管理監督者35(新富士商事事件)

おはようございます。

今日は、退職した元営業所長の管理監督者性と割増賃金等請求についての裁判例を見てみましょう。

新富士商事事件(大阪地裁平成25年12月20日・労判1094号77頁)

【事案の概要】

本件は、自動車オークション会場における車両の移動等の業務を請け負っている株式会社であるY社との間で労働契約を締結し、営業所長として勤務していたXが、時間外および深夜割増賃金の支払いを受けていないとともに、一方的に賃金を減額して支給されたと主張して、Y社に対し、上記労働契約に基づき、時間外および深夜割増賃金ならびに遅延損害金の支払いを求めるとともに、不当利得に基づき、減額された賃金相当額の不当利得金及び遅延損害金の支払いを求めた事案である。

Y社は、Xが管理監督者に該当すると主張して、時間外割増賃金の支払義務を争っている。

【裁判所の判断】

管理監督者性を否定
→433万8618円の支払いを命じた

賃金減額分の13万4000円の支払いも命じた

【判例のポイント】

1 Xの職務内容及び権限についてみるに、Y社が行っている事業としては本件業務しか存在せず、本件業務の遂行に当たり、アルバイト従業員に対する業務の割当て、業務内容の指示及び出退勤時間の指定等に加え、A社との間の業務遂行上の調整等も、専らXの権限とされていたことが認められるから、Xは、本件業務の現場における責任者の地位にあり、アルバイト従業員の労務管理上の決定等についても一定程度の権限を有していたものと認められる。

2 しかしながら、Xの業務内容自体は、アルバイト従業員又は役職のない正社員であったときとほぼ変わりがなかったものであるだけでなく、Xは、正社員のみならず、アルバイト従業員についても、採用や賃金等の決定をする権限はないなど、本件業務に伴う経理や人事に関する権限を一切有しておらず、Y社及び関連会社の責任者が集まる幹部会議にも出席することはなかったものであるから、Xが有していた権限の範囲は、現場責任者としての限定的なものにとどまっていたものというべきである。
また、Xの労働時間に関する裁量権の有無についてみるに、Xは、タイムカードにより労働時間が管理されており、出退勤の自由に関する裁量権も有していなかったものといえる。
さらに、Xは、Y社のB営業所長として3万円の役付手当を支給されており、毎月の支給額は上司であるC部長と比較して、約3万5000円しか変わらないこと、年収は合計510万円程度にすぎないし、Xが毎月約30時間から時には100時間以上もの時間外及び深夜労働を行っていたことを考慮すると、その地位と権限にふさわしい処遇がされていたともいい難い

3 以上によれば、Xは、管理監督者にふさわしい職務内容及び権限を有していたとは直ちにいえないだけでなく、労働時間に関する裁量権も有しておらず、賃金上も管理監督者にふさわしい処遇がされていたとはいえないから、Xが管理監督者に該当するということはできない。

久しぶりに管理監督者性が問題となった裁判例を取り上げます。

結果は、やはり認められませんでした。

結果、会社は高額な支払いを命じられています。

裁判所が管理監督者性を認めてくれるのは、本当にごくわずかです。 そのあたりを踏まえた労務管理をする必要があります。

管理監督者性に関する対応については、会社に対するインパクトが大きいため、必ず顧問弁護士に相談しながら進めることをおすすめいたします。