Monthly Archives: 9月 2014

有期労働契約50(国立がん研究センター事件)

おはようございます。 今週も一週間お疲れ様でした。

さて、今日は、期間の定めのある看護助手の雇止めに関する裁判例を見てみましょう。

国立がん研究センター事件(東京地裁平成26年4月11日・労経速2212号22頁)

【事案の概要】

本件は、Y社との間で期間の定めのある雇用契約を締結していたXが、Y社が行った、雇用契約を更新しない旨の意思表示の効力を争い、Y社に対し、①労働契約上の地位確認、②上記雇用契約の期間満了日の翌日から判決確定の日までの賃金の支払を求める事案である。

【裁判所の判断】

請求棄却

【判例のポイント】

1 まず、XがY社に雇用されてからの再雇用の回数が1回、勤続年数が2年間にとどまることからすれば、本件雇用契約が、期間の定めのない契約と実質的に異ならない程度のものであったと認めるには足りない

2 また、看護助手の業務及び勤務時間が週31時間と短時間に設定され、昇給等の制度がないという常勤職員との条件面の差に照らせば、Y社は、看護助手については、その業務内容が広く一般の者に代替可能なものであることを前提に、看護助手の確保は専ら非常勤職員の雇用として行うべきであるとし、その方針を全うするため、任期は1年間とし、再度の雇用を前提としていない旨、看護助手らに対して明示的に説明をしてきたということができる。こうした状況下においては、Xが、任期満了後の雇用契約の継続(再雇用)を期待することに合理的な理由があるということはできないと言わざるを得ない。

3 Xは、Y社の非常勤職員就業規則では、非常勤職員は1年間で必ず退職するとは定められておらず、再び採用されることがある旨規定されていることをもって、雇用契約の更新が繰り返されることを期待していた旨主張する。しかし、非常勤職員を再度雇用することがあるとしても、その際に行われる任用審査が形式的なものではなかったことを踏まえると、上記期待に合理的な理由が認められるとまではいえない

4 以上のとおり、本件雇用契約について、期間の定めのない契約と実質的に異ならないともいえず、任期満了後の雇用契約の継続(再雇用)を期待することが合理的であるともいえないのであるから、本件雇止めには、解雇権濫用法理を類推適用する余地はない。

本件は、上記判例のポイント2のとおり、非常勤職員と常勤職員との間で業務内容や労働条件の差が明確であったため、両者を同一視されずにすみました。

逆に言うと、両者の差が形式的なものにすぎない場合には、当然、結論は異なり得ます。

参考にしてください。

日頃から顧問弁護士に相談しながら適切に労務管理を行うことが大切です。

本の紹介359 あなたの夢はなんですか? 私の夢は大人になるまで生きることです。(企業法務・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。
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←先日、大手ハウスメーカーに勤める同級生と紺屋町にある「オルガニコ」に行ってきました。

写真は、「骨付き鶏肉のコンフィのグリル」です。

表面はカリッカリで、中はジューシーに調理されており、ワインにとてもよく合います。

久しぶりに行きましたが、おいしゅうございました。

今日は、午前中は、新規相談が1件、交通事故の裁判が1件です。

午後は、新規相談が2件、慰謝料請求の裁判が1件入っています。

今日も一日がんばります!!

さて、今日は本の紹介です。
あなたの夢はなんですか?

著者は、NGO沖縄アジアチャイルドサポート代表理事の方です。

著者は、長年、フィリピン、ベトナム、タイなどのアジアの貧困地域、スラム街などの子どもを支援する活動を行ってきた方です。

帯には、「いま子どもに読ませたい本 No.1」と書かれていますが、大人も読むべき本です。

とてもいい本だと思います。 是非読んでみて下さい。 おすすめです!

さて、この本で「いいね!」と思ったのはこちら。

・・・十六歳の少女ウーガンが大学生たちを見て、『私も勉強したい』と泣きだしたことを伝えると、学生たちはショックを受けました。いくらでも学ぶことができる環境にありながら、日々なんとなく学校に通う自分たちの生き方を反省したようです。日本の学生たちは親が金を出すからしょうがなく学校に行っていると言います。そんな学生がモンゴルの子どもたちを見ると変わっていきます。『自分の情けなさに気づいた』と誰もが言います。これでいいのかと自分を問いつめるようになるのです。」(159~160頁)

今の置かれている環境を「当たり前」だと考えてしまうのは、誰だって一緒です。

でも、本当は当たり前なんかじゃないってことを、自分とは違う環境で生きている人と出会うことで知ります。

必死になって勉強ができるって、本当に幸せなことです。

勉強することで、自分に力がつき、世界が広がり、社会の役に立てる。

こんなに幸せなことはありません。

きれい事ではなく、本当にそう思います。

モノを知ることで、これまで見てきた世界とは別の世界が見えてくるっていう感覚、伝わりますか?

限られた人生の中で、できるだけ多くのことを学びたいと思うのは、もう本能に近いんじゃないですかね。

今、置かれているこの環境に感謝し、これからもずっと勉強を続けていくのだと思います。

労働災害77(K社事件)

おはようございます。
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←先日、紺屋町にある「すがい 紺屋町店」に行ってきました。

写真は、しょうゆラーメンとまぐろ丼のセットです。

個人的にはとんこつよりもしょうゆの方が好きです。

チャーシューがおいしくなりましたね!

おいしゅうございました。

今日は、午前中は、富士の裁判所で会社関係の裁判が2件入っています。

午後は、不動産関係の裁判が2件、新規相談が1件入っています。

今日も一日がんばります!!

さて、今日は、退社して約6か月後、くも膜下出血により死亡した従業員の遺族の損害賠償請求に関する裁判例を見てみましょう。

K社事件(東京高裁平成26年4月23日・労経速2214号3頁)

【事案の概要】

本件は、Y社の経営するレンタルビデオ店に従業員として勤務していたXが、Y社を退社してから約6か月後の平成12年9月8日に自宅でくも膜下出血を発症して死亡した原因は、Y社における過重労働にあるとして、Xの両親が、Y社に対し、債務不履行(安全配慮義務違反)に基づく損害賠償として、それぞれ4134万9325円及び遅延損害金の支払いを求めた事案である。

原審(さいたま地裁平成25年3月28日)は、Y社の安全配慮義務違反とXの死亡との間に相当因果関係は認められないとしたが、Y社の安全配慮義務違反によりXが肉体的負担及び精神的負担を伴う過重労働に従事させられ精神的損害を被り、その慰謝料として120万円が相当であると判断した

これに対して、当事者双方が控訴した。

【裁判所の判断】

第1審原告らの請求をいずれも棄却する。

【判例のポイント】

1 Xは、Y社に在籍していた間、平成10年8月4日及び平成11年8月19日にY社の健康診断を受診したが、・・・特に異常は認められなかったことも前記説示のとおりであり、Xが川口2号店勤務になってから健康上の理由で医師の診察を受けたことをうかがわせる証拠もなく、XがY社に在籍していたときに健康を害したと認めるに足りる証拠はない。また、Y社における過重労働による蓄積疲労が3か月間の自宅休養においても回復しないようなものであったと認めることができないことは前記説示のとおりである。そして、Xは、平成11月12月頃、Y社を退社する決意を固めたが、Y社からの依頼に応じて、平成12年1月頃から同年3月15日まで一般社員として勤務しており、XがY社における過重労働によって、Y社における以後の勤務の継続が困難になるような健康状態あるいは精神状態に陥ったと認めることもできない

2 そうすると、少なくともXが川口2号店勤務になってからの労働は、Xにとって過重労働であったと認められるが、それによってXに慰謝料をもって賠償すべき精神的損害が発生したとまでは認めることができないといわざるを得ない。
そして、慰謝料をもって賠償すべき精神的損害の発生が認められない以上、Y社がXを過重労働に従事させたことを理由とするXらの慰謝料請求は、不法行為に基づくものも、債務不履行に基づくものも、その余の点について判断するまでもなく、いずれも理由がない

3 なお、Y社においては、Xが勤務していた当時、労働基準法36条により従業員に時間外労働をさせる場合に締結しなければならないと定められているいわゆる36協定を締結しておらず、Xに対して法定労働時間を超える労働をさせることは、労働基準法に違反し、刑事罰の対象ともなり得るものであるが、そのような労働であったからといって、直ちにXに慰謝料をもって賠償すべき精神的損害の発生が認められることにはならない

原審が、原告の請求の一部を認めたのに対し、高裁は、すべての請求を棄却しました。

過重労働の事実は認めつつも、それは不法行為とまではいえないという判断です。

なお、上記判例のポイント3のとおり、労働事件の訴訟では、36協定を締結していないという事実は、あまり重要視されません(だからといって結ばなくてもいいというわけではありません。誤解なきように。)。

 

本の紹介358 振り切る勇気(企業法務・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。
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←先日、ご近所の「雪有圭」に行ってきました。

写真は、「黒むつときんきの炙り」です。

ほんの少しあぶるだけで、味がしまります。

いつもおいしゅうございます。

今日は、午前中は、証人尋問の準備です。

午後はずっと、富士の裁判所で労働事件の裁判で証人尋問です。

今日も一日がんばります!!

さて、今日は本の紹介です。
振り切る勇気 メガネを変えるJINSの挑戦

JINSの田中社長の本です。

これまでの出来事を振り返った本です。

現在の成功の裏に、さまざまな苦労があったのだなあ、ということがわかります。

さて、この本で「いいね!」と思ったのはこちら。

・・・すべてがいまの僕に必要な、強烈な薬になったが、何よりも僕を揺さぶったのは『志のない会社は、継続的に成長できない』という柳井さんの言葉だった。
志-。僕の経営に志はあっただろうか。志がないまま、ただ『もうかるから』と事業を拡大してきたのではないか。徹底的に、自分の足りないところを突きつけられたという気分だった。」(80頁)

これは、田中社長が、会社の経営が不振だった頃、ユニクロの柳井会長に会い、話をしたときのエピソードです。

ずっと順調で、苦しんだ経験がない会社はないのではないでしょうか。

現在、成功している会社でも、過去に失敗や挫折を経験しているものです。

さまざまな経験を経たからこそ、今があるとも言えます。

失敗や挫折をしたときに、何を感じ、何を得たかによって、その後の人生や仕事が変わってくるのだと思います。

田中社長にとっては、それが柳井会長の言葉だったのかもしれません。

解雇151(ベストFAM事件)

おはようございます。 

さて、今日は、営業社員に対する成績不良等を理由とする解雇に関する裁判例を見てみましょう。

ベストFAM事件(東京地裁平成26年1月17日・労判1092号98頁)

【事案の概要】

本件は、平成24年1月24日にY社との間で雇用契約を締結し、同年3月6日にY社を退職したXが、上記雇用契約は期間の定めのない契約であり、かつ、Xの退職はY社の不当解雇によるものであって無効である旨を主張し、Y社に対し、雇用契約上の権利を有する地位にあることの確認及び上記退職後の賃金の支払を求めた事案である。

【裁判所の判断】

解雇は無効

【判例のポイント】

1 Xは、ハローワークの求人票の記載等から期間の定めのない正社員として採用されたと考えていたため、本件契約締結の際に雇用期間が有期とされていたことに不満を持ったものの、雇用期間が1年近くあることや成績をあげれば雇用期間に関係なく正社員になれると聞いたことなどから、本件雇用契約書記載の雇用期間の有期雇用契約であることを了解した上で本件契約を締結したものと認めることができる。
他方、Y社の本件訴訟における主張内容、本件訴訟に先立つ労働審判手続においてY社が提出した答弁書における主張内容、Y社の就業規則における採用期間についての定め及び弁論の全趣旨によれば、Y社が、期間の定めのない雇用契約における試用期間と有期雇用契約における雇用期間とを混同して本件契約を締結したと認める余地もあり得ないではない。しかし、…Y社は、平成24年1月24日の本件契約締結時において当初から期間の定めのない雇用契約を締結する意図ではなく、Y社から別途意思表示をしない限り定められた期間の経過により雇用契約が終了するものとして本件契約を締結したと認めるのが相当であるから、Y社の認識としても有期雇用契約として本件契約を締結したものと認められる
以上のとおり、本件契約時にはX及びY社のいずれも有期雇用契約として本件契約を締結するという認識であったと認められる。

2 確かに、Xは営業職としてY社に採用されながら、入社後、本件解雇までの間に、新規の契約を1件も締結することができなかったことは、当事者間に争いがない。しかし、本件解雇の時点では、XがY社で就業し始めてからまだ1か月半程度しか経過していないのであり、その間、新規の契約を1件も締結することができなかったことをもって直ちにXの勤務状況や業務能率が上記のような状況であったことを裏付ける事情は本件全証拠によっても認められないから、Y社の就業規則42条1項1号及び2号の解雇事由に該当する事実があると認めることはできないというべきであり、他に、Y社の就業規則で定める解雇事由に該当する事情の存在を認めるに足りる証拠はない。
よって、本件解雇は、客観的に合理的な理由を欠くものと認められるから、労働契約法16条により解雇権の濫用に当たり無効であるというべきである。

入社してわずか1か月半程度で、従業員の能力が不足していると判断するのは明らかに早計です。

結果、このような判決が出ても文句は言えません。

解雇を選択する前には必ず顧問弁護士に相談の上、慎重かつ適切に対応することが肝心です。決して、素人判断で進めないようにしましょう。