おはようございます。
さて、今日は、労災事故発生事実の隠ぺいを理由とする諭旨退職処分に関する裁判例を見てみましょう。
X建設事件(東京地裁平成25年9月27日・労経速2196号3頁)
【事案の概要】
本件は、Xが、Y社が行った諭旨退職処分及びそれに引き続くXの退職の意思表示は無効であると主張し、その後自ら退職した日までの賃金、賞与及び退職金(諭旨退職処分により20%減額された分)等の支払を求めた事案である。
本件懲戒の理由は、Xが、事務所の所長として、所管工事全般の責任及び所管現場事業所所属員の業務執行を指揮監督する職責を担っており、当該工事現場において労災事故が発生した場合、所定の手続を取らなければならなかったにもかかわらず、本件事故発生当日にその事実を知りながら約3年5か月にわたり所定の報告をせず、また、被災者の直接雇用主をして療養補償給付たる療養の給付請求等を提出させることもしなかったこと等である。
【裁判所の判断】
諭旨退職処分は有効
【判例のポイント】
1 Y社において諭旨退職とした事例のうち最近の3件の概要は、前記のとおりであると認められ、これらの事実によれば、Y社の本社及び支店主張所における各不正発注事案2件及びY社の支店における地下鉄工事の談合事案であるというのである。このうち、各不正発注事案については、Y社に対して直接に金銭的損害を与える行為ではあるものの、必ずしもY社の対外的な信用を大きく損なう行為ではないと認められること、談合事案については、Y社の対外的信用を大きく損なう行為ではあるものの、事実上談合に協力せざるを得ない状況の下での行為であると認められること等が斟酌され、Y社はいずれも諭旨退職処分としたというのである。
一方、本件は、行為そのものの企業秩序侵害の程度は大きく、Y社において経済的損害及び対外的信用の損失も相応に生じているのであって、Xに対する関係では諭旨退職よりも軽い処分でなければ前記3件と比較して均衡を失するとまではいい難い。
2 懲戒処分に至るまでの手続が短期間で行われたことそのものは、処分の量定の適正さとは何ら関係のない事情というべきであるし、本件諭旨退職処分の理由となる事実及び情状事実を総合しても、本件諭旨退職処分が重きに失すると認めるに足りる事情がないことは既に説示したとおりであって、Y社において、本件諭旨退職処分を迅速に発することにより、結果的に行政処分を免れ、又は軽い処分で済むことがあり得ることを予測していた可能性は否定することができないものの(なお、このこと自体は何ら不当なものではないというべきである。)、それを超えて、国土交通省が行政処分を課すかどうか及びその内容を検討するに当たり有利な情状として利用するために、ことさらに短期間に、かつことさらに重い懲戒処分を課す意図があったとまで認めるに足りる証拠はない。
3 確かに、本件諭旨退職処分により、Xは、退職届を提出して退職するか、さもなくば懲戒解雇となるという状況において、諭旨退職処分の方が懲戒解雇よりもXに有利な処分であること、本件就業規則59条1号には、懲戒解雇の場合には原則として退職金が支給されない旨が規定されていることに照らせば、利害得失の観点からは、退職届を提出するかどうかの選択の余地がある程度制約されていたと認められる。しかしながら、このことにより、直ちに本件退職の意思表示がXの自由な意思や真意に基づくものでないことまで認められるものでないし、他に本件退職の意思表示をする際、Xの自由な選択を妨げる事情があったとは認められない。したがって、その余の点を検討するまでもなく、この点に関するXの主張は理由がない。
懲戒事案では、他の事案との不均衡さを争点とすることがあります。
もっとも、それぞれ事案が異なることから、そう簡単には不均衡・不相当であるとの判断には結びつきません。
解雇を選択する前には必ず顧問弁護士に相談の上、慎重かつ適切に対応することが肝心です。決して、素人判断で進めないようにしましょう。