おはようございます。
今日は、事業本部閉鎖に伴う解雇に関する裁判例を見てみましょう。
ソーシャルサービス協会事件(東京地裁平成25年12月18日・労判1094号80頁)
【事案の概要】
本件は、Xが、Y社による解雇は無効であると主張して、Y社に対し、雇用契約上の権利を有する地位にあることの確認、解雇後の賃金および賞与ならびに不法行為(不当解雇)に基づく損害賠償金の支払いを求めた事案である。
Y社は、Xと雇用契約を締結したのはY社ではなく、権利能力なき財団であるY社東京第一事業本部であると主張して、X・Y社間の雇用契約の存在を争うとともに、仮に雇用契約が存在するとしても上記解雇は有効であると主張している。
【裁判所の判断】
解雇は無効
不法行為に基づく慰謝料の請求は棄却
【判例のポイント】
1 ・・・Y社東京第一事業本部の役員の任免にはY社理事長が関与し、Y社東京第一事業本部の役員はY社理事会の決定及びY社理事長の指揮命令に従って業務遂行することとされているのであるから、Y社東京第一事業本部の財産がY社から独立して管理する体制が取られているとみることは困難である。
そうすると、Y社は、登記、寄附行為、厚生労働省への報告等においては、Y社東京第一事業本部を本人格を有するY社の一部である従たる事業所として扱っているところ、上記のとおり、Y社東京第一事業本部について権利能力なき財団の要件を充足しているとみることは困難であるから、Y社東京第一事業本部がY社とは別個の権利能力なき財団であると認めることはできない。
2 Y社において、本件解雇を行った平成23年10月当時、Y社東京第一事業本部の閉鎖に伴って、Y社東京第一事業本部の事業に従事していた人員が余剰人員となっていたことは認められるものの、Y社は同年3月時点において2億円を超える現預金を保有しており、上記余剰人員を削減しなければ債務超過に陥るような状況になかったことは明らかであり、人員削減の必要性が高かったものと認めることはできない。
にもかかわらず、Y社は、期間の定めのない雇用契約を締結しているXに対し、6か月間の有期雇用契約への変更を提案したものの、他の事業所への配置転換や希望退職の募集など、本件解雇を回避するためのみるべき措置を講じておらず、十分な解雇回避努力義務を果たしたものということはできない。上記のとおり、Y社においては、従たる事業所は完全な独立採算で独立した運営を行っており、本部が従たる事業所に人員配置を命じることはしない運用を行っていることが認められるものの、本件雇用契約における使用者がY社である以上、そのような内部的制限を行っていることをもって、Y社東京第一事業本部以外の従たる事業所への配置転換等の解雇回避努力を行わなくてよいことになるものではないというべきである。
・・・そうすると、本件解雇は、客観的に合理的な理由があり社会通念上相当であるものとは認められないから、その権利を濫用したものとして無効である。
3 普通解雇された労働者は、当該解雇が無効である場合には、当該労働者に就労する意思及び能力がある限り、使用者に対する雇用契約上の地位の確認とともに、民法536条2項に基づいて(労務に従事することなく)解雇後の賃金の支払を請求することができるところ、当該解雇により当該労働者が被った精神的苦痛は、雇用契約上の地位が確認され、解雇後の賃金が支払われることによって慰謝されるのが通常であり、使用者に積極的な加害目的があったり、著しく不当な態様の解雇であるなどの事情により、地位確認と解雇後の賃金支払によってもなお慰謝されないような特段の精神的苦痛があったものと認められる場合に初めて慰謝料を請求することができると解するのが相当である。
これを本件についてみると、一件記録を精査検討しても、前記特段の精神的苦痛を認めるに足りる事実はない。
よって、Xの不法行為に基づく慰謝料の請求は理由がない。
非常に珍しい事案です。
このような戦い方もあるのです。
上記判例のポイント2のとおり、人事異動に関する内部的な制限は、整理解雇における解雇回避努力を否定するものにはならない可能性がありますので、注意が必要です。
解雇を選択する前には必ず顧問弁護士に相談の上、慎重かつ適切に対応することが肝心です。決して、素人判断で進めないようにしましょう。