おはようございます。
さて、今日は、有期労働契約社員の一時休業時の賃金請求権、雇止めの効力に関する裁判例を見てみましょう。
いすゞ自動車(雇止め)事件(東京地裁平成24年4月16日・ジュリ1459号127頁)
【事案の概要】
Y社は、第1グループXらについて、各人の契約期間満了日までの所定労働日について休業として、その間労基法26条、臨時従業員就業規則43条及び労働契約法8条に基づき、平均賃金6割の休業手当を支給した。
Xらは、休業期間中の賃金請求をした。
【裁判所の判断】
XらのY社に対する休業期間中の賃金請求を認めた。
その他は請求棄却。
【判例のポイント】
1 一般に使用者が企業を運営するに当たり、企業運営の必要の範囲内で、それに見合う人数の労働者と、相応の労働条件の下で労働契約を締結しているのが通常なのであり、使用者が労務を受領しないのは、例外的な事態であるから、本件休業のように、労働者が労働を提供し、使用者がこれを受領しないことが、使用者の責に帰すべき自由に基づくものと推認されると解するのが相当である。そして、この意味での帰責事由がないというためには、休業の必要性、両当事者の状況等の事情に照らして、休業がやむを得ないものと認められることが必要である。
2 一般に、Y社での臨時従業員のように、期間の定めのある労働契約を締結している労働者は、正社員(期間の定めのない従業員)に比して長期雇用に対する合理的期待は相対的に低くなると考えられるが、その一方で、当該契約期間内の雇用継続及びそれに伴う賃金債権の維持については合理的期待が高いものと評価すべきである。そして、第1グループXらは、Y社の臨時従業員として、労働期間内での昇級、昇進等の期待なく、固定された賃金収入を主な目的として短期間の期間労働契約を締結、更新しているのであって、その意味でも、雇用継続期間中の賃金債権の維持についての期待は高度の合理性を有するというべきである。そうすると、本件休業命令は、合意退職に応じなかった臨時従業員全員を対象として、その契約期間の満了日までとする包括的、かつ一律に定め、第1グループXらは、3か月以上もの間、その平均賃金の4割相当額を支給しないとするもので、本件休業により第1グループXらが被る不利益は重大かつ顕著であるというべきである。以上のような、第1グループXらの置かれた状況に鑑みれば、このような期間の途中に一定の期間の休業を命じるについては、より高度の必要性が認められなければならないというべきである。
3 一方、Y社は、正社員及び定年後再雇用従業員については、本件休業期間中、平成21年3月の1か月に4日間の個別の休業日を設定、実施するのみで、それに伴い支給される休業手当の金額についても、基本日給の100%を支給している。これは、上記のとおり、期間の定めのある労働契約によって職務に従事する労働者が置かれている状況に照らして考えると、著しく均衡を欠くとの評価を免れないといわざるを得ない。
4 以上によると、Y社に本件休業によって、平均賃金の4割カットによらなければならないというだけの、上記の高度の必要性までをも認めることは困難であるといわなければならない。そうすると、本件休業がやむを得ないものであると認めることはできない。
以上によれば、本件休業によるY社の労務提供の受領拒絶については、「債権者の責めに帰すべき事由」によるとの推認を覆すに足りる事由はないから、第1グループXらのY社に対する民法536条2項に基づく賃金請求権は、これを認めることができる。
上記判例のポイント1の規範は、実務においても使う場面があります。
支払う賃金額を抑えるという理由から、なんでもかんでも休業にするというのはダメなわけです。
もっとも、1、2か月という短期間の休業の場合には、仮に当該休業がやむを得ないものとは認められなかったとしても、会社が従業員に支払うべき金額は、平均賃金の40%分にとどまる(つまり、それほど大きな金額にはならない)こと、それゆえ訴訟リスクが必ずしも高いとはいえないことなどの理由から、「ダメもと」で休業とする場合もありうると思います。
日頃から顧問弁護士に相談しながら適切に労務管理を行うことが大切です。