おはようございます。
さて、今日は、元従業員による退職金等請求に関する裁判例を見てみましょう。
豊商事事件(東京地裁平成25年12月13日・労判1089号76頁)
【事案の概要】
本件は、Y社を退職したXが、①Y社の退職年金規程に基づく退職金の請求ならびに②時間外労働および休日労働を行ったことによる同各手当の請求を行ったところ、Y社が①XにはY社の退職年金規程の適用がなく、また、XとY社との間には退職金不支給の合意があること、②時間外労働および休日労働の事実が認められず、また、Xは労基法41条2号の管理監督者に該当すること、からいずれの請求にも応じられないとして争った事案である。
【裁判所の判断】
Y社はXに対し、合計約178万円を支払え
【判例のポイント】
1 Xについては、嘱託雇用契約締結の期間を除いても、平成3年6月24日から平成21年8月30日までの18年間という長期間にわたりY社に勤務しており、退職金請求権の法的性質における賃金の後払的性格や功労報償的性格が当然考慮されるべき期間就労していると評価できる。また、本件ではX・Y社間では1年ごとの契約更新に関する何らかの手続がなされた形跡はなく、社員台帳記載の各辞令や賃金減額の経緯も契約更新の事実と関連するものではない。そうすると、X・Y社間の平成3年6月24日から平成21年8月30日までの間の労働契約は期間の定めのない労働契約としての評価をするのが相当であるから、退職年金規程第3条の「嘱託」の類推適用によりXに同規程の適用がないとの解釈も採用できない。
2 Y社は、Xの採用条件は、年収1200万円で月額100万円、嘱託扱いの雇用、退職金及び賞与はなし、基本的に1年契約であるが株式公開までの期間は契約の存続を見込む、という内容で合意したと主張し、証人Kは、平成3年の5月か6月ころだったと思うが、当時E證券に勤務していたLがY社の会長室にXを連れてきたこと、DからLとXの紹介を受け、その際、DからXの上記採用条件に関する説明がなされたこと、これに対しXは特に反論する様子もなく納得している様子だったことを供述する。
しかし、Lの電話録取報告書によると、LはXをKに紹介したのみでX・Y社間の契約に一切関与していないこと、XはLとKとは入社前に面識がなく、採用条件の説明はY社のM常務から受けた旨述べていること、Y社の代表取締役の立場にある者がXの採用条件の詳細を部下に相談せずに単独で決定したとするのはやや不自然であること、株式会社Cでの待遇との比較では、Y社のXに対する待遇が必ずしも好待遇とまではいえず、XがGの誘いをいったん断った経緯にも鑑みると、Dの上記採用条件に関する話に対してXが特に反論する様子もなく納得したと理解するには疑問が残ること、から証人Kの供述を採用することはできない。
上記判例のポイント1の解釈のしかたは、参考になりますね。
退職金の法的性質と実際の勤務状況、契約更新の態様などから考えると、退職金不支給とする解釈はとりえないということです。
日頃から顧問弁護士に相談しながら適切に労務管理を行うことが大切です。