Daily Archives: 2013年9月2日

解雇116(学校法人昭和薬科大学事件)

おはようございます。 

さて、今日は、機器購入で不正処理した教授らに対する解職処分に関する裁判例を見てみましょう。

学校法人昭和薬科大学事件(東京地裁平成25年1月29日・労判1071号5頁)

【事案の概要】

X1は、Y大学の教授でR長の地位にあり、X2は、Y大学の専任講師でSアドバイザーの地位にあったところ、Xらが所属する研究室では、平成18年ころ、国庫補助金の支給を受けて光散乱光度計という機器を購入した。ところが、同光度計購入に当たって、当該年度に入る前に当該光度計の納入を受けるという会計年度を跨った処理を行ったなどとして学内で問題となり、Xらは、懲戒処分として、それぞれ上記R長及びSアドバイザーの職につき解職処分を受けることとなった。

本件は、Xらが、同懲戒解職処分には事実誤認等の違法があるなどと主張して、Xらについて、同懲戒解職処分が無効であることの確認等を求めた。

【裁判所の判断】

解職処分は無効

Xらに慰謝料10万円が認められた。

【判例のポイント】

1 ・・・このような会計年度を跨いだ会計処理は不適切というべきである。
しかるところ、X1は、X研究室の主任教授であってその最高責任者であり、本件光度計のような高額な備品の購入に当たっては当然に関心を払うべきであったのであるから、その購入手続に関して、何らかの不適切な行為があれば、監督しこれを是正すべき義務を負っていたというべきである。しかるに、X1は、本件光度計の購入手続についてはほとんど関与することなく、X2及びD助手が上記の会計年度を跨いだ処理をするのを防止しなかったのであるから、上記の監督義務違反があったことは否定できない。
以上のX1の監督義務違反は、Y大学就業規則所定の懲戒事由に該当するというべきである。

2 解職という処分は、Y大学就業規則において定める懲戒処分の中でも懲戒解雇に次いで重いものであるところ、 本件補助金を返納する直接の契機となった本件不当事項に関しては、K事務長が(懲戒処分でない)厳重注意とされているに止まるものであるから、その過程で判明した本件各非違行為に対してのみ、懲戒解職処分という重い処分とすることは、均衡に失するといわざるを得ない(Y大学は、本件不当事項は形式的、手続的なミスにすぎないと主張するが、そうはいっても、庶務課長という責任ある立場において、数百万円もの補助金の返納につながるミスをしたJ庶務課長の責任は本来重いはずであって、これとの均衡という点は無視できないはずである。)。また、会計年度を跨った処理にせよ、81万円に関する処理方法にせよ、J庶務課長ら庶務課の職員が認識し、事実上容認した上での行動と認められるのであって、この責任を全く庶務課職員に負担させることなく、Xらのみに帰するのは酷である。特に、本件光度計納入当時、同光度計のような高額機器の納入時にも庶務課が検収すら行っていなかったことからも明らかなように、Y大学において、実際の会計規律は極めて緩いものであったのであるから、手続面で問題があると返納を求められる可能性があるからといって、公的補助金により購入する場合にのみ厳格な会計規律を要求するのは筋が通らないというべきである。さらに、以上のような状況下で、当時、X研究室側において、実際、どの程度まで当該行為の悪性についての認識があったのかについても微妙な問題があるのであって、(少なくとも、X研究室側が、庶務課を欺くという意識の下に行動してなかったこと確かである。)、その行為の経緯、動機や主観的態様に照らしても、Xらについて強い非難が妥当するとまではいえない
以上のとおり、X1に対する本件懲戒解職処分は、その行為の性質、態様等に照らして重きに失するものであって、社会通念上相当と認められないから、懲戒権の濫用に当たり、無効というべきである。

相当性の要件でぎりぎり救われています。

労働者側とすれば、合理的理由が存在する場合には、相当性がないことをいかに主張できるかがポイントになってきます。

主張するポイントは、上記判例のポイント2を参考にしてみてください。

解雇を選択する前には必ず顧問弁護士に相談の上、慎重かつ適切に対応することが肝心です。決して、素人判断で進めないようにしましょう。