Daily Archives: 2014年3月13日

労働時間34(オリエンタルモーター事件)

おはようございます。

 

さて、今日は、労務提供の義務付け等は認められないとして時間外労働の未払賃金請求等を認めなかった裁判例を見ていきましょう。

オリエンタルモーター事件(東京高裁平成25年11月21日・労経速2197号3頁)

【事案の概要】

本件は、XがY社に対し、①平成22年7月から12月までの間、常時1時間ないし5時間程度の残業をしたとして未払賃金及び労基法114条に基づく付加金の支払いを、②退職時に法律上の原因なく金銭の支払いを強要されたとして不当利得に基づく支払金の返還を、③飲み会への参加や一気飲みを強要されて自律神経失調症を発症したとして使用者責任に基づく損害賠償金の支払いをそれぞれ求める事案である。

なお、原審(長野地裁松本支部平成25年5月24日)は、①の未払賃金及び付加金請求の一部を認容し、その余の請求を棄却した。

【裁判所の判断】

原判決中控訴人敗訴部分(上記①)を取り消す。

上記の取消部分に係る被控訴人の請求を棄却する。

【判例のポイント】

1 Xは、ICカードの使用履歴によれば、Xが平成22年7月1日から10月31日まで連日残業をしていたことが認められると主張する。しかし、ICカードは施設管理のためのものであり、その履歴は会社構内における滞留時間を示すものに過ぎないから、履歴上の滞留時間をもって直ちにXが時間外労働をしたと認めることはできない。そこで、上記ICカード使用履歴記載の滞留時間にXが時間外労働をしていたか否かについて検討する。

2 Xは、残業の内容として日報を作成していた旨主張する。しかし、日報が実習の経過を示すものであって会社の業務に直接関係するものではないこと、提出期限も特になく、必ず当日中に提出しなければならないとの決まりもなかったこと、Xの実習スケジュールにおいては実習メニューとは別に概ね35分ないし65分間の日報作成の時間が取られていたことは認定したとおりである。実習期間中には設けられた日報作成時間が5分間である日が3日あるが、上記のとおり日報について提出期限がなく、当日提出の決まりもなかったのであるから、この3日間について残業が必要であったということもできない。

3 Xは、時間外労働として翌日訪問する営業先の下調べ等をしていた旨主張するが、Xは、Y社に出社していた間は実習中であって、販売目標その他の営業ノルマを課されたこともなく、平成22年12月になるまでは1人で営業先に赴くこともなかったというのであるから、仮にXがその主張するような下調べをしていたとしても、これをもって労務の提供を義務付けられていたと評価することはできない

4 Xは、残業として発表会への参加を強制されていた旨主張するので検討する。・・・しかし、これらの発表会は実習中の新人社員が自己啓発のために同僚や先輩社員に対し実習成果を発表する場として設定されたものであり、会社の業務として行われたものではなく、これに参加しないことによる制裁等があったとも認められないから、Y社が業務として発表会への参加を指揮命令したものということはできない。

5 以上によれば、XがICカード使用履歴記載の滞留時間に残業して時間外の労働をしていたものとは認められないから、XのICカード使用履歴に基づく主張は理由がない

残業代請求の実務に一石を投じる判例ですね。

使用者側は、この裁判例を参考にして主張を展開するべきです。

労働者側は、これまでのように、タイムカード等の打刻時間のみから残業時間を算定するという安易な方法だと、足下をすくわれる可能性がありますので、注意が必要です。

労働時間に関する考え方は、裁判例をよく知っておかないとあとでえらいことになります。事前に必ず顧問弁護士に相談することをおすすめいたします。