賃金76(医療法人衣明会事件)

おはようございます。

さて、今日は、ベビーシッターの家事使用人該当性と割増賃金等請求に関する裁判例を見てみましょう。

医療法人衣明会事件(東京地裁平成25年9月11日・労判1085号60頁)

【事案の概要】

本件は、Y社に雇用され、その代表者個人宅でベビーシッター等の業務を行っていたXらが、Y社に対して、主位的に、解雇無効による地位確認と未払給与、時間外割増賃金、付加金の支払いを求め、予備的に、不法行為に基づき、同額の損害賠償を求めている事案である。

【裁判所の判断】

1 Xらは労基法の適用除外となる家事使用人とは認められない

2 Y社はX1に対し、461万8040円+遅延損害金(6%)、191万8040円の付加金+遅延損害金(5%)、平成22年5月から本判決確定の日まで毎月30万円+遅延損害金(6%)を支払え

3 Y社はX2に対し、202万8243円+遅延損害金(14.6%)、187万8243円の付加金+遅延損害金(5%)を支払え

【判例のポイント】

1 事使用人について、労働基準法の適用が除外されている趣旨は、家事一般に携わる家事使用人の労働が一般家庭における私生活と密着して行われるため、その労働条件等について、これを把握して労働基準法による国家的監督・規制に服せしめることが実際上困難であり、その実効性が期し難いこと、また、私生活と密着した労働条件等についての監督・規制等を及ぼすことが、一般家庭における私生活の自由の保障との調和上、好ましくないという配慮があったことに基づくものと解される。しかしながら、家事使用人であっても、本来的には労働者であることからすれば、この適用除外の範囲については、厳格に解するのが相当である。したがって、一般家庭において家事労働に関して稼働する労働者であっても、その従事する作業の種類、性質等を勘案して、その労働条件や指揮命令の関係等を把握することが容易であり、かつ、それが一般家庭における私生活上の自由の保障と必ずしも密接に関係するものでない場合には、当該労働者を労働基準法の適用除外となる家事使用人と認めることはできないものというべきである。

2 Xらの労働条件は、労働契約書によって明確に規定されており、その勤務態様も、3人体制又は4人体制で2交替制又は3交替制で行われ、労働基準法上の労働時間を意識した1コマ8時間という単位のシフト制を用いて組織的に行われていたものであり、とりわけ、その労働時間管理については、タイムカードにより管理されており、医療法人であるY社を介して給与支払に反映されていたのであって、Xらの労働条件や労働の実態を外部から把握することは比較的容易であったということができ、Xらの労働が家庭内で行われていることにより、そうした把握が特に困難になるというような状況はうかがわれない。さらに、Xらベビーシッターに対する指揮命令は、子の親であるA夫妻が主として行っていたが、各種マニュアル類の整備がされ、連絡ノートの作成や月1回程度の会議も行われており、そうした指揮命令が、専ら家庭内の家族の私生活上の情誼に基づいて行われていたともいい難い。
そうすると、Xらについては、その労働条件や指揮命令の関係等を外部から把握することが比較的容易であったといえ、かつ、これを把握することが、A家における私生活上の自由の保障と必ずしも密接に関係するものともいい難いというべきであるから、Xらを労働基準法の適用除外となる家事使用人と認めることはできないものというべきである。

3 Y社は、同じ時間に2人のベビーシッターは不要であるから、Xらに割り当てられたコマの時間帯の前後については、タイムカードに記載があったとしても、単にA家に在留していたにすぎず、業務に従事していた時間ではない旨を主張する。
しかしながら、Xらベビーシッターは、自らに割り当てられたコマの担当時間の前後においても、子から離れて行わなければならない業務や子の業態に関する引継ぎ等を行っていたものであるから、その担当時間の前後におけるXらの業務が存在しなかったなどとはいえないのであり、タイムカードに記載された担当時間の前後の時間には一切の業務を行っていなかったなどとは認め難いのであって、Xらの実労働時間は、Y社にも提出され、Y社がその内容を把握していたタイムカード記載の出退勤時間によって認定することができるというべきである。

4 Y社は、Xらと合意した勤務時間には、午後10時から午前5時までのいわゆる深夜帯にかかるコマの割り当てがあったから、深夜労働についての割増賃金は、30万円の基本給に含まれることが当然の前提とされていた旨を主張する。
しかしながら、深夜労働に対する割増賃金は、労働基準法37条4項に基づき、使用者に支払義務が課せられるものであり、労働基準法所定の深夜労働割増賃金が既に支払済みであるか否かを判断するためには、基本給月額30万円のうちのどの部分が何時間分の深夜労働の割増賃金に当たるものとして合意されているかが、明確に区別されていなければならないことは明らかである。合意した労働契約において深夜労働が予定されているから、その割増賃金部分が当然に基本給に含まれているなどという主張は、およそ深夜労働があっても、基本給以外には割増金を支払わない旨を合意したから、割増賃金の支払義務がない旨を述べることと同趣旨のものにすぎず、これを採用することができないことは明らかである。

労基法116条2項には、「この法律は、同居の親族のみを使用する事業及び家事使用人については、適用しない」と規定されています。

この規定の解釈が争点となる事例というのは多くありません。 参考になりますね。

「例外規定の厳格解釈」というルールからすれば、家事使用人の範囲を狭めることは当然といえるでしょう。

また、深夜労働に関する上記判例のポイント4は、基本的なことですが、裁判でよく争いになるところですので、参考にしてください。

日頃から顧問弁護士に相談しながら適切に労務管理を行うことが大切です。