相談しながら適切に労務管理を行うことが大切です。