おはようございます。
さて、今日は、違法な配転命令に対する無効確認と賃金等請求に関する裁判例を見てみましょう。
新和産業事件(大阪高裁平成25年4月25日・労判1076号19頁)
【事案の概要】
Y社は、①Xが営業職としての適性を欠いていたことと②Xが総務や経理の経験がなかったことを理由として、配転命令をした。
Xは、本件配転命令につき、業務上の必要性がなく、他の不当な動機・目的で行われたもので、通常甘受すべき程度を著しく超える不利益を負わせるものであるから、権利の濫用として無効であるであると主張し争った。
なお、Xは、本訴訟以前に、賃金仮払仮処分を申し立て、裁判所は、これを認めている。
【裁判所の判断】
配転命令は無効
新たに慰謝料等として60万円を認めた。
【判例のポイント】
1 Y社は、業務上の必要性が乏しいにもかかわらず、Xが退職勧奨を拒否したため、Xを退職に追い込み、又は合理性に乏しい賃金の大幅な減額を正当化するという業務上の必要性とは別個の不当な動機及び目的の下で本件配転命令をしたことが認められる。そうすると、本件配転命令は、社会的相当性を逸脱した嫌がらせであり、Xの人格権を侵害するものであるから、民法709条の不法行為を構成するというべきである。
2 給与規定上、賞与の支給については、勤怠、能力、その他を考課して決定するとの定めがあるにとどまり、具体的な支給額及び算定方法についての定めはなかったこと、Y社は、従業員ごとの個別の考課査定及び従業員間の配分額の調整をした上で賞与の具体的な支給額を決定していたことが認められるから、Xの賞与請求権は、Y社が支給すべき金額を定めることにより初めて具体的権利として発生するものと解される。
3 Y社は、Xの平成23年の夏季賞与及び冬季賞与、平成24年の夏季賞与及び冬季賞与について、総合職であることを前提に、人事考課査定及び調整をした上で具体的な支給額を決定し、支給日までにこれを支払うべき労働契約上の義務を負うというべきである。
・・・そうすると、Y社のXに対する上記各賞与の支給額の決定は、使用者としての裁量権の範囲を逸脱したものであり、これにより、Xが給与規定等に基づいて算定された賞与の支給を受ける利益を侵害するものであるから、民法709条の不法行為を構成するというべきである。
・・・そうすると、仮にXが総合職として正当に考課査定を受けたならば、基本給、職務給及び付加給の合計額(基準額)に上記業績係数(夏季は1.6、冬季は1.7)及び査定係数の下限値である0.6を乗じた金額を算出した上で、社長により調整がなされることを考慮して、上記算出額に8割を乗じた額を賞与として支給を受けた相当程度の蓋然性があるというべきである。
本件は、不当な目的による配転が違法と判断された事案ですが、それよりも、上記判例のポイント4の考え方を是非、参考にしてください。
賞与の請求をしようとする場合には、このような切り口があることを知っておくと有効かもしれません。
実際の対応については顧問弁護士に相談しながら行いましょう。