Daily Archives: 2014年5月15日

解雇138(学校法人A学院ほか事件)

おはようございます。

さて、今日は、女性教員へのわいせつ行為等を理由とする懲戒解雇の有効性に関する裁判例を見てみましょう。

学校法人A学院ほか事件(大阪地裁平成25年11月8日・労判1085号36頁)

【事案の概要】

本件は、同僚の女性教員であるAに対して車中で暴行を加え、わいせつ行為を行ったとして、Y社から懲戒解雇されたXが、Y社に対し、当該懲戒解雇が無効であるとして、労働契約上の権利を有する地位にあることの確認並びに懲戒解雇後の平成23年4月1日から毎月21日限り48万7500円の未払賃金及び遅延損害金を求めるとともに、懲戒解雇が不法行為に当たるとして損害賠償金550万円及びこれに対する遅延損害金の支払を求め、更に、Aに対し、同人がY社に対して虚偽の被害申告を行ったことにより精神的損害を被ったとして、損害賠償金330万円及び遅延損害金の支払いを求めた事案である。

【裁判所の判断】

懲戒解雇は無効→賃金支払

AはXに対し、88万円を支払え

【判例のポイント】

1 Aは、一見すると交際があったかのような関係になっていたのは、期限付き専任講師であるXは、正社員であり先輩であるXとの間で男女間のトラブルが発生した場合、弱い立場であるAがトラブルメーカーとして学校から排除されるのではないかとの恐れがあったため、穏便に済ませたいと考えていたが、Xは、Aの立場を考慮することなく、執拗にメールや電話で会うことを迫ったためである旨主張しているが、AがXに対して好意を抱いており、むしろ、Xに対してAとの交際を明言するよう求めていたことは、メールの内容から認められること、Aは平成22年7月に同僚のH教諭や教育委員会にXから暴行を受けたことを相談しているが、その時点でも正社員と期限付き専任講師という関係は変わりないことから、Aの主張は採用することができない。

2 以上によれば、Aの供述は、核心部分である暴行の態様について供述が一貫しておらず、また、同人の述べる暴行の態様は、平成21年9月23日以降のAの言動とも整合しないので、全面的に信用することはできない。もっとも、Xが非公式の事情聴取において「暴力にあたるような平手打ちをしたことはないです」などと述べていたことからするとXがAに対して平手打ちをしたとの事実を認めることができ、また、質問の流れからするとXは本件ドライブの日に平手打ちをしたことを認めたとも解されるが、平手打ちをしたことはあるかとの質問自体は日時を限定して尋ねておらず、質問者自身、直後に他の日のこととして答えた可能性を否定することはできず、XがAに対して平手打ちをした日が同日であることを認めるに足りる証拠はない

3 そうすると、XがAに対して平手打ちをしたとの事実を認めること及びXが平成21年9月22日に自動車内で胸を触るなどの行為を行ったとの事実を認めることはできるが、Xが同日に自動車内で暴行を加えたとの事実を認めるに足りる証拠はないから、本件懲戒解雇は、解雇事由を認めるに足りる証拠はなく、その余の点について判断するまでもなく、無効である。

4 Aによる虚偽の申告は、Xの雇用主であるY社に対するものであり、また、Xが無理矢理肉体関係を強要したことを内容とするものであるから、Xの名誉を著しく毀損するとともに、Xが職を失う危険を生じさせるものであって、悪質であるというほかなく、また、懲戒手続自体は非公開ではあるが、現在まで同様の主張を維持していることにより、Xの名誉に与えた悪影響も軽視できない。・・・これらの事情等を総合考慮すると、慰謝料は80万円、弁護士費用は8万円と認めるのが相当である

虚偽申告により、懲戒解雇に追い込まれたとしても、裁判所が認定する慰謝料の金額はこの程度です。

不貞行為による慰謝料よりはるかに低額です。

また、このような事案(セクハラ・パワハラ事案)の場合、被害者とされる従業員から被害の申告があった場合、会社としては、対応しないわけにはいきませんから、調査をすることになります。

その際、決して、当事者の一方のみの事情聴取から判断するのではなく、両当事者から事情聴取をする必要があります。 会社は中立公平な立場から客観的に懲戒事由の有無を判断すべきです。

解雇を選択する前には必ず顧問弁護士に相談の上、慎重かつ適切に対応することが肝心です。決して、素人判断で進めないようにしましょう。