おはようございます。
さて、今日は営業スタッフに対する諭旨退職処分の効力に関する裁判例を見てみましょう。
ネッツトヨタ札幌(諭旨退職処分)事件(札幌地裁平成24年6月5日・労判1058号88頁)
【事案の概要】
本件は、Y社にサービス担当の総合職エンジニアとして採用され、営業スタッフとして勤務していたXが、Y社から諭旨退職処分とする旨の意思表示をされたが、(1)同処分に不可欠な退職届を提出することもなかったから、同処分が効果を生じておらず、未だY社との間の雇用契約は終了していないし、(2)諭旨退職処分の効力が生じているとしても、同処分には客観的に合理的な理由がなく、社会通念上も相当であるといえないから、同処分が懲戒権の濫用により無効であると主張し、雇用契約に基づいて、同契約上の地位の保全と給与の仮払いとを求めた事案である。
【裁判所の判断】
諭旨退職処分は無効
【判例のポイント】
1 ・・・上記通知には、「貴殿は、本日まで、退職届を出していません。そこで、通知人会社は、貴殿に対し、本書送達後5日以内に、書面で退職届を提出するように、改めて、通知します。もしこの期間内に、貴殿から諭旨退職届のないときには、直ちに懲戒解雇となりますので、御留意下さい。」と記載されていると疎明されるから、それ自体、停止条件付きの懲戒解雇の意思表示と解することもできないものではない。また、Y社における従業員の退職については、自己都合退職について「本人の都合により、退職を願い出て会社の承認があったとき」と定められているほか、「その他相当の理由があるとき」と定められていると疎明される一方、諭旨退職の手続については、「諭旨のうえ退職させる」と規定されているのみであるから、Y社においては、諭旨退職の手続について必ずしも退職届の提出が必須のものとされているものではないと考えられる。そうすると、本件諭旨退職処分については、退職届の提出期限である平成23年12月30日の経過をもって、その効果が発生したものと解するのが相当である。
2 本件においては、Xに雇用契約上の権利を有する地位にあることを仮に定めるべき保全の必要性があることを疎明するに足りる主張も疎明資料もない。
3 疎明資料及び審尋の全趣旨によれば、Xは、妻の外、Xの父及び兄とともに二世帯住宅において生活を送っているが、X夫婦とXの父及び兄とは別々に生計を立てていること、X及び妻は、夫婦の生活費の外、同住宅を取得する際の兄名義の住宅ローン月額13万円のうち8万円並びに同住宅の光熱費等のうち燃料代及び回線使用料等を負担していること、Xの妻は、本件諭旨退職処分の後、失業するに至っているほか、Xの父及び兄からの援助も期待することができないこと、Xに貯蓄等の蓄えもないことが疎明される。このようなXの生活状況等に照らすと、本件においては、Xが請求する月額賃金にほぼ相当する額の仮払いを命ずるだけの保全の必要性があるということができる(一方で、月額賃金を超えて賞与等の仮払いを命ずるだけの保全の必要性についての具体的な主張も疎明もない。)が、一方で、本案審理の見込みに照らすと、賃金の仮払いは、平成24年6月から平成25年5月までに限って認めることが相当である。
本件は、仮処分事案です。
上記判例のポイント1は、おもしろい認定のしかたをしていますね。
「まあ、そうとも解釈できるね」という感じでしょうか。
仮処分事案ですので、被保全権利と保全の必要性について疎明しないといけません。
現在、私も2件、労働事件の仮処分事件をやっています(1つは労働者側、1つは使用者側)。
賃金仮払いの仮処分が認められると、労働者側とすると非常に助かる反面、使用者側とすると非常につらいところです。
自ずと攻防も激しくなります。
訴訟とは異なるポイントを押さえつつ、全力で戦うのみです。
解雇を選択する前には必ず顧問弁護士に相談の上、慎重かつ適切に対応することが肝心です。決して、素人判断で進めないようにしましょう。