退職勧奨11(プレナス事件)

おはようございます。

 

さて、今日は、懲戒解雇や退職金不支給の可能性は動機の錯誤にすぎないとして、退職勧奨による退職が有効とされた裁判例を見てみましょう。

プレナス事件(東京地裁平成25年6月5日・労経速2191号3頁)

【事案の概要】

本件は、Y社の従業員であったXが、平成23年9月14日に同年10月5日をもってY社を退職する旨の退職願を提出したが、これによる退職の意思表示が無効であるとして、Y社に対して地位確認、賃金支払を求めるとともに、本件退職願を提出させる際のY社による退職の強要が不法行為に当たるとして、慰謝料及び社宅からの退去費用等相当額の損害賠償を求めた事案である。

【裁判所の判断】

請求棄却

【判例のポイント】

1 Xは、本件退職願のよる退職の意思表示は、E部長の退職勧奨に応じなければ、懲戒解雇になり、その場合は退職金も支給されないものと誤解したためにされた錯誤によるものであり、無効である旨を主張し、X本人尋問の結果中には、これに沿う供述部分がある。
しかしながら、X供述等においても、Xが本件退職願を提出することを決断するに至った動機については曖昧で明らかではないし、X供述等によれば、9月3日面談においては、退職の意思はなかったが9月12日電話で退職せざるを得ないと決断したというのであるが、直接の面談ではなく、電話での会話によってそのような決断に至った事情も明確とはいい難く、Xが主張するような上記の誤解が何故その時点で生じたのかも明らかではないところである。また、9月3日面談及び9月12日電話のいずれにおいてもE部長が懲戒処分や解雇の可能性、ましてや懲戒解雇による退職金不支給について言及したことはなく、Xも退職勧奨に応じなかった場合の処遇等に関して何ら言及していないことは上記認定のとおりである。そうすると、この点に関するX本人尋問の結果中の供述部分は直ちには信用し難く、Xに上記のような誤解があり、これに基づき本件退職願が提出されたとすることには疑問があるものといわざるを得ない。
仮に、Xが上記のような誤解に基づき本件退職願による退職の意思表示をしたものであるとしても、これは動機の錯誤であるといわざるを得ず、これが表示されていたことは一切うかがわれないのであるから、退職の意思表示につき要素の錯誤があったということはできない

2 また、9月3日面談による退職勧奨後、Xによる本件退職願の提出がされるまでの経過をみると、9月3日面談がされた後には1週間以上の考慮期間があったものであり、さらに、この間、Xは、労働局に相談をして、安易に退職届を出すことがないように指導を受けるなどしていること、9月12日電話は、約15分程度の会話であり、その際、Xからは、退職事由については会社都合としたいとの具体的な要望が出されるなどしていること、実際に、Xが、その要望どおり退職事由を会社都合によると記載した本件退職願を提出したのは、その2日後の平成23年9月14日であることが認められ、このような経過に照らせば、本件退職願の提出による退職の意思表示自体がXの真意に基づかないものということもできないというべきである

訴訟提起時から、厳しい戦いが予想されていたとは思います。

労働者側が参考にすべき点としては、上記判例のポイント1の動機の錯誤に関する判断です。

最高裁判決によれば、動機に錯誤がある場合には、原則として無効とならず、ただ、動機が表示された場合には、動機が意思表示の内容となって意思表示の錯誤が成立しうるとされています。

動機の錯誤の場合、意思表示そのものではなく、意思形成過程としての動機の点に錯誤があるにすぎず、内心的効果意思と表示に不一致はないわけです。

表示の要件を満たすことが大切だということを認識しておくだけで、かなり準備の仕方が変わってくるのではないでしょうか。

詳細は顧問弁護士に確認をしてみてください。