Daily Archives: 2014年5月7日

労働者性10(東陽ガス事件)

おはようございます。 

さて、今日は、LPガスボンベ配送・保安点検業務従事者の労働者性に関する裁判例を見てみましょう。

東陽ガス事件(東京地裁平成25年10月24日・労判1084号5頁)

【事案の概要】

本件は、Xらが、Y社に対して、(1)主位的請求として、雇用契約に基づく賃金(月例22万円)が未払であるとして、その支払いを求め、(2)予備的請求として、①Y社がXらの賃金から差し引いた貸付金部分についてかかる差引きを行うことは労働基準法27条に反するなどとして不当利得金の返還を求めるとともに、Y社を退職したXらの未収金債務について労基法27条に反する無効なものであるなどとして債務の不存在確認を求め、②Y社がXらとY社間の契約の性質を曖昧にしたままXらの労基法上の保護を形骸化してきたなどとして、不法行為に基づいて損害賠償を求める事案である。

【裁判所の判断】

主位的請求は棄却

予備的請求については、一部認容(不当利得金の返還、債務不存在を認容)

【判例のポイント】

1 Xらは、いずれもY社との間で「雇用契約書」を作成して本件契約を締結していることに加えて、Y社は、配送員を募集する際、配送員が社員として雇用される旨の表示を行っていること、Xらには、毎月「給与明細書」が交付され、本件契約の対価からは、社会保険料や税金が源泉徴収されており、本件契約が「雇用契約」であることを前提とした扱いがなされてきたといえる。・・・らとの契約関係が雇用契約であるとして、貨物自動車運送事業法の特定貨物自動車運送事業者として同法の許可を得て、事業を継続する利益を得てきたY社が、本件において、Xらとの契約が「雇用契約」でないと主張することは、背理であるといわざるを得ない。

2 労働者とは、使用者に使用されて労働し、賃金を支払われる者であり(労働契約法2条1項、労基法9条)、労働者性の有無は使用従属性の有無によって判断される。使用従属性の判断にあたっては、①指揮監督下の労働といえるか否かについて、仕事の依頼、業務従事の指示等に対する諾否の自由の有無、業務遂行上の指揮監督の有無、勤務場所・勤務時間に関する拘束性の有無、代替性の有無等に照らして判断され、②報酬の労務対償性について、報酬が一定時間労務を提供していることに対する対価といえる場合には、使用従属性を補強するものとされ、①、②の観点のみでは判断できない場合に、③事業者性の有無(機械・器具の負担関係、報酬の額、損害に対する責任等)、専属性の程度等が勘案される

3 Y社は、Xらに対し、業務用携帯端末でLPガスボンベの配送先と配送本数を配信し、配送費売上げの中から、車両代、燃料代、車両修理費等の車両経費及び月額3万9000円の管理費を差し引き、これが22万円を超えるときはその超過額を「歩合給」として上乗せして支払う一方、22万円に達しないときは、その不足額については、翌月以降の配送費売上げから差し引いている
そもそも、労基法27条は、「出来高払制その他の請負制で使用する労働者については、使用者は、労働時間に応じ一定額の賃金の保障をしなければならない。」と規定し、同条に違反した場合は、罰則規定が設けられている(労基法120条1項1号)。
労基法27条の趣旨は、出来高払など仕事の量に賃金を対応させる労働形態は、仕事の単位量に対する賃金率を不当に低く定めることにより労働者を過酷な重労働に追いやったり、一定量の仕事がなされなければ仕事の全部を未完成とみなして全く賃金を払わないなどの弊害があることを踏まえ、賃金を労働時間ではなく完遂した仕事の量や成果によって支払う出来高払等の雇用契約について、労働時間を単位として算定した賃金の一定額を、使用者に最低保障給として定めさせるものである。そして、労基法27条では「労働時間に応じ一定額の賃金の保障をしなければならない。」とされていることから、同条で使用者が定めるべき保障給とは、時間給である。

4 ・・・したがって、車両経費など本来使用者が負担すべき費用を労働者であるXらの負担とした上で、月額3万9000円の管理費をさらに負担させ、Xらの配送費売上げが22万円及び当月経費の合計額に満たない場合はその差額を労働者であるXらの負担として債務に計上することは、労基法27条の趣旨に反するものであって、本件契約もこの限度では公序良俗に反するものとして無効といわなければならない。

労基法上の労働者性に関するオーソドックスな裁判例です。

また、それとは別に、労基法27条の適用が争点となっている珍しい事案です。

労働者性に関する判断は本当に難しいです。業務委託等の契約形態を採用する際は事前に顧問弁護士に相談することを強くおすすめいたします。