Daily Archives: 2013年8月2日

賃金64(JR東海(新幹線運転士・酒気帯び)事件)

おはようございます。 今週も一週間、お疲れさまでした。

さて、今日は、酒気帯び状態による乗車不可に伴う減給処分に関する裁判例を見てみましょう。

JR東海(新幹線運転士・酒気帯び)事件(東京地裁平成25年1月23日・労判1069号5頁)

【事案の概要】

本件は、新幹線運転士業務等に従事し、労働組合分会の書記長を務めるXが、乗務点呼時に助役から酒臭を指摘されたうえ、呼気中アルコール濃度測定の測定方式によるアルコール検査の結果、1回目に0.071mg/l、2回目に0.070mg/lの各測定値が検知されたこと等に基づき、Y社により酒気帯び状態と認定されて乗務不可とされ、平成23年2月16日付で、平均賃金1日分の半額に相当する9409円の減給処分を受けたことにつき、Y社に対し、①本件数値が乗務不可とされる基準値の0.10mg/lを下回っていたのであるから、酒気帯び状態には当たらず、懲戒事由はないというべきであるし、②Y社が組合嫌悪の意図の下、Xに弁明の機会を付与することなく、他の処分例と比較して過重な本件減給処分をすることは、懲戒権の濫用に当たると主張して、本件減給処分の無効確認等を求めた事案である。

【裁判所の判断】

減給処分は無効

【判例のポイント】

1 懲戒処分は、企業秩序に違反する行為に対する制裁として科されるものであることからすると、違反行為と制裁との間には社会通念上相当と認められる関係があることを要するというべきであり、翻って、当該行為の性質・態様その他の事情に照らして社会通念上相当なものと認められない場合には無効となるものとされている(労働契約法15条)。そして、本件のような酒気帯び状態での勤務の事案における処分量定については、当該従業員の職種(違反主体の性質)、酒気帯び状態の程度、現実に酒気帯び状態で勤務に就いたか否か(違反行為の態様)、その結果、旅客等に危険が生じたか否か(生じた結果の程度)、反省の有無等(一般情状)、過去の処分歴や余罪の有無・内容(前歴等)などといった事情を総合して判断すべきものと解するのが相当である

2 そうすると、Y社においては、従業員が酒気帯び状態で勤務に就いたと判断される場合、本件のように、たとえ、外観や言動に異常がなく、アルコール検知器による呼気中のアルコール濃度の測定値が0.10mg/l未満の微量なものであったとしても、そのような要素は処分量定上考慮されることなく、一律に減給処分以上の懲戒処分がされているというのであるが、その処分量定における判断手法は、違反行為の態様、生じた結果の程度、一般情状等を考慮しない点で、問題があるといわざるを得ない

3 ・・・以上のとおり判示してきたところを踏まえて本件の事情を評価すると、Xは、新幹線の運転士及び車掌業務に従事していたが、本件数値は乗務不可とされる基準値を下回っていたこと、前日は必ずしも過度の飲酒に及んでいたわけではないようであり、当日も乗務に就く前に管理者から酒気帯び状態を指摘され、実際に乗務に就くことはなかったため、違反行為の態様は悪質とまではいえず、その結果も重大なものではなかったこと、当初こそ飲酒の事実を否定していたものの、まもなくこれを自認するに至り、その後は管理者の指示に従って事情聴取に応じ、本件アルコール検査を受けた上、「私の対策」と題する反省文を提出しており、一応は反省の態度が認められること、Xにつき、過去に同種の処分歴があったとは認められないことを指摘することができる
そうすると、本件減給処分については、Xが新幹線乗務員という旅客の安全を最優先とすべき職務上の義務を負う立場にあることを最大限考慮したとしても、違反行為の態様、生じた結果の程度、一般情状及び前歴等、更には、Y社の過去の処分例、JR他社の取扱いと比較して、その処分量定は重きに失しており、社会通念上相当性を欠き、懲戒権を濫用したものというべきであるから、無効であるといわざるを得ない

4 Xは、Y社に対して、慰謝料150万円の支払いを求めている。
しかしながら、本件減給処分が重きに失するとはいえ、新幹線乗務員という立場にあるXが、微量ではあるが酒気を帯びて業務に就いたことは事実であって、懲戒事由に該当する行為が存在したことは明らかである上、本件減給処分の無効が、判決という形で公権的に確定されることで、Xの昇格や昇進、退職金、再雇用に係る不利益は回避され、ひいてはXの名誉も回復されることになるのであるから、Y社が重きに失する本件減給処分を行ったことに対して、別個に慰謝料の支払いを命ずるまでの必要はないと解するのが相当である。・・・したがって、Xの不法行為に基づく損害賠償請求は理由がない。

電車や新幹線の運転手さんに限らず、運送会社のトラックの運転手さんなどにも応用できる事例ですね。

懲戒処分の種類(相当性)については、判断が難しいです。必ず顧問弁護士に相談しましょう。