おはようございます。
さて、今日は、廃業を理由に解雇された元従業員による賃金等請求に関する裁判例を見てみましょう。
S社事件(大阪地裁平成25年1月25日・労判1081号87頁)
【事案の概要】
本件は、Y社の従業員であったXらが、Y社に金銭の貸付けまたはY社のために立替払いをし、また、貸金の未払をあるとして、Y社に対し、消費貸借契約または立替払契約に基づく貸金、立替金および雇用契約に基づく賃金として、Xら合計1500万円(一部請求)の支払を求めるとともに、Y社の代表者であるAが、Y社の資産を個人的に費消して、Y社に損害を与え、XらのY社に対する上記各請求権を回収不能にしてXらに損害を与えたとして、Aに対し、債権者代位権または会社法429条1項の損害賠償請求権に基づき、同額の支払いを求めた事案である。
【裁判所の判断】
Xらの請求はいずれも認容
【判例のポイント】
1 本件各貸金及び立替金は、いずれもその貸付け又は立替金の日から消滅時効が進行し、Y社の業務に関するものであるから5年の商事消滅時効にかかるというべきである。
しかしながら、・・・Y社の代表者であるAは、本件各貸金及び立替金の商事消滅時効が完成した後、これらの債務について、保証金が返ってきたら必ず返すなどと述べて、その存在を承認したということになるから、Y社は、本件各貸金及び立替金について時効の利益を放棄したものといえる。
よって、Y社が消滅時効を援用することは信義則上許されない。
2 Aは、Y社が返還を受けた保証金1500万円のうち250万円は、C社に返済し、その余は、Y社の残務整理に一部使用した他は、上記借入金残金の返済に充てるため留保していると主張する。
しかし、・・・留保しているとする資金の保管先について何ら主張・立証がなされていないことすると、保証金相当額の資金は、すでにA自身の債務の弁済等、個人の使途に費消されたものと推認することができ、支払のために留保してあるとのAの主張は採用できない(なお、仮にAが未だ当該資金を費消していないとしても、その留保先を明らかにしない以上、Aの行為は、Y社の資産の隠匿に当たるというべきである。)。
かかるAの行為は、Y社の代表取締役として、会社財産を、善管注意義務をもって保管する義務に違反したものとして、任務懈怠行為に当たるというべきである。
そして、Y社には、廃業の時点で、保証金のほかにみるべき資産はなく、Aが返還された保証金を個人的に費消ないし隠匿したことにより、Xらは、Y社から本件各貸金及び立替金並びに未払賃金の返還を受けることが実質的に不可能となったと認められるから、Aは、Xらに対し、会社法429条1項に基づき、本件各貸金及び立替金並びに未払賃金相当額の損害賠償義務を負う。
X側とすれば、既に廃業しているY社からお金はとれないため、なんとかして代表者個人から回収する方法を考えなければなりません。
そこで、上記のように、代表者の取締役責任を追及したわけです。
もっとも、金額が金額ですから、代表者に自己破産をされてしまうとそこで回収不能となってしまいます。
日頃から顧問弁護士に相談しながら適切に労務管理を行うことが大切です。