おはようございます。 今週も一週間お疲れ様でした。
さて、今日は、組合が会社や役員宅へ街宣活動等をすることの差止請求が認められた裁判例を見てみましょう。
X工業事件(東京地裁平成25年5月23日・労経速2192号13頁)
【事案の概要】
Xらは、Y社によるGの解雇を有効とする判決(「解雇事件判決)が確定した後、本件解雇の撤回等を求めて街頭宣伝活動(「街宣活動」)等をしていたところ、Y社の本社、支店、営業所、工場等の施設を中心として半径150メートルの範囲内の土地における街宣活動等の差止めを認める第一審裁判所(東京地裁)の判決(「前訴差止事件判決」)が確定した後も、引き続きY社の施設周辺等やY社役員等の住所地周辺において本件解雇の撤回等を要求する街宣活動等をしているところである。
本件は、(1)Y社が、Xらに対し、①Y社の本社、支店営業所、工場等の施設を中心として半径150メートルから1キロメートルの範囲内の土地における街宣活動等の差止め、②幕張メッセ、霞ヶ関ビルディング、東京ビッグサイト及び茨城県桜川市役所大和庁舎前広場を中心として半径1キロメートルの範囲内の土地における街宣活動等の差止め及び③Y社の役員等であるB、C、D、A及びEが、①それぞれの自宅を中心として半径1キロメートルの範囲内の土地における街宣活動等の差止め及び②過去の街宣活動等に係る損害賠償を求めた事案である。
【裁判所の判断】
差止請求については、一部認容。
Y社に対する損害賠償として200万円、役員に対する損害賠償として合計90万円の支払を命じた。
【判例のポイント】
1 法人は、その名誉、信用が毀損され、平穏に営業活動を営む権利が侵害され、今後も当該侵害行為が継続する蓋然性が高い場合には、当該侵害行為を差し止める権利を有するものと解するのが相当である。
2 Xらは、GがY社に対して解雇の撤回ないし再雇用の要求をすること及びこれを組合がY社に要求し、そのための団体交渉を申し入れることは、解雇を有効とする判決の確定にかかわらず、憲法上、労働組合に補償された団体交渉権及び団体行動権に属する正当な行為であると主張する。
確かに、労働組合の団体交渉権及び団体行動権は憲法上保障された権利であるが、憲法は、これが財産権等の他の基本的人権に対して絶対的優位にあることを認めているものとは解されず、労働者の権利実現のために労働組合が行う団体交渉権及び団体行動権の行使であっても、それが無制限に許されるものでないことは明らかである。本件においては、法治国家における権利実現方法として基本的な手段というべき民事訴訟において、解雇事件判決の確定により、Y社のGに対する解雇が有効であり、Y社とGとの間には雇用契約関係が存在しないことが公権的に確定しているところであり、Xらが、なおY社に対して、解雇の撤回や再雇用について再考を求めること自体が許容され得るとしても、そのための活動の範囲・内容は、解雇事件判決の確定によって、当然に影響を受けるものといわざるを得ない。そして、解雇事件判決の確定に加え、前訴差止事件判決が確定し、平成21年仮処分事件、平成23年仮処分事件における決定がされ、Y社による任意の解雇撤回等が期待し難い状況にあることなどからすれば、Xらが、なお本件解雇の撤回等をY社に求めるために前記のような街宣活動等を繰り返し行うことは、自らの要求を容れさせるべく、Y社に対して殊更に不当な圧力をかけようとするものといわざるを得ず、憲法上、労働組合に保障された団体交渉権及び団体行動権に属する正当な行為ということはできないというべきである。
3 不法行為の被侵害利益としての名誉とは人又は法人の品性、名声、信用等の人格的価値について社会から受ける客観的評価のことをいい、信用とは、経済的側面における社会的評価のことをいう。したがって、名誉、信用の毀損とは、これら人又は法人の客観的な社会的評価を低下させる行為のことをいう。
これらを本件についてみると、・・・不法行為を構成するというべきである。
・・・Y社が名誉・信用の毀損によって被った損害額は200万円と認めることが相当である。
4 Bら3名は、不法行為に基づき損害賠償を請求することができる。
・・・慰謝料としては、B、C及びDについて、それぞれ30万円の限度で許容することが相当である。
大変興味深い裁判例です。
会社側としては、この裁判例を是非、参考にして、組合活動に対して適切に対応してください。
労働者側としては、解雇等について確定判決が出た場合には、組合活動に一定の影響が及ぶことを理解した上で、適切に組合活動をしてください。
組合との団体交渉や組合員に対する処分等については、まずは事前に顧問弁護士から労組法のルールについてレクチャーを受けることが大切です。決して素人判断で進めないようにしましょう。