Daily Archives: 2013年6月4日

労働災害64(日本赤十字社(山梨赤十字病院)事件)

おはようございます。
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←先日、休日出勤をしていたスタッフと一緒に、久しぶりに事務所の近くの「くりた」に行ってきました。

写真は、「鴨南ばん」です。

いい出汁が出ていて、おいしゅうございました。

午前中は、労働事件の裁判が1件と交通事故の裁判が1件入っています。

午後は、顧問先会社でのセミナーと打合せが3件入っています。

今日のセミナーのテーマは、「従業員が知っておくべきコンプライアンス講座~基礎編~」です。

全従業員を対象に、最低限知っておくべき法的ルールについてお伝えします。

今日も一日がんばります!!

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さて、今日は、うつ病発症・自殺した介護職員の遺族からの損害賠償請求に関する裁判例を見てみましょう。

日本赤十字社(山梨赤十字病院)事件(甲府地裁平成24年10月2日・労判1064号37頁)

【事案の概要】

本件は、Y社の運営するリハビリテーション施設で介護職に従事していたXが自殺により死亡したことについて、Xの妻及び子が、Xは長時間かつ過密な業務に従事していたにもかかわらず、Y社がXの心身の健康を損なうことがないよう配慮する措置を何ら採らなかったため、うつ病エピソードを発症し、前記自殺をするに至ったと主張して、Y社に対し、不法行為ないし債務不履行に基づき、合計8895万3000円の損害賠償請求をした事案である。

【裁判所の判断】

Y社に対し、損益相殺後、合計約2500万円の支払を命じた。

【判例のポイント】

1 労働者が労働日に長時間にわたり業務に従事する状況が継続するなどして、疲労や心理的負荷等が過度に蓄積すると、労働者の心身の健康を損なう危険のあることは周知のところである。
労働基準法は、労働時間に関する規制を定め、労働安全衛生法65条の3は、作業の内容等を特に限定することなく、事業者は労働者の健康に配慮して労働者の従事する作業を適切に管理するように努めるべき旨を定めているが、それは、前記のような危険が発生するのを防止することをも目的とするものと解される。これらのことからすれば、使用者は、その雇用する労働者に従事させる業務を定めてこれを管理するに際し、業務の遂行に伴う疲労や心理的負荷等が過度に蓄積して労働者の心身の健康を損なうことがないよう注意する義務を負うと解するのが相当であり、使用者に代わって労働者に対し業務上の指揮監督を行う権限を有する者は、使用者の前記注意義務の内容に従って、その権限を行使すべきである(最高裁平成12年3月24日判決)。

2 タイムカードは、労働時間を把握する法的義務を負っている使用者が労働者の勤怠を管理するために労働者に打刻させる記録である以上、特段の事情がない限り、労働者がタイムカードに記載された始業時間から終業時間まで業務に従事していたものと事実上推定すべきであって、タイムカードの客観的記載と労働の実態との間に乖離が生じている旨を主張する使用者には、高度の反証が要求されるというべきである

3 Y社においては、職員が時間外労働に従事した場合、その時間や用務等を記載した時間外勤務申請書を提出することとされていたため、Xが現実の時間外労働時間を逐一正確に記載して提出していたか疑わしい上、このような申請書の性格上、労働者が使用者に遠慮して現実に従事した時間外労働時間よりも少なく申告する可能性があることも容易に推察されるところであるから、当該申請書はXの時間外労働時間を客観的に反映したものとはいえない

4 ・・・本件自殺前6か月間のXの時間外労働時間は99時間30分に及んでおり、特に本件自殺前1か月間の時間外労働時間は166時間を超えていた上、業務内容自体の重さ及びE所の責任者に就任することによる業務量及び精神的負荷の増加も考慮すると、Xの担っていた業務は過重なものであったと評価することができる。

5 長時間にわたり業務に従事する状況が継続するなどして、疲労や心理的負荷等が過度に蓄積すると、労働者の心身の健康を損なう危険性のあることは周知の事実であり、うつ病等の精神障害を発症した者に自殺念慮が出現して自殺に至ることは社会通念に照らして異常な出来事とはいえないから、長時間労働等によって労働者が精神障害を発症し、自殺に至った場合においては、使用者が、長時間労働等の実態を認識し、又は認識し得る限り、使用者の予見可能性に欠けるところはないというべきであって、予見可能性の対象として、うつ病を発症していたことの具体的認識等を要するものではないと解するのが相当である

6 Y社においては、職員の勤怠管理を上記のようなタイムカードで行っていた以上、Xの労働時間が長時間に上っていた以上、Xの労働時間が長時間に上っていることや労働内容にも一定の配慮が必要な業務が多いことなどを認識し、あるいは容易に認識し得たにもかかわらず、Y社では、タイムカードを確認してXの労働時間を把握することすらしておらず、Xが適切な業務遂行をなし得るような人的基盤の整備ないし時間外労働時間の減少に向けた適切な指示等をせずに、漫然と放置していたものである。
したがって、Y社は、Xに従事させる業務を定めて管理するに際して、同人が適切な業務遂行をなし得るような人的基盤の整備等を行うなど労働者の心身の健康に配慮し、十分な支援体制を整える注意義務を怠ったものと認められる。

使用者側としては、上記判例のポイント2を参考にしてください。

実際、反証をするのは容易なことではありませんので。