セクハラ・パワハラ1(K化粧品販売事件)

おはようございます。

さて、今日は、研修会でコスチュームを着用させることが不法行為に該当するとされた裁判例を見てみましょう。

K化粧品販売事件(大分地裁平成25年2月20日・労経速2181号3頁)

【事案の概要】

本件は、平成21年10月、当時Y社の業務に従事していたXが、同じくY社の業務に従事していたA、B、Cについては、Y社で行われた従業員の研修会に際して同人らがXに対しその意に反して特定のコスチュームを着用して研修会に参加するように強要するなどしたとして、また、同じくY社の業務に従事していたDについては、同人がXの診療情報を医療機関から詐取しようとしたとして、これらの行為がいずれも不法行為に該当し、これらのによって被った精神的損害について、A、B及びCに対しては、それぞれ民法709条及び719条1項に基づき、Dに対しては民法709条に基づき、損害を賠償するよう請求し、これと共に、Y社に対しては、同人ら4名の上記行為について使用者責任を負うとして、民法715条1項本文に基づいて損害賠償を請求した事案である。

【裁判所の判断】

Y社、A,B、Cは、連帯して、Xに対して、22万円を支払え。

その余の請求を棄却する。

【判例のポイント】

1 A、B及びCの行為は、単にXに対して勤務時間中の本件コスチュームの着用を求めたことにとどまらず、Xのみではなくその他未達であった3名と共にではあるものの、本件研修会の出席がXに義務づけられており、その際にXの本件コスチューム着用が予定されていながら、それについてのXの意思を確認することもなされず、Xが本件コスチュームを着用することについて予想したり、覚悟したりする機会のない状況の下、同被告らが、職務上の立場に基づき、本件研修会開催日の終日にわたってXに本件コスチュームの着用を求めたものであり、これを前提にすると、たとえ任意であったことを前提としてもXがその場でこれを拒否することは非常に困難であったというべきで、さらに、これがY社の業務内容や研修会の趣旨と全く関係なく、そのような内容であるにもかかわらず、別の研修会において、Xの了解なく、本件コスチュームを着用したスライドを投影したという事情を伴うものであるから、本件コスチュームの着用を明示的に拒否していないことなどを考慮しても、目的が正当なものであったとしても、もはや社会通念上正当な職務行為であるとはいえず、Xに心理的負荷を過度に負わせる行為であるといわざるを得ず、違法性を有し、これを行った同被告らには当該行為によってXの損害が発生することについて過失があったものであり、同被告らの行為は不法行為に該当するというべきである。

2 これに対して、被告らは、本件研修会のコスチューム着用は、レクリエーションや盛り上げ策を目的としており、X個人を人格的に攻撃するものではなく、現にXにおいても本件研修会において特段不満を述べていないと主張して、本件研修会のXの様子を写した写真、被告らの陳述書を提出し、Aにおいても同様の供述をする。
しかしながら、被告ら主張の当該目的そのものには妥当性が認められるものの、上記のとおり、その採用された手段が目的と必ずしも合致しているものとはいえず、本件コスチュームを着用させる手段では納得していない者については、被告らの述べる目的が果たせないことは容易に認められる。また、仮に、X個人を攻撃するものではなかったとしても、上記事情の下では、それによってXに対する当該行為の手段の相当性が認められるものではなく、違法性が覆されるものではなく、また、同被告らの過失が否定されるものでもないから、損害の範囲において斟酌されるべきに留まるというべきである。さらに、本件研修会中のXの一場面の様子をもってXが精神的苦痛を感じていなかっとみることは相当とはいえず、上記事実経過に照らせば、Xにおいて本件コスチュームの着用によって精神的苦痛を感じていたことが認められるから、被告らの主張は採用できない。

本件では、Xは、研修会の際、上司から、販売目標個数未達成の罰ゲームとして、「うさぎの耳の形をしたカチューシャ」を含む「易者のコスチューム」の着用を強要されたとして、損害賠償請求をしています。

本人が明示的に嫌がっていなかったとしても、場の雰囲気から断れないということもあります。

場を盛り上げたいという気持ちはわかりますが、やりすぎに注意しましょう。

ハラスメントについては、注意喚起のために定期的に研修会を行うことが有効です。顧問弁護士に社内研修会を実施してもらいましょう。