労働災害78(海上自衛隊(たちかぜ)事件)

おはようございます。 今週も一週間お疲れ様でした。

今日は、先輩自衛官による暴行及び恐喝による自殺と予見可能性に関する裁判例を見てみましょう。

海上自衛隊(たちかぜ)事件(東京高裁平成26年4月23日・労経速2213号9頁)

【事案の概要】

本件は、海上自衛官として護衛艦たちかぜの乗員を務めていたXが平成16年10月27日に自殺したことにつき、①Xの自殺の原因は、Xの先輩自衛官であったDによる暴行及び恐喝であり、上司職員らにも安全配慮義務違反があったと主張して、Dに対しては民法709条に基づき、国に対しては国家賠償法1条1項又は2条1項に基づき、X及びその父母に生じた損害の賠償を求めるとともに、高裁において、②国がXの自殺に関係する調査資料を組織的に隠蔽した上、同資料に記載されていた事実関係を積極的に争う不当な応訴態度を取ったため、精神的苦痛を被ったとして、国家賠償法1条1項に基づき、国に対して慰謝料の支払請求を追加した事案である。

原審は、Dの暴行・恐喝行為及び上司職員らのDに対する指導監督義務違反とXの自殺との間に事実的因果関係を認めることができるが、D及び上司職員等においてXの自殺につき予見可能生があったとは認められないから、Xの死亡によって発生した損害については相当因果関係があるとは認められないとした。

【裁判所の判断】

損害として、以下の項目を認めた。

①逸失利益 約4380万円

②慰謝料 2000万円

③その他 550万円

④国の訴訟活動について 20万円

【判例のポイント】(高裁において追加された請求に限る)

1 ・・・そうすると、横須賀地方総監部監察官が本件アンケートを保管していながら、本件開示対象文書の特定の手続において、これを特定せず隠匿した行為は、違法であるというべきである。その結果、Aは、本件訴訟において、本件アンケートに記載された回答に基づく主張立証をする機会を奪われることになったものと認められる

2 国の指定代理人らは、本件訴訟の被告の立場にある国の代理人として訴訟を追行するものであって、国において保有しあるいは収集した資料のうちいかなるものを証拠として提出するかは、民事訴訟法上これを提出すべき義務を負う場合を除き、これを自由な裁量により判断することができるというべきであり、その保有する資料を証拠として提出しなかったとしても、それが訴訟上の信義則に反するとみるべき特段の事情がない限り、違法な証拠の隠匿があるということはできないと解するのが相当である
・・・したがって、国の指定代理人らにおいて、証拠の違法な隠匿があったとは認められない。

3 一般事故調査結果は、艦長ないしその上位機関である護衛艦隊司令官の掌握するたちかぜ乗員の服務事故につき、その調査の客観性を高めるために横須賀地方総監部に設置された事故調査委員会が調査した結果をまとめたものであって、国の指定代理人が本件訴訟における被告の立場において行う主張立証が、必ずそれに一致しなければならないものではない。そして、自殺の原因を「風俗通いによる多額の借財」と推論する国の主張については、たちかぜの乗員の供述やXの携帯電話の着信履歴などを根拠としており、その信用性の有無や推論の是非はともかく、主張の根拠を欠くものであったとまではいうことができない。その他本件訴訟における国の主張等をみても、指定代理人らにおいて、その主張が事実的、法律的根拠を欠くことを知りながら、又は容易にそのことを知り得たのに、あえてそれを行ったなど、違法な主張立証その他の訴訟活動があったと認めることはできない
したがって、国の訴訟活動について、国家賠償法ないし不法行為法上の違法があったとは認められない。

国の訴訟活動については違法性がないと判断されています。

もっとも、「乙43号証メモ」等を行政文書の情報開示請求の特定の手続において特定せず、隠匿したことが国会賠償法1条の違法であるとして、20万円の慰謝料が認容されています。