Daily Archives: 2015年1月15日

労働災害79(X運送事件)

おはようございます。

今日は、上司の叱責による自殺と損害賠償に関する裁判例を見てみましょう。

X運送事件(仙台高裁平成26年6月27日・労経速2222号3頁)

【事案の概要】

本件は、Y社の宇都宮営業所に勤務していたXが、連日の長時間労働のほか、上司であったAからの暴行や執拗な叱責、暴言などのいわゆるパワーハラスメントにより精神障害を発症し、平成21年10月7日に自殺するに至ったと主張して、Y社に対しては、不法行為又は安全配慮義務違反に基づき、Aに対しては、不法行為に基づき、損害賠償を求めた事案である。

【裁判所の判断】

Y社及びAに対し、連帯して、合計約7000万円の支払を命じた

【判例のポイント】

1 Xは、新入社員として緊張や不安を抱える中で、本件自殺の5か月前(入社約1か月後)から月100時間程度かそれを超える恒常的な長時間にわたる時間外労働を余儀なくされ、本件自殺の3か月前には、時間外労働時間は月129時間50分にも及んでいたのであり、その業務の内容も、空調の効かない屋外において、テレビやエアコン等の家電製品を運搬すること等の経験年数の長い従業員であっても、相当の疲労感を覚える肉体労働を主とするものであったと認められ、このような中、Xは、新入社員にまま見られるようなミスを繰り返してAから厳しい叱責を頻回に受け、本件業務日誌にも厳しいコメントを付される等し、自分なりにミスの防止策を検討する等の努力をしたものの、Aから努力を認められたり、成長をほめられたりすることがなく、本件自殺の約3週間前には、Aから解雇の可能性を認識させる一層厳しい叱責を受け、解雇や転職の不安を覚えるようになっていたと認められるのであり、このようなXの就労状況等にかんがみれば、Xは、総合的にみて、業務により相当程度の肉体的・心理的負荷を負っていたと認めるのが相当である

2 Aは、Xを就労させるに当たり、Xが業務の遂行に伴う疲労や心理的負荷等が過度に蓄積して心身の健康を損なうことがないよう、①Y社に対し、Xの時間外労働時間を正確に報告して増員を要請したり、業務内容や業務分配の見直しを行う等により、Xの業務の量を適切に調整するための措置をとる義務を負っていたほか、②Xに対する指導に際しては、新卒社会人であるXの心理状態、疲労状態、業務量や労働時間による肉体的・心理的負荷も考慮しながら、Xに過度な心理的負荷をかけないよう配慮すべき義務を負っていたとされるところ、Aには、①②の各点についての注意義務違反があったと認められる。

3 Y社は、Aの使用者であるから民法715条に基づき、Aと連帯して損害賠償責任を負う。

本件自殺の前の時間外労働時間数からすれば、これだけで十分労災認定及び安全配慮義務違反が認定できます。

他人事として捉えるのではなく、自社で同じような悲劇を起こさないように、労務管理を徹底することをおすすめします。