Daily Archives: 2014年7月18日

労働時間37(八重椿本舗事件)

おはようございます。 

さて、今日は、化粧品等販売会社従業員に対する雇止めに関する裁判例を見てみましょう。

八重椿本舗事件(東京地裁平成25年12月25日・労判1088号11頁)

【事案の概要】

本件は、Xが、Y社に対して、①未払の早出出勤(始業時刻前の出勤)手当、休日出勤手当、賞与の支払いを求めるとともに、労働基準法114条に基づく付加金の支払いを求める事案、②不法行為に基づいて、未払の早出出勤手当、残業手当、休日出勤手当、賞与相当額の損害賠償を求める事案、③主位的には正社員を定年退職した後に嘱託社員としての地位を有することの確認を求め、予備的には期間雇用の契約社員としての地位を有することの確認を求めるとともに賃金と遅延損害金の支払いを求める事案、④Xが発明考案したにもかかわらず、Y社がXの了解を得ずに公開技報(自分の発明の権利化を希望しないが、他人に権利化されることを防止したい者が、自分の発明内容を公表するための刊行物)に公開したため、Xが特許申請をすることができなくなった一方、Y社がXの発明を導入し不当に利得を得ているとして、不当利得の返還を求める事案である。

【裁判所の判断】

Y社はXに対し、残業手当として12万9722円+付加金として同額を支払え

その余の請求は棄却

【判例のポイント】

1 そもそも、労働基準法上の労働時間に該当するか否かは、労働者が使用者の指揮命令下に置かれたものと評価することができるか否かにより客観的に定まるものであり、使用者の指揮命令下にあるか否かについては、労働者が使用者の明示又は黙示の指示によりその業務に従事しているといえるかどうかによって判断されるべきである。
そして、終業時刻後のいわゆる居残残業と異なり、始業時刻前の出社(早出出勤)については、通勤時の交通事情等から遅刻しないように早めに出社する場合や、生活パターン等から早く起床し、自宅ではやることがないために早く出社する場合などの労働者側の事情により、特に業務上の必要性がないにもかかわらず早出出勤することも一般的にまま見られるところであることから、早出出勤については、業務上の必要性があったのかについて具体的に検討されるべきである

2 本件では、Y社の始業時刻は8時30分であるところ、Xは常にそれよりも1時間も早い、7時30分前後に出社していたとのことであるが、そもそも1時間も早く職場に来る必要性があったことを認めるに足りる証拠はない。また、X自身、タイムカード打刻後、食堂でいろいろと話をすることがあったとか、常時やらなければならない仕事があったわけでもないと述べている(X本人)。さらに、Y社は、平塚労基署からXの上長が早出出勤しているときは、早出出勤の必要性があったとして、早出出勤分の残業代を支払うよう指導を受け、これに従い、6万0340円の時間外手当を支払っている。
そうすると、Xが残業代を請求している早出出勤については、労働時間に該当すると認めるに足りる証拠はないものといわざるを得ず、Xの請求は認められない。

3 2年の短期消滅時効(労働基準法115条)にかかる早出出勤手当、残業手当、休日出勤手当、賞与相当額を不法行為に基づいて請求するについては、Xにおいて、Y社の不法行為の内容、それによってXのいかなる権利が侵害され、Xがいかなる損害を被ったのか、不法行為と損害との因果関係の存在、Y社の故意又は過失を主張立証する必要がある
ところで本件においてXは、・・・単なる時間外割増賃金の債務不履行を述べているだけであって、不法行為責任の発生根拠について具体的な主張立証がなされているとは認めがたい。・・・以上からすると、Xの不法行為に基づく損害賠償請求は認められない。

使用者側は、早出出勤について労基法上の労働時間性が争点となった場合には、上記判例のポイント1の視点を明確に主張すべきです。

タイムカードの打刻時間をそのまま労働時間算定の証拠とされないようにしなければなりません。

労働時間に関する考え方は、裁判例をよく知っておかないとあとでえらいことになります。事前に必ず顧問弁護士に相談することをおすすめいたします。