Monthly Archives: 6月 2013

守秘義務・内部告発5(学校法人田中千代学園事件)

おはようございます。 

さて、今日は、マスコミに対する内部告発と懲戒解雇の有効性に関する裁判例を見てみましょう。

学校法人田中千代学園事件(東京地裁平成23年1月28日・労判1029号59頁)

【事案の概要】

Y社は、服飾の専門学校および短期大学を開設する学校法人である。

Xは、Y社の総務部総務課長であるが、Xは、週刊Pの記者に対し、内部告発をした結果、本件内部告発を掲載した週刊誌が発刊された。

これを受け、Y社は、Xを懲戒解雇した。

【裁判所の判断】

懲戒解雇は有効

【判例のポイント】

1 本件のような内部告発事案においては、①内部告発事実(根幹的部分)が真実ないしはXが真実と信ずるにつき相当の理由があるか否か、②その目的が公益性を有しているか否か、③労働者が企業内で不正行為の是正に努力したものの改善されないなど手段・態様が目的達成のために必要かつ相当なものであるか否かなどを総合考慮して、当該内部告発が正当と認められる場合には、仮にその告発事実が誠実義務等を定めた就業規則の規定に違反する場合であっても、その違法性は阻却され、これを理由とする懲戒解雇は「客観的に合理的な理由」を欠くことになると解するのが相当である

2 内部告発一般の位置付けからみて、その目的の公益性が認められることが大原則とされるべきである。そうすると内部告発の目的として公益的要素とそれ以外の要素が併存する場合には、その主たる目的が公益的要素にあることが必要であると解するのが相当である。

3 Xは、専ら自らの身分すなわち本件雇用契約上の地位を保全する意図の下、Gらが行っている文科省OB役員の退陣運動に賛同し、これに乗じて、偶さか知り合いになった週刊Pの記者に対して、本件内部告発を行うに至ったものと認めるのが相当である。・・・結局、本件内部告発に上記目的の公益性は認められないものというべきである

4 労働者は雇用契約上使用者に対して上記誠実義務を負っているのであるから、まず企業内部において当該不正行為の是正に向け努力すべきであって、これをしないまま内部告発を行うことは、企業経営に打撃を与える行為として上記誠実義務違反の評価は免れない。

5 本件内部告発先の週刊Pの記者は、本件内部告発事実についてXから実名報道の了解を得ただけで、Y社に対する反対取材を全く行わないまま本件週刊誌を発刊しており、このような報道姿勢は極めて誤報を生む危険性の高いものである。そうだとすると以上のような取材手法に基づき本件各記事を本件週刊誌上に執筆した上記週刊Pの記者ないしは同誌の公刊元は、少なくとも本件に関する限り、公通保護法所定の外部通報先には当たらない
よって、本件懲戒解雇に公通保護法3条の適用があるとするXの上記主張は失当ないし理由がなく、採用することはできない。

規範部分が明確に示されているため、参考になります。

内部告発、公益通報に関する問題は、顧問弁護士に相談の上、慎重に対応しましょう。

本の紹介212 やりたい事をすべてやる方法(企業法務・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

さて、今日は本の紹介です。
やりたい事をすべてやる方法
やりたい事をすべてやる方法 [単行本]

須藤元気さんの本です。

今回の本も、須藤さんの知的さ、ユニークさが全面に出ています。

とにかく内容がおもしろいので、一気に読んでしまいます。

また、須藤さんの考え方など、学ぶべき点がたくさんあります。

おすすめです!

さて、この本で「いいね!」と思ったのはこちら。

いまの自分があるのは、常にベストを尽くしてきた積み重ねの結果である。遠まわりして良かったなと思えるときがくれば、後悔はすぐに消えていく。どんな過去もそのときの自分にとってベストな選択をした結果だ。そんな風に考えられるようになると、次第に後悔というものがなくなる。僕らが取り組むべき課題は、いまという瞬間にベストを尽くし、いまという瞬間に言い訳を残さないことだ。」(167頁)

「いまという瞬間にベストを尽くす」というのは、実は、とても難しいと思っています。

なぜなら、本当にこれがベストなのか、自分では、正直、よくわからないからです。

私は、いつも「もっとやれたのではないか」という気持ちを持ってしまいます。

これって、「後悔」なのでしょうか? 「後悔」とはまたちょっと違うような気がします。

「後悔」というと後ろ向きな感じがしませんか?

そうではなくて、この感覚を次につなげるという前向きなものであるべきだと思うのです。

常に「まだまだ。もっとやれるはずだ。」という気持ちを残しつつ、これからも仕事をしていきたいと思っています。

解雇105(M社事件)

おはようございます。

さて、今日は、組合活動のため会社のパソコンのデータを持ち出した従業員の解雇に関する裁判例を見てみましょう。

M社事件(大阪地裁平成24年11月2日・労経速2170号3頁)

【事案の概要】

本件は、Y社に雇用されていたXらが、Y社からされた懲戒解雇が無効であるとして、雇用契約上の地位の確認等を求めた事案である。

Y社は、業務請負(設備機器類・産業廃棄物の構内管理業務)、廃棄物の処理、収集運搬等を業とする会社である。

本件懲戒解雇の解雇事由は、合同労組の組合員であったXらが、組合活動を有利に進めるためにY社の企業情報(取引先リスト、従業員の昇給に関するデータ)を持ち出したことである。

【裁判所の判断】

解雇は有効

【判例のポイント】

1 X1がY社の取引先リストや従業員の昇給に関するデータをプリントアウトして社外に持ち出した行為は、Y社就業規則74条8項「会社の機密情報を社外に漏洩しようとしたとき、あるいは現に漏洩させたとき又は事業上の不利益を計ったとき」に該当するものというべきである。
また、X1が、上記事実によって窃盗罪の有罪判決を受けていることからすれば、X1の上記行為は、Y社就業規則74条11項「会社内で横領、傷害などの刑法犯に該当する行為があったとき。」に該当することは明らかである。
そして、X1の上記行為は、・・・懲戒処分の中でも懲戒解雇に相当するというべきである。

2 Xらは、同人らが解雇理由とされている行為の背景には、Y社と組合との労働条件をめぐる対立状況があり、Y社は組合に対する嫌悪からXらに対する不利益な取扱いや団体交渉での不誠実な対応を繰り返していたのであり、Y社の行為がX1の行為を招いた側面があり、これを理由として懲戒解雇することは、社会通念上相当ではない旨主張する
しかしながら、仮にXらが主張するとおりの事実が存在するとしても、Y社に対する対抗手段として窃盗行為等の犯罪行為を行うことが正当化されることはあり得ず、また、このことは懲戒解雇が社会通念上相当か否かを判断するにあたっても同様である

3 Xらは、取引先リストについて、同資料が街宣活動に利用されたという事実はなく、従業員であれば誰でも知っているY社に関連する場所である、得意先一覧が組合の街頭宣伝活動に不可欠というわけではない、組合が街頭宣伝活動を行った場所は全て、得意先一覧が無くともY社従業員であれば誰でも知っているY社に関連する場所であり、得意先一覧とは無関係であるなどと主張する
しかし、本件解雇理由においては、持ち出された取引先リストが利用されて街宣活動が行われたことではなく、このようなリストが持ち出されたこと自体が懲戒理由として主張されており、同事実については、当事者間に争いがないのであり、その行為の内容やXらが窃盗罪及び盗品等無償譲受け罪で有罪判決を受けていることからすれば、Y社の取引先リストが実際に街宣活動に利用されたか否かによって、懲戒解雇の有効性の判断は左右されないというべきである

原告は、窃盗罪、盗品等無償譲受罪で有罪判決を受けていますので、懲戒解雇は有効であると判断されやすくなります。

会社のお金を使い込んだ場合なども同様に刑法犯ですので、懲戒解雇は有効と判断されやすいです。

本件は、会社と組合との対立があったようですが、このことにより上記行為の違法性が阻却されることにならないという判断です。

解雇を選択する前には必ず顧問弁護士に相談の上、慎重かつ適切に対応することが肝心です。決して、素人判断で進めないようにしましょう。

本の紹介211 今、頑張れないヤツは一生頑張れない。(企業法務・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

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←先日、勉強会の帰りに「こはく」に行ってきました。

写真は、「ぶっかけそうめん」です。

締めの一品にもってこいです。

上にのっている数種類の薬味がとてもよく合います。

 

今日は、午前中は、裁判が2件入っています。

午後は、離婚調停が1件と新規相談が1件入っています。

今日も一日がんばります!!

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さて、今日は本の紹介です。
今、頑張れないヤツは一生頑張れない。 ―カリスマ講師・吉野敬介の成功に導く100の言葉
今、頑張れないヤツは一生頑張れない。 ―カリスマ講師・吉野敬介の成功に導く100の言葉 [単行本(ソフトカバー)]

著者は、東進ハイスクールの古文の先生です。

林先生が「いつやるか?今でしょ!」が代表的なフレーズなら、吉野先生は「今、頑張れないヤツは一生頑張れない」が代表的なフレーズでしょうか。

両者とも、「今、頑張れ!」「今頑張らないでいつ頑張るんだ」というメッセージが伝わってきますね。

とても良い本です。 おすすめです!

吉野先生の本を、もう少し読んでみたくなりました。

さて、この本で「いいね!」と思ったのはこちら。

仕事で成功するということは、人に影響を与えられる人間になるということだ。俺と会ったことがきっかけで、学校の先生や予備校講師になったヤツが何人もいる。俺はそいつらに、今度はおまえが後輩から目標とされる人間になれ、と言っている。
先輩から学んだことを、おまえの代で止めるな。おまえ自身の経験をプラスして、後輩に伝えていけ。経験は、自分のためだけに使うものじゃない。自分の後に続く者たちのために使ってこそ、生きるんだ。
」(147頁)

「仕事で成功するということは、人に影響を与えられる人間になるということだ」

「先輩から学んだことを、おまえの代で止めるな」

いい言葉ですね。

あんまり付け足す必要がないほど、ドストライクです。

私も、人に影響を与えることのできる人間になれるようにこれからもがんばっていきます。

退職勧奨9(日本アイ・ビー・エム(退職勧奨)事件)

おはようございます。 今週も一週間がんばりましょう!!

さて、今日は、退職勧奨に関する裁判例を見てみましょう。

日本アイ・ビー・エム(退職勧奨)事件(東京高裁平成24年10月31日・労経速2172号3頁)

【事案の概要】

Y社は、企業体質強化を目的とし、退職者支援プログラムを用意しつつ、一定層の従業員をターゲットにして、全社的に退職勧奨を実施した。

Y社は、平成20年10月頃から、Xらに対する退職勧奨ないし業績改善のための2回ないし7回にわたる面談を行った。

Xら4名の従業員は、Y社が行った退職勧奨が違法な退職強要に当たるとして、Y社に対して不法行為による損害賠償請求を行った。

【裁判所の判断】

控訴棄却
→本件退職勧奨は違法ではない。

【判例のポイント】

1 労働契約は、一般に、使用者と労働者が、自由な意思で合意解約をすることができるから、基本的に、使用者は、自由に合意解約の申入れをすることができるというべきであるが、労働者も、その申入れに応ずべき義務はないから、自由に合意解約を応じるか否かを決定することができなければならない。したがって、使用者が労働者に対し、任意退職に応じるよう促し、説得等を行うことがあるとしても、その説得等を受けるか否か、説得等に応じて任意退職するか否かは、労働者の自由な意思に委ねられるものであり、退職勧奨は、その自由な意思形成を阻害するものであってはならない。
したがって、退職勧奨の態様が、退職に関する労働者の自由な意思形成を促す行為として許容される限度を逸脱し、労働者の退職についての自由な意思決定を困難にするものであったと認められるような場合には、当該退職勧奨は、労働者の退職に関する自己決定権を侵害するものとして違法性を有し、使用者は、当該退職勧奨を受けた労働者に対し、不法行為に基づく損害賠償義務を負うものというべきである

2 以上のとおり、RAプログラム(リソース・アクションプログラム)の目的及び退職者の選定方法は、基本的には不合理なものとはいえず、定められた退職勧奨の方法及び手段自体が不相当であるともいえない。したがって、Y社がXらを選定し、退職勧奨を試みたことについては、①その個別の選定に合理性を欠いていたか否か、②その具体的な退職勧奨の態様において、社会通念上相当と認められる範囲を逸脱していたか否かが問題となる。

3 Y社には、業績評価の客観性を確保する基準としてのPBC(人事業績評価制度、パーソナル・ビジネス・コミットメント)が存在し、従業員に厳しいコンプライアンス教育が施されていたことは原判決の認定の通りであり、RAプログラムには、面談の留意事項として退職強要は許されず、対象者の「自由意思」を尊重することが掲げられ、具体的かつ詳細な注意事項が示されて講義や面談研修も施されており、これらの措置は、個別の退職勧奨が、対象者の自由な意思形成を促す限度で行われ、法的に正当な業務行為として許容されるように慎重に配慮されたものと認められるところ、このような配慮に従って、業績評価の客観性が確保され、面談の留意事項が遵守されるのであれば、RAプログラムによる退職勧奨に基づく説得は、自由な意思形成を促す行為として社会的に許容される範囲を逸脱するとは解されない。

本件の一審判決はこちらです。

使用者側とすれば、退職勧奨が違法であると判断されないために退職勧奨をする際の留意点を予め明確にしておく必要があります。

過去の裁判例から失敗例・成功例を学び、実務に応用することが大切です。

是非、顧問弁護士を活用し、日々、準備をしておきましょう。

本の紹介210 今やる人になる40の習慣(企業法務・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。 今週も一週間、お疲れ様でした。
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←先日、セミナー終了後、社労士の先生と事務所の近くの「VENTI DUE」に行ってきました。

写真は、「ブロッコロ」です。ブロッコリーのアーリオ・オーリオ炒めです。 やみつきになります。

超おすすめです。

いつもながら、おいしゅうございました。

今日は、午前中は、顧問先会社でセミナーが入っています。

テーマは、「第6回 契約書作成に必要なリーガルマインド習得講座」です。

各種契約書を作成する部署の担当者向けに法律的な視点をシリーズでお話しています。

午後も、別の会社での社内セミナーが入っています。

テーマは、「改正労働契約法・最新重要判例から読み解く有期雇用契約のポイント」です。

労働契約法の改正内容の復習及ぶ重要判例から有期雇用契約の法的注意点についてお話をします。

今日は、ずっとセミナーですね。

今日も一日がんばります!!

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さて、今日は本の紹介です。
今やる人になる40の習慣
今やる人になる40の習慣 [単行本]

東進ハイスクールの林先生、2冊目の本です。

1冊目の「いつやるか? 今でしょ!」は、以前、紹介しました。

いいですね。 勢いがあります。

いい流れに乗っているときは、躊躇せず、流れに身をまかせるべきです。

さて、この本で「いいね!」と思ったのはこちら。

・・・僕はこう考えています。仕事を選ぶなどというのは、その道の『大家』がすること。『修行中』の身で、仕事を選ぶなんて十年早い、と。なにか新しい仕事を振られると、すぐに『ムリ』と言う人がいます。しかし、これは随分もったいないことをしていると思うんですよ。・・・こいつにやらせてみよう、こいつならできるんではないか、そう思って仕事を与えることのほうが圧倒的に多いのです。その際に、『イヤ、僕にはムリです』と答えてしまったら、もしかしたら適性のあるかもしれないジャンルをみすみす逃してしまうことにもなりかねません。ここは、『そうか、僕はこの仕事ができると思われているんだ、よしやってみよう』 こう考えて、ありがたく拝命すべきです。」(86~87頁)

確かに、林先生、仕事を選ばず、どんどん引き受けています(笑)

有言実行ですね。 すばらしい。

やったことのない仕事をふられた時、どのように捉えるかでその人の成長の度合いが決まるように思います。

「こんなの無理だよ」とマイナスに捉えるか。

「よし。これでまだ成長できる!」とプラスに捉えるか。

周りの人は、後者のような人を放っておきません。

常に前向きで、向上心に溢れている人を、周りは放っておかないのです。

こういう人の周りには、同じように前向きで向上心に溢れている人が自然と集まり、結果として、どんどんステップアップしていくのだと思います。

こういうのを「引き寄せの法則」とは言うんでしょうね。

労働災害65(ニューメディア総研事件)

おはようございます。
__←先日、スタッフ全員と久しぶりに鷹匠の「TORATTORIA IL Paladino」にランチを食べに行ってきました。

写真は、「山田農園無農薬野菜のペペロンチーノ、アンチョビ風味」です。

やさしい味付けで、おいしゅうございました。

 

今日は、午前中は、沼津の裁判所で離婚調停です。

午後は、静岡に戻り、労働事件の裁判が1件、新規相談が2件入っています。

今日も一日がんばります!!

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さて、今日は、過重労働で突然死した女性SEの遺族による損害賠償請求に関する裁判例を見てみましょう。

ニューメディア総研事件(福岡地裁平成24年10月11日・労判1065号51頁)

【事案の概要】

本件は、Xの相続人らが、Xが死亡したのは承継前被告であるY社における業務の過重負荷に起因するものである旨主張し、不法行為に基づく損害賠償請求又は労働契約上の債務不履行に基づく損害賠償請求として、Y社に対し、損害賠償請求をした事案である。

【裁判所の判断】

Y社に対し、合計約6800万円の支払を命じた。

【判例のポイント】

1 労働者が労働日に長時間にわたり業務に従事する状況が継続するなどして、疲労や心理的負荷等が過度に蓄積すると、労働者の心身の健康を損なう危険のあることは、周知のところである(最高裁平成12年3月24日判決)。そして、厚労省認定基準やその運用上の留意点においては、業務の過重性の具体的な評価に当たっては、疲労の蓄積の観点から、労働時間(時間外労働時間)を中心として、不規則の勤務、拘束時間の長い勤務、出張の多い業務、交替制勤務・深夜勤務、作業環境(温度環境・騒音・時差)、精神的緊張を伴う業務等の他の負荷要因について十分検討するものとされ、専門検討会報告書においても、長期間にわたる長時間労働やそれによる睡眠不足に由来する疲労の蓄積が血圧の上昇などを生じさせ、その結果、血管病変等をその自然的経過を超えて増悪させる可能性のあること、また、過労が身体的ストレスのみならず精神的ストレス状態であり、突然死の大きな修飾因子となること、などが指摘されている。

2 Y社は、Xの業務は過重なものではなく、Xの死亡に対する予見可能性はなかった旨主張するが、労働者が労働日に長時間にわたり業務に従事する状況が継続するなどして、疲労や心理的負荷等が過度に蓄積すると、労働者の心身の健康を損なう危険のあることは、周知のところであり、かつ、本件事故当時におけるXの業務の量・内容が過重負荷なものであり、Y社はそのことを認識し、又は認識し得べき立場にあったのであるから、Y社にはXの死亡に対する予見可能性があったものというべきであり、Y社の上記主張を採用することはできない。

3 Xは、平成19年3月8日にUクリニックを受診しているところ、Y社は、Xや付添いをしていたXの相続人が、医師に自殺未遂の事実を伝えず、また、医師から指示のあった再診を受けず、処方された薬も服用しなかった、として、これが過失相殺事由に該当する旨主張する。
しかしながら、Xの自殺未遂は、Xの業務が脳・親族疾患の発症をもたらす過重なものであったことの顕れとして理解すべきものであるところ、Xは、同クリニックに対し、Y社に入社して10年間、土日にも出社して仕事をしており、オーバーワークの状態にある旨申告しているのであるから、Xが医師に対して自殺未遂の事実を伝えていたかどうかは本質的な問題ではない。また、同クリニックは心療内科であり、処方された薬も神経症(神経衰弱状態)との診断に対する抗不安剤にすぎないから、Xが、同クリニックを再受診し、また、医師から処方された薬を服用したとしても、そのことによって疲労の蓄積から解放され血管病変等をその自然的経過を超えて増悪させる可能性が減少したといえるかどうかには疑問があるといわざるを得ない。

4 Y社は、XがY社に対して再三にわたり回復した旨の連絡と復帰の申入れをし、相続人らもXの上記申入れ等を止めることなくむしろ勧めていた旨主張する
この点、労働者は、一般の社会人として、自己の健康の維持に配慮すべきことが期待されているのは当然であるけれども、Xによる復職の申入れが自身の健康を増悪させることを認識・認容してなされたものとは考えがたく、そのような事実を認め得る証拠は見当たらないし、そもそも、使用者は、その雇用する労働者に従事させる業務を定めてこれを管理するに際し、業務の遂行に伴う疲労や心理的負荷等が過度に蓄積して労働者の心身の健康を損なうことがないよう注意する義務を負っているのであるから、Y社としては、Xが復職をするに当たり、休職前におけるXの稼働状況に鑑み、新たな人員を配置してチームの人員を増やしたり、Xに休暇等を取らせたりしてその疲労の蓄積を解消させる措置をとるなど、業務の量・内容等が過度にならないようなものとする措置を具体的に講じなければならないのであり、Xが再三にわたり復職の申入れをしたとの一事をもって過失相殺事由が存在するということはできない

使用者側は、上記判例のポイント4を是非、参考にしてください。

裁判所としては、このような判断をすることになります。

従業員が復職を求めてきた際は、使用者は復職が客観的に可能か否か、仮に復職を認めるとして、就労環境等に十分に配慮する必要があります。

本の紹介209 クオリティ・カンパニー(企業法務・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

さて、今日は、本の紹介です。
クオリティ・カンパニー
クオリティ・カンパニー [単行本]

すばらしい本です。

経営の理念が詰まっています。

自社の経営理念を見つめ直す機会を与えてくれるはずです。

この本を読んで、著者の考えをもっと知りたくなりました。

早速、青木さんのブログをお気に入りに追加し、メルマガの登録をしました。

若い経営者は、読むべきです。 読んで実践すべきです。

さて、この本で「いいね!」と思ったのはこちら。

経営の目的とは、その会社に縁ある人を幸せにすることである。その対象は社員、顧客、取引先、企業が所在している地域社会、支援者として存在する株主など多岐にわたる。経営の第一義的な目的が、利潤の追求にあるという考え方は間違いである。利益は人を幸せにした結果、得られる果実である。売上から経費を差し引けば利益になるのだから、事業を運営していて儲からないほうがおかしい。儲からないとは客足が途絶えているということである。それは顧客を幸せにできていないから起こることだ。経営が難しいのではない。当たり前のことを当たり前にすることが難しいのである。」(1頁)

この「経営の目的」を読んで、単なるきれいごとと考えるか、心の底から共感できるかが、まず第一歩目の分かれ道です。

何に幸せを感じるかということに尽きると思うのですが、自分はもちろんのこと、関わりのある人をも幸せにしたいと考えることが経営の目的なのではないでしょうか。

一生涯を通じて、スタッフや依頼者の幸せに貢献できる仕事をしていきたいです。

また、そう思うことのできる仲間と一緒に仕事をしていきたいです。

労働災害64(日本赤十字社(山梨赤十字病院)事件)

おはようございます。
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←先日、休日出勤をしていたスタッフと一緒に、久しぶりに事務所の近くの「くりた」に行ってきました。

写真は、「鴨南ばん」です。

いい出汁が出ていて、おいしゅうございました。

午前中は、労働事件の裁判が1件と交通事故の裁判が1件入っています。

午後は、顧問先会社でのセミナーと打合せが3件入っています。

今日のセミナーのテーマは、「従業員が知っておくべきコンプライアンス講座~基礎編~」です。

全従業員を対象に、最低限知っておくべき法的ルールについてお伝えします。

今日も一日がんばります!!

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さて、今日は、うつ病発症・自殺した介護職員の遺族からの損害賠償請求に関する裁判例を見てみましょう。

日本赤十字社(山梨赤十字病院)事件(甲府地裁平成24年10月2日・労判1064号37頁)

【事案の概要】

本件は、Y社の運営するリハビリテーション施設で介護職に従事していたXが自殺により死亡したことについて、Xの妻及び子が、Xは長時間かつ過密な業務に従事していたにもかかわらず、Y社がXの心身の健康を損なうことがないよう配慮する措置を何ら採らなかったため、うつ病エピソードを発症し、前記自殺をするに至ったと主張して、Y社に対し、不法行為ないし債務不履行に基づき、合計8895万3000円の損害賠償請求をした事案である。

【裁判所の判断】

Y社に対し、損益相殺後、合計約2500万円の支払を命じた。

【判例のポイント】

1 労働者が労働日に長時間にわたり業務に従事する状況が継続するなどして、疲労や心理的負荷等が過度に蓄積すると、労働者の心身の健康を損なう危険のあることは周知のところである。
労働基準法は、労働時間に関する規制を定め、労働安全衛生法65条の3は、作業の内容等を特に限定することなく、事業者は労働者の健康に配慮して労働者の従事する作業を適切に管理するように努めるべき旨を定めているが、それは、前記のような危険が発生するのを防止することをも目的とするものと解される。これらのことからすれば、使用者は、その雇用する労働者に従事させる業務を定めてこれを管理するに際し、業務の遂行に伴う疲労や心理的負荷等が過度に蓄積して労働者の心身の健康を損なうことがないよう注意する義務を負うと解するのが相当であり、使用者に代わって労働者に対し業務上の指揮監督を行う権限を有する者は、使用者の前記注意義務の内容に従って、その権限を行使すべきである(最高裁平成12年3月24日判決)。

2 タイムカードは、労働時間を把握する法的義務を負っている使用者が労働者の勤怠を管理するために労働者に打刻させる記録である以上、特段の事情がない限り、労働者がタイムカードに記載された始業時間から終業時間まで業務に従事していたものと事実上推定すべきであって、タイムカードの客観的記載と労働の実態との間に乖離が生じている旨を主張する使用者には、高度の反証が要求されるというべきである

3 Y社においては、職員が時間外労働に従事した場合、その時間や用務等を記載した時間外勤務申請書を提出することとされていたため、Xが現実の時間外労働時間を逐一正確に記載して提出していたか疑わしい上、このような申請書の性格上、労働者が使用者に遠慮して現実に従事した時間外労働時間よりも少なく申告する可能性があることも容易に推察されるところであるから、当該申請書はXの時間外労働時間を客観的に反映したものとはいえない

4 ・・・本件自殺前6か月間のXの時間外労働時間は99時間30分に及んでおり、特に本件自殺前1か月間の時間外労働時間は166時間を超えていた上、業務内容自体の重さ及びE所の責任者に就任することによる業務量及び精神的負荷の増加も考慮すると、Xの担っていた業務は過重なものであったと評価することができる。

5 長時間にわたり業務に従事する状況が継続するなどして、疲労や心理的負荷等が過度に蓄積すると、労働者の心身の健康を損なう危険性のあることは周知の事実であり、うつ病等の精神障害を発症した者に自殺念慮が出現して自殺に至ることは社会通念に照らして異常な出来事とはいえないから、長時間労働等によって労働者が精神障害を発症し、自殺に至った場合においては、使用者が、長時間労働等の実態を認識し、又は認識し得る限り、使用者の予見可能性に欠けるところはないというべきであって、予見可能性の対象として、うつ病を発症していたことの具体的認識等を要するものではないと解するのが相当である

6 Y社においては、職員の勤怠管理を上記のようなタイムカードで行っていた以上、Xの労働時間が長時間に上っていた以上、Xの労働時間が長時間に上っていることや労働内容にも一定の配慮が必要な業務が多いことなどを認識し、あるいは容易に認識し得たにもかかわらず、Y社では、タイムカードを確認してXの労働時間を把握することすらしておらず、Xが適切な業務遂行をなし得るような人的基盤の整備ないし時間外労働時間の減少に向けた適切な指示等をせずに、漫然と放置していたものである。
したがって、Y社は、Xに従事させる業務を定めて管理するに際して、同人が適切な業務遂行をなし得るような人的基盤の整備等を行うなど労働者の心身の健康に配慮し、十分な支援体制を整える注意義務を怠ったものと認められる。

使用者側としては、上記判例のポイント2を参考にしてください。

実際、反証をするのは容易なことではありませんので。

本の紹介208 あなたの潜在能力を引き出す20の原則と54の名言(企業法務・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。 今週も一週間がんばっていきましょう!!
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←土曜日に、月一恒例の用宗海岸の掃除に行ってきました。

目の前に落ちているゴミ1つ拾えない者が世の中を変えることなんてできませんから。

今日は、午前中は、証人尋問の最終準備です。

午後は、ずっと証人尋問です。

今日も一日がんばります!!

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さて、今日は本の紹介です。
あなたの潜在能力を引き出す20の原則と54の名言

2年ほど前の本ですが、もう一度読み直してみました。

よくある感じの本ですが、とてもいいことが書かれています。

言葉にはとても強い力があることを再認識させられます。

さて、この本で「いいね!」と思ったのはこちら。

・・・残念ながら、『今すぐに欲しい』というメンタリティは、多くの人を挫折に導いています。『今すぐに欲しい』という衝動を抑え、将来的に最大の恩恵を得るのに必要な代償を進んで払おうとする人はごくわずかしかいません。しかし、それができれば、長期的な成長と幸せを手に入れる可能性は飛躍的に高まります。」(243頁)

コンスタントに成果をあげるためには、まず必要なことは、「楽して成果を出したい」「楽して儲けたい」という邪念を捨てることではないでしょうか。

少なくとも私は、楽してコンスタントに成果をあげる方法を知りません。

あったらこっそり教えてください。 あ・・・邪念が・・。

もう1つ。

仕事でも勉強でもそうですが、あまり短期的に成果を出そうと思わず、根気強く、地味な努力を続けることができる人というのは、本当に強いですね。

こういう人を、私は、人としてとても信頼できます。

こういう人は、周りの人の心を動かす力を持っているからです。