おはようございます。
さて、今日は、上司による暴行および支配行為に対する損害賠償請求に関する裁判例を見てみましょう。
C社事件(大阪地裁平成25年6月6日・労判1082号81頁)
【事案の概要】
Xは、平成21年3月から平成23年6月27日付けで退職するまで、Y社の従業員として雇用されていた者である。
Xは、上司であったAから胸部を拳で殴るなどの暴行を受けたり、「預かる」と称して運転免許証や携帯電話を提出させるなどの支配的行為を受けたとして、Y社らに対し、損害賠償を求めた事案である。
【裁判所の判断】
A及びY社に対し、連帯して23万0140円の支払いを命じた
【判例のポイント】
1 そもそも使用者が従業員に対し所持品検査を行うことは、業務上の不正防止等、企業の経営維持にとって必要とされる場合であっても、当然に適法視されるものではなく、それを必要とする合理的理由があって、就業規則等の根拠に基づき、一般的に妥当な方法と程度で、職場の従業員に対し画一的に実施されるなどの要件を満たすことが必要と解される(最高裁昭和43年8月2日判決)。ましてや、使用者といえども、従業員の私的領域にわたる指揮監督権を有するものではないことは当然であって、たとえ私生活面での規律を正すことが業務の改善に資することが期待されるとしても、そのような目的で所持品検査を行うことが正当化される余地はない。
2 Xは、Aから受けた一連の暴行や私物の点検等の支配的行為により受けた精神的苦痛の慰謝料は100万円を下らないと主張する。
AのXに対する一連の暴行と財布と通帳の点検、運転免許証や携帯電話の取り上げといった私的領域への介入あるいは生活への支障を伴う財産権侵害行為は、Xに対し相応の精神的苦痛を与えたことは明らかであるが、他方で、暴行については、痛み止めの投薬と湿布の処方を要する傷害を負ったほかは、治療を要するような負傷をした事実が認められないこと、財布と通帳の点検については、当時のXが快く思わなかったことは当然であるとしても、著しい苦痛を受けたとまでは認め難いこと等に鑑みると、これらに対する慰謝料としては20万円を認めるのが相当である。
3 Y社らは、Xの度重なる業務上の不始末や営業成績の不振と、Aの指導に対する態度の悪さが、Aを感情的にさせて損害の発生と拡大に寄与したとして、過失相殺を主張する。
しかし、Xの勤務状況に問題があるとしても、AのXに対する不法行為を正当化し得るものではなく、むしろ、Y社における良識と人権感覚を欠いた従業員への指導・管理の在り方ことが、Aが行ったような粗暴で威圧的な言動を誘発したというべきであるから、Xに生じた損害について過失相殺をすることは相当でない。
従業員の所持品検査については、最高裁判例があるので、参考にしてください。
弁護士が原告側の代理人としてパワハラ事案を担当する際、気をつけなければならないのは、依頼者に過大な期待を持たせないことです。
一般的に、「パワハラ」の違法性を立証することは容易ではないことに加え、仮に認定されたとしても、期待するような多額の慰謝料は認めてもらえないことが多いと思います。
つまり、費用倒れの可能性が出てきてしまうため、そのあたりを受任する際にしっかりと説明することが大切です。
ハラスメントについては、注意喚起のために定期的に研修会を行うことが有効です。顧問弁護士に社内研修会を実施してもらいましょう。