おはようございます。
さて、今日は、派遣先上司らによるパワハラ行為に対する損害賠償請求等に関する裁判例を見てみましょう。
アークレイファクトリー事件(大津地裁平成24年10月30日・労判1073号82頁)
【事案の概要】
本件は、派遣労働者として就労していたXが、その派遣先であったY社の従業員らから、度々、いわゆるパワハラに該当する行為を受け、同派遣先での労務に従事することを辞めざるを得なかったとの理由により、Y社に対し、①同従業員らの不法行為に関する使用者責任として、退職後の逸失利益、慰謝料および弁護士費用合計272万4085円、②固有の不法行為責任として、退職後の逸失利益、慰謝料及び弁護士費用合計272万4085円の総計442万4085円(なお、前記①および②の各退職後の逸失利益102万4085円の範囲につき、前記使用者責任とY社固有の不法行為責任は競合関係)および遅延損害金の支払いを求めた事案である。
【裁判所の判断】
Xの請求のうち、慰謝料88万円を認めた。
【判例のポイント】
1 Y社の正社員であるFおよびEが、Xに対し、ゴミ捨てなどの雑用を命じていたことにつき、他の仕事ができないと決めつけ、あえて行わせたとまでは推認することはできないが、他方、Y社の正社員であり、Xを含む派遣労働者を指示・監督する立場にあるFらは、指揮命令下にある部下に対する言動において、その人格を軽蔑、軽視するものと受け取られかねないよう留意し、特に、派遣労働者という、直接的な雇用関係がなく、派遣先の上司からの発言に対して、容易に反論することが困難であり、弱い立場にある部下に対しては、その立場、関係から生じかねない誤解を受けないよう、安易で、うかつな言動は慎むべきところ、FらのXに対する各言動は、いずれも、その配慮を極めて欠いた言動で、その内容からすると、Fらの主観はともかく、客観的には、反論が困難で、弱い立場にあるX(の人格)をいたぶる(軽蔑、軽視する)意図を有する言動と推認でき、その程度も、部下に対する指導、教育、注意といった視点から、社会通念上、許容される相当な限度を超える違法なものと認められるから、Y社従業員であるFらのXに対する不法行為があったと認めるのが相当である。
2 Y社は、Fらを従業員として使用する者で、Fらによる前記で認定した不法行為は、FらおよびXが、Y社業務である本件労務に従事する中で、Y社の支配領域内においてなされたY社の事業と密接な関連を有する行為で、Y社の事業の執行について行われたものであるから、Y社は使用者責任を負うと認められ、また、Fらは、Xを含む派遣労働者に対する言葉遣いについて、Y社の上司から指導・注意および教育を受けたことはなかったことを自認しており、Y社が、その従業員であるFらの選任・監督について、相当の注意を怠ったと認めるのが相当である。
3 派遣先であるY社は、派遣労働者であるXを、本件労務に従事させるにあたり、これを指揮監督する立場で、Y社の正社員であるFらに対し、弱い立場、関係から生じかねない誤解を受けないよう、安易で、うかつな言動を慎み、その言動に注意するよう指導、教育をすべきところ、本件では、Fらに対して、本件苦情申出に至まで、何らの指導、教育をしていなかったことからすると、少なくとも、職場環境維持義務を怠った程度が、社会通念に照らし、相当性を逸脱する程度のもので、その結果、Xは、Fら、Y社の従業員らから、人格権侵害といえる言動等を被ったものと評価できるから、同義務違反に基づく、Y社固有の不法行為責任を認めるのが相当である。
4 Xは、前記不法行為により、本件労務に従事することを辞めざるを得なかった旨主張するが、本件労務に従事するにあたり、派遣会社との間で、雇用契約を結んでいたものにすぎず、前記不法行為の結果、本件派遣期間満了後も、同派遣期間を更新し、Fらのもとで、就労することは困難であったことのみならず、前記不法行為の結果、派遣会社との間における雇用契約関係も終了せざるを得なかったことを認めるに足る証拠は何ら存在せず、かつ、本件派遣期間満了後、少なくとも、派遣会社から、他の派遣先に、派遣してもらって、就労することができなかったことを認めるに足る証拠もないことから、本件派遣期間満了後、Xが、再就職するまでの逸失利益につき、前記不法行為と相当因果関係があるとは認められない。
Xは、派遣先会社の上司の発言を録音しており、これを証拠としたために、裁判所はパワハラを認定しやすかったわけです。
派遣先会社の方は、上記判例のポイント1を参考にしてください。
また、使用者責任のほかに会社の固有の不法行為責任を問われることがありますので、ご注意ください。
金額はそれほど大きなものではありませんが、会社のイメージを壊すものですので、安易には考えないことをおすすめします。
ハラスメントについては、注意喚起のために定期的に研修会を行うことが有効です。顧問弁護士に社内研修会を実施してもらいましょう。