Daily Archives: 2013年11月15日

解雇122(伊藤忠商事事件)

おはようございます。 今週も一週間お疲れ様でした。

さて、今日は、双極性障害に罹患して休職・退職した労働者について、休職期間満了までに回復したとは認められないとされた裁判例を見てみましょう。

伊藤忠商事事件(東京地裁平成25年1月31日・労経速2185号3頁)

【事案の概要】

本件は、Y社に雇用されていたXが、双極性障害に罹患して休職したものの、休職期間満了前に復職可能な程度にまで回復したなどと主張して、Y社に対し、雇用契約上の地位確認を求めるとともに、雇用契約に基づく未払賃金等を求める事案である。

【裁判所の判断】

請求棄却

【判例のポイント】

1 Xは、休職期間満了時の復職不能の主張・立証は、使用者側であるY社がすべきであると主張する。しかし、雇用契約上の傷病休暇・休職の制度が、使用者が業務外の傷病によって長期間にわたって労働者の労務提供を受けられない場合に、雇用契約の終了を一定期間猶予し、労働者に治療・回復の機会を付与することを目的とする制度であると解すべき一方、労働者の治療・回復に係る情報は、その健康状態を含む個人情報であり、原則として労働者側の支配下にあるものであるから、休職期間の満了によって雇用契約は当然に終了するものの、労働者が復職を申し入れ、債務の本旨に従った労務提供ができる程度に病状が回復したことを立証したときに、雇用契約の終了の効果が妨げられると解するのが相当である

2 XがY社の総合職として雇用されたことは、前記のとおりであり、Xの復職可能性を検討すべき職種は、Y社の総合職ということになる
ところで、総合商社であるY社の総合職の業務は、Xが休業開始前に従事していた営業職においては、国内外の取引先間において、原材料や製品の売買の仲介を行うことが中心であり、具体的には、市況や需要等に関する様々な情報を収集・分析し、仕入先及び販売先に取引内容案を提示して交渉を進めるとともに、取引先の信用調査を行い、取引先への与信限度を社内で申請・設定し、仕入先及び販売先と合意に至れば契約書を締結し、その後、商品の引渡し、代金の支払、回収・運搬・通関手配、為替予約のための相場確認等を行うものであり、海外の取引先等を含め社内外の関係者との連携・協力が不可欠であるから、これを円滑に実行することができる程度の精神状態にあることが最低限必要とされることが認められる。また、営業職以外の管理系業務においても、社内外の関係者との連携・協力が必要であることは営業職と同様であるから、いずれの職種にしても、業務遂行には、対人折衝等の複雑な調整等にも堪え得る程度の精神状態が最低限必要とされることが認められる。

使用者側は、業務の大変さを丁寧に説明することが功を奏しました。

この手の事案は、ドクターの診断書や意見書が出されても、それだけで復職の可否が判断されることはありません。あくまで一考慮要素にすぎません。

解雇を選択する前には必ず顧問弁護士に相談の上、慎重かつ適切に対応することが肝心です。決して、素人判断で進めないようにしましょう。