解雇157(P社事件)

おはようございます。

今日は、うつ病の労働者に対する解雇に関する裁判例を見てみましょう。

P社事件(東京地裁平成26年7月18日・労経速2220号11頁)

【事案の概要】

本件は、Y社との間で労働契約を締結していたXが、Y社から平成23年9月28日付けで懲戒解雇の通知を受け、その後、平成24年2月1日付けで通常解雇の意思表示を受けたとして、それらの無効を主張し、Y社に対し、Xが労働契約上の権利を有することの確認を求めるとともに、給与及び賞与の支払い、遅延損害金、上記のY社による懲戒解雇の通知や本件解雇等がXに対する不法行為になるとして、不法行為に基づく慰謝料200万円、遅延損害金の支払いを求める事案である。

なお、Xは、平成23年6月28日、うつ病の診断を受け、同年7月8日付け休職届けにより、Y社に対し、体調不良を理由とし、同月9日から同年9月28日までの休職を申し出ていた。

【裁判所の判断】

請求棄却

【判例のポイント】

1 ・・・先行解雇に係る通知書が懲戒解雇事由として掲げるXの無断欠勤は認められるが、それは8日間のことでしかなく、この程度の無断欠勤をもって就業規則の定める「無断欠勤・・・が著しく多く」に当たるとすることはできないというべきである。そうすると、先行解雇は、そもそも解雇事由のない不適法なものであったといえる。そして本件カルテの「体調悪い、うつ状態悪化、会社から一方的に懲戒処分通知書送られてきた。」とのXの訴えの記載及びD医師の診断によれば、先行解雇によって、本件うつ病の症状が何らかの程度、増悪したものと認めることができる
しかし、Xは、先行解雇の通知書を受領した後、ユニオンからY社への抗議書の作成方法を同年10月3日に教えてもらう段取りをし、同年9月29日に午前午後と2回、甲分院を訪れ、午後にD医師を受診し、同月30日には労働基準監督署への相談を行い、その結果をD医師に電話で報告していることを認めることができるのであり、このようなXの活動報告にかんがみると、本件うつ病の増悪の程度は、重いものであったとは決していえないものであったと認めることができる。
しかも、同時に、無断欠勤の理由と無断欠勤に至る経緯、同年6月27日のY社代表者との面談によりXが退職するかどうかを検討すべきこととなっていたこと、Xにおいても同年9月28日までY社に対する休職に関する連絡を取らずにいた態度を総合考慮すると、Xにおいて、先行解雇の時点までに、Y社から、自己に対し、退職に関する決定が求められなくなり、同年6月27日の段階で予告された懲戒解雇という手段が執られない状況になったと信じるのが相当であったという状態にはなく、むしろ、自己に対する懲戒解雇のあり得べきことを予期すべきものであったといえ、そのような意味で、Y社が先行解雇を行ったことにも斟酌し得る点がないではないというべきである。
以上によれば、先行解雇の違法性は、本件解雇の社会通念上の相当性を障害する事情ではあるが、相当性の検討をする際に、考慮すべき度合いは大きくないといえる

2 Xは、Y社代理人弁護士の申入れにもかかわらず、復職を認定する資料として、Y社が業務上の指示として指定した東京医科大学病院メンタルヘルス科の受診を拒否したのであり、このようにXが本件うつ病に関する復職手続を履践することを明確に拒否したために、Y社は、就業規則上求められている復職の判断をするについての前提資料が提出されない状態の下に置かれ、そのような状況の中で、Xの主治医であるD医師から相矛盾する内容の12月及び1月の両診断書が提出され、最新の一月診断書上からは就労不能の情報を得たという経緯が認められ、しかも、一月診断書により、Xの状況について「心身の障害により、勤務に支障が出た場合」と判断したことにも合理性が肯定されるというべきであるから、本件の事実関係の下では、Y社において、さらにXやその主治医であるD医師に対する問合せを行うことなく、復職ができないものとして、「心身の障害により、勤務に支障が出た場合」と判断したことには問題がない。

本件のように、精神障害により休職しているケースにおいて、復職の可否を決定することは、いつだって悩ましいものです。

正解が見えない「ケースバイケース」の世界です。

そんな中でも、過去の裁判例からヒントを得て、考えられる適正妥当なプロセスを踏むことが大切なのです。

今回のケースも参考にしてください。

解雇を選択する前には必ず顧問弁護士に相談の上、慎重かつ適切に対応することが肝心です。決して、素人判断で進めないようにしましょう。