Daily Archives: 2013年8月6日

解雇111(ブルームバーグ・エル・ピー事件)

おはようございます。 

さて、今日は、通信社記者に対する能力・適格性低下を理由とする解雇に関する裁判例を見てみましょう。

ブルームバーグ・エル・ピー事件(東京地裁平成24年10月5日・労判1067号76頁)

【事案の概要】

本件は、Y社がXを能力・適格性低下を理由とする解雇の有効性が争われた事案である。

【裁判所の判断】

解雇は無効

【判例のポイント】

1 本件解雇は、結局、前記Ⅰの「社員の事故の職責を果たす能力もしくは能率が著しく低下しており改善の見込みがないと判断される場合」を解雇事由とするものと解するのが相当である。
そして、かかる勤務能力ないし適格性の低下を理由とする解雇に「客観的に合理的な理由」(労働契約法16条があるか否かについては、まず、当該労働契約上、当該労働者に求められている職務の能力の内容を検討した上で、当該職務能力の低下が、当該労働契約の継続を期待することができない程に重大なものであるか否か、使用者側が当該労働者に改善矯正を促し、努力反省の機会を与えたのに改善がされなかったか否か、今後の指導による改善可能性の見込みの有無等の事情を総合考慮して決すべきである

2 Y社は、Y社のビジネスモデルと新聞社や通信社のビジネスモデルとの間の違いから、記者として求められる能力、資質及び記事の執筆スタイルが両者間に大きな違いがある旨を主張している。
・・・しかしながら、他方で、①Y社においては、労働者の採用選考上かかるY社の特色あるビジネスモデル等に応じた格別の基準を設定したり、試用期間中(Y社においては原則として入社後6か月間が試用期間であると認められる。)においても格別の審査・指導等の対応を行う等の措置は講じていないと認められること、②Xの試用期間経過後、Xについて実施されたアクションプランやPIPにおいて、エディターや英語ニュース記者との連携、記事の執筆スピード等に関する指示、指導がされており、Y社の記者にはこれらの能力が求められていたことが認められるものの、これらの事項について社会通念上一般的に中途採用の記者職種限定の従業員に求められる水準以上の能力が要求されているとは認められないこと、以上からすれば、社会通念上一般的に中途採用の記者職種限定の従業員に求められていると想定される職務能力との対比において、XとY社との間の労働契約上、これを量的に超え又はこれと質的に異なる職務能力が求められているとまでは認められないというべきである。

3 ・・・以上によれば、Y社主張に係る記事内容の質の低さに関する事項は解雇事由とすることには、客観的合理性があるとはいえないというべきである。

Y社は、Xの解雇事由として、執筆スピードの遅さ、記事本数の少なさ、記事内容の質の低さを主張しましたが、いずれも解雇事由とすることには客観的合理性があるとはいえないと判断されています。

勤務能力や適性の欠如を理由に解雇をするのは、とてもハードルが高いです。

会社としては、どのように立証していくのかを事前に相当詰めておく必要があります。

解雇を選択する前には必ず顧問弁護士に相談の上、慎重かつ適切に対応することが肝心です。決して、素人判断で進めないようにしましょう。