おはようございます。
さて、今日は、看護師らによる未払賃金等請求と反訴損害賠償請求に関する裁判例を見てみましょう。
医療法人光優会事件(奈良地裁平成25年10月17日・労判1084号24頁)
【事案の概要】
本件第1事件は、診療所を経営するY社に雇用されて正看護師として勤務していたX1と、同じく事務員として勤務していたX2が、Y社に対し、①Y社に解雇されるまでの未払賃金と立替金の支払、②解雇予告手当の支払い、③違法な業務(医師によらない診療録の作成や処方箋の発行など)を行うクリニックで勤務させられたことや些細な事柄で怒鳴りつけられるというパワハラを受け、精神的苦痛を受けたなどとして慰謝料の支払い、③解雇予告手当金と同額の付加金の支払命令を求めた事案である。
第2事件は、Y社が、X1に対し、X1がY社の業務命令に従わず職務放棄したことにより、Y社が計画していた訪問看護サービスの実施が不可能になり損害を被ったなどと主張して、債務不履行もしくは不法行為に基づく損害賠償請求または使用者の被用者に対する求償権行使として損害金等の支払を求めた事案である。
【裁判所の判断】
Y社に対し、X1・X2への未払賃料、解雇予告手当、付加金を支払え
Y社は、X1・X2に対し、慰謝料として各50万円の支払え
Y社の請求は棄却
【判例のポイント】
1 ・・・そもそも解雇処分後に給与減額処分はなし得ないところであるし、また、違法のおそれのある業務命令を拒否したことが違法な業務命令拒否であるとも、解雇処分後の離職を職務放棄であるとみることもできないのであって、X1に懲戒処分事由があるとも認められないから、Y社の主張は理由がない。
2 Y社は、経営危機を理由に、職員の平成24年9月分、10月分給与を減額することとし、X2の同年9月分給与も20%減額とすることを決定した旨主張する。しかし、労働者に不利益な労働条件を一方的に課することは、原則として許されないところ、本件全証拠によるも、X2が給与の減額に同意したことを認められないし、また、当該労働条件の不利益変更が合理的なものであることを認めるに足りず、ほかにこれを認めるに足りる証拠はないのであって、Y社の上記主張は理由がない。
3 Xは、看護師として、クリニックAで行われていた上記のとおりの違法な業務に関与するおそれのある職場環境に置かれていたと認められるのであり、また、設立要件を満たしていないおそれがある訪問看護ステーションの設立及び違法な聞き取り診療を指示されるおそれのある訪問看護の実施を命じられ、かつ違法な業務命令を拒否したところ不当な解雇を受けたものと認められる。
以上を総合考慮すれば、Y社の上記違法行為によりX1が受けた精神的苦痛を慰謝するものとして、X1には慰謝料50万円を認めるのが相当である。
4 X1は、Y社により解雇されたものであり、Y社の正当な業務命令を拒否して職務を放棄したものとは認められない。したがって、その余の点について判断するまでもなく、Y社のX1に対する債務不履行又は不法行為を理由とする損害賠償請求は理由がない。
解雇処分後に賃金の減額ができないことは当然です。雇用関係が消滅しているのですから。
また、解雇事案で、賃金の支払のほかに慰謝料が認められるケースは、それほど多くありません。
今回のケースは、解雇が無効であるということのほかに、違法な業務に従事させられたという特殊な事情があったため、慰謝料が認められています。
日頃から顧問弁護士に相談しながら適切に労務管理を行うことが大切です。