Daily Archives: 2014年2月4日

労働時間32(レガシィほか事件)

おはようございます。

今日は税理士法人以外の会社も兼務する税理士の補助業務者に対する専門業務型裁量労働制の適用に関する裁判例を見てみましょう。

レガシィほか事件(東京地裁平成25年9月26日・労経速2194号20頁)

【事案の概要】

本件は、Y社ら双方に雇用されていたXが、Y社らに対し、時間外労働についての割増賃金の未払があるなどとして、割増賃金、遅延損害金、付加金等を求めた事案である。

Y社らは、Xには裁量労働制が適用されるなどと主張して争った。

【裁判所の判断】

裁量労働制の適用を否定
→Y社らに対し、約200万円の割増賃金の支払+20万円の付加金の支払いを命じた。

【判例のポイント】

1 労働基準法38条の3所定の専門業務型裁量労働制は、業務の性質上、業務遂行の手段や方法、時間配分等を大幅に労働者の裁量にゆだねる必要がある業務として厚生労働省令及び厚生労働大臣告示によって定められた業務を対象とし、その業務の中から、対象となる業務を労使協定によって定め、労働者を実際にその業務に就かせた場合、労使協定によりあらかじめ定めた時間働いたものとみなす制度である。・・・ここで「税理士の業務」を専門業務型裁量労働制の対象と定めるが、ここで「税理士の業務」とは、法令に基づいて税理士の業務とされている業務をいい、税務相談がこれに該当すると解するのが相当である。

2 ・・・Y社らは、このような税理士以外の従業員による事実上の税務書類の作成等の業務について、実質的に「税理士の業務」を行うものと評価して、専門業務型裁量労働制の対象と認め得ることを前提に、Xに専門業務型裁量労働制が適用されると主張するものであると理解される(なお、Xによる業務が、税理士又は税理士法人が行うべき税務書類の作成等の業務でなく、単なる税理士の補助的業務であるというのであれば、そもそも実質的に「税理士の業務」を行うものと評価する前提を欠くといわざるを得ない。)。
しかしながら、・・・税理士以外の従業員による事実上の税務書類の作成等の業務を専門型裁量労働制の対象と認め得るためには、少なくとも、その業務が税理士又は税理士法人を労務の提供先として行われるとともに、その成果が当該税理士又は税理士法人を主体とする業務として顕出されることが必要であるというべきである。
これを本件についてみると、・・・専門型裁量労働制を適用することはできないというべきである。

3 Y社らは、いくつかの事情を摘出して、Xの割増賃金請求が信義則に違反する旨を主張するが、いずれの事情をもってしても、Xの請求が信義則違反であると評価するに足りない。
特に、Y社らは、Xが背信的意図に基づく機密保持義務違反行為に及んだことを強調するが、仮に、XにY社ら摘示の事実があり、それによりY社らが損害を被ったとしても、それをもってXの賃金請求が信義則違反である旨を主張することは、Xに対する債務不履行又は不法行為に基づく損害賠償請求権を自働債権としてXの賃金債権を相殺するものにほかならず、賃金全額払の原則(相殺禁止の趣旨を包含する。)を定めた労働基準法24条1項本文の趣旨を潜脱するものであることが明らかである

4 Y社らは、労働基準法の規定に違反して、Xに対する時間外労働等についての割増賃金の支払をしなかったものであるところ、その違反の程度や態様については、専門業務型裁量労働制に係る法令の解釈適用を誤ったことに起因するものであり、必ずしも悪質であるとはいえない。他方、Y社らは、本件訴訟に至って以降、賃金全額払の原則を定めた労働基準法24条1項本文の趣旨を潜脱するものであることが明らかな主張を重ねるなどして、Xに対する未払割増賃金の支払をしようとしなかったという事情も存する。これらの諸般の事情を総合考慮すれば、本件においては、Y社らに対し、同法114条ただし書所定の期間内の付加金として、20万円の支払を命じるのが相当である。

相続関係でよく名前が出てくる税理士事務所の事件です。

税理士事務所では、税理士資格を持っていない従業員が、税理士業務を行っているところが多いと思いますが、労基法の文理解釈からすると、この裁判例の判断は妥当であるということになります。

労働時間に関する考え方は、裁判例をよく知っておかないとあとでえらいことになります。事前に必ず顧問弁護士に相談することをおすすめいたします。