Monthly Archives: 3月 2013

管理監督者32(VESTA事件)

おはようございます。

さて、今日は、営業社員2名による残業代等請求に関する裁判例を見てみましょう。

VESTA事件(東京地裁平成24年8月30日・労判1059号91頁)

【事案の概要】

Y社は、不動産の調査、鑑定および資料収集業務、賃貸契約に対する保証業務等を目的とする会社である。

X1及びX2は、Y社に勤務していた者である。

Xらは、Y社に対し、未払残業代の請求をした。

【裁判所の判断】

X1については、約367万円の割増賃金の支払を認めた。

X2については、管理監督者性を肯定し、割増賃金の請求を棄却した。

【判例のポイント】

1 (1)X1の職務内容は、他の従業員と同様に、督促及び営業業務が中心であり、支店長としての職務内容も、支店の業務内容のとりまとめ及びその報告等にとどまり、人事に係る決裁権もなかったこと、(2)実際の労働時間について、Y社においては、タイムカードの打刻等が義務付けられていた形跡はなく、必ずしも厳格な労働時間管理がされていたとは認められないものの、その点は、他の従業員についても同様であり、X1が出社時間、退社時間に裁量を有していたとまでは認められないこと、(3)待遇の内容、程度について、X1は、平均賃金額よりも月額15万円前後と高額の賃金を取得していたことが認められるものの、他の従業員と同様に督促及び営業業務を担当しながら、支店長としての業務も遂行していたことに照らすと、その賃金額も必ずしも高額であるということはできない。

2 Y社は、X1の職務内容及び権限として、A営業所及びB支店に勤務中、中国・四国エリアの営業責任者として同エリア所在の各支店から提出される営業等に関する稟議書の取りまとめ、確認、承認をした上でY社に提出するほか、同エリアにおける従業員の採用及び退職の際に最終面接をし、その結果をY社に報告し、意見を述べる立場にあり、同エリアの従業員の人事に関する最終決定に当たってその意見が重視されていたから、X1が経営者と一体的立場にあったと主張する。しかし、稟議書の決裁権はX2にあり、従業員の人事権もY社の役員にあって、X1にはなかったことが認められるし、中国・四国エリアの稟議書のとりまとめ、確認、承認の権限、同エリアの従業員の最終面接をする権限があるからといって、X1が経営者と一体的な立場にあったと認めることはできない。また、従業員の人事に関する最終決定に当たって、X1の意見が重視されていたと認めるに足りる的確な証拠はないし、X1の意見がどのように取り扱われていたかも不明である。したがって、Y社の上記主張は採用することができない。
以上によれば、X1が経営者と一体的な立場にある者ということはできないから、管理監督者には当たらないというべきであり、ほかにX1が管理監督者に当たることを裏付けるに足りる事情はうかがわれない。

3 ・・・続いて、A営業所及びE支店勤務中の平日の終業時刻については、これを認めるに足りる客観的記録は存在しないが、X1は、その本人尋問において、割増賃金を請求する全期間を通じて、主として督促及び営業業務を担当し、午後7時頃まで営業で外回りをした後、午後9時頃までは電話による督促業務等を行うことが義務付けられており、業務終了前に帰宅したことはなかった旨供述する一方、労基法108条等に基づき労働時間を適性に把握することを義務付けられるY社が、従業員の労働時間を厳格にしておらず、X1が午後9時頃までは営業及び督促業務に従事していたことについて積極的に反証していないことに照らすと、A営業所及びE支店勤務中の終業時刻は、どんなに早くとも午後9時を下回ることはなかったと認めることに十分な合理性がある。
したがって、X1のA営業所及びE支店勤務中の平日の終業時刻は、午後9時と認める

4 X2は、その本人尋問において、Y社の指示の下とはいうものの、自らの意思で出社時刻を決定していた旨供述しているし、そもそも従業員に対する労働時間管理が厳格に行われていなかったY社において、X2が労働時間を管理されていたとは認められないことに照らすと、X2は、一時、取締役の地位にもあり、その間の労働者性の問題はさておき、少なくともY社の営業部門の責任者としての立場にあり、その賃金又は報酬は、代表取締役の報酬に準ずる水準にあった上、実際の労働時間についても、厳格に管理されていたとまでは認められない一方、出社時刻には一定の裁量があったことがうかがわれるから、X2は、Y社の営業部門において、経営者の一体の立場にあったということができる
以上検討してきたところによれば、X2は、労働基準法41条2号の管理監督者に当たるというべきである。

労働時間の認定方法については、労基法108条を取り上げ、使用者の労働時間適正把握義務から、労働者側の主張する終業時間をそのまま認定しています。

また、そもそも会社内で労働時間管理が厳格になされていない場合は、管理監督者性の認定に際し、否定側に働く事情です。

管理監督者性に関する対応については、会社に対するインパクトが大きいため、必ず顧問弁護士に相談しながら進めることをおすすめいたします。

本の紹介186 風の谷のあの人と結婚する方法(企業法務・顧問弁護士@静岡)

おはようございます

さて、今日は本の紹介です。
風の谷のあの人と結婚する方法
風の谷のあの人と結婚する方法 [単行本]

須藤元気さんの本です。 今から8年ほど前の本ですが、もう一度読んでみました。

須藤元気さんは、僕と同い年です。

須藤さんの知的素養が全面に出ている本です。

勉強されていることはよくわかります。

とてもいい本です。 おすすめです。

なお、タイトルと内容には直接の関連性はありません。 婚活本ではありません(笑)

さて、この本で「いいね!」と思ったのはこちら。

古代マヤの人々の言葉に、〈イン・ラケチ〉というものがあるのですが、これを訳すと「私は、もうひとりのあなた自身です」となります。つまり、私はあなた、あなたは私―。
他人のことを自分だと思って接すれば、相手に不快感を与えないでしょうし、自分の心の内を正直に伝えることもできます。
」(53頁)

子どもの頃、親から教えられることです。

「人の嫌がることをしてはいけない」

ということを言い換えると、「自分が嫌だと思うことを人にしてはいけない」ということになります。

他人のことを自分だと思って接するということもまた同じ意味ですね。

昨日、同い年の医師と話す機会がありました。

話をしていると、どれだけ「利他」の気持ちがあるのかがわかります。

社会をよくしたいと思っている人は少なくないと思いますが、実行に移している人はそれほど多くありません。

私の周りの同世代の経営者には、利他の気持ち・決断力・行動力に溢れている方がとても多いです。

また一人、すばらしい経営者に出会うことができました。

先生、今後は、全面的にバックアップしていきますよ!

解雇100(日本通信事件)

おはようございます。

さて、今日は、社内ネットワークシステムに関するアクセス管理者権限の抹消命令拒否を理由とする懲戒解雇に関する裁判例を見てみましょう。

日本通信事件(東京地裁平成24年11月30日・労経速2162号8頁)

【事案の概要】

本件は、Y社が、社内ネットワークシステムに関するアクセス管理者権限を不正に保持していることを理由に、管理者権限の抹消を命じる業務命令を拒否したことを理由に懲戒解雇されたXが、当該懲戒解雇は無効な解雇であるとして、Y社に対し、地位確認並びに解雇後の平成23年10月9日以降の未払賃金及びこれに対する遅延損害金の支払を求めて本訴を提起したところ、Y社が、Xらが行った社内ネットワークシステムに関するアクセス管理権限の不正及びその保持等の共同不法行為により、同システムの再構築等を余儀なくされ、これにより多大な損害を被ったとして、Xらに対し、上記共同不法行為に基づき、損害賠償金等の支払いを求めて反訴を提起したものである。

なお、Y社は、本件懲戒解雇の他に、懲戒解雇の意思表示には、予備的に就業規則に基づく普通解雇の意思表示も含まれる(本件普通解雇1)と主張し、また、平成23年4月13日付け答弁書をもって、仮に懲戒解雇が無効であるとしても本件業務命令を正当な理由もなく拒否する行為は、就業規則64条4号、5号に該当するとして予備的に普通解雇の意思表示を行った(本件普通解雇2)。

【裁判所の判断】

懲戒解雇は無効

本件普通解雇1の主張は意思表示自体が存在しない

本件普通解雇2は無効

【判例のポイント】

1 労契法15条は、(1)懲戒処分の根拠規定が存在していること(有効要件(1))を前提に、(2)懲戒事由(=「客観的に合理的な理由」があること。有効要件(2))、(3)処分の相当性(「社会通念上相当」と認められる場合であること。有効要件(3))の3つの有効要件から構成されているものと解されるところ(いわゆる抗弁説)、本件懲戒解雇においては、上記有効要件(1)を満たすことは争いがなく、したがって、上記有効要件(2)及び(3)を満たすか否かが問題となる。

2 使用者が懲戒解雇という極めて重大な制裁罰を科しうる実質的な根拠は、企業秩序を侵害する重大な危険性を有している点にあるものと考えられる。そうだとすると懲戒解雇権は、単に労働者が雇用契約上の義務に違反したというだけでは足りず、当該非違行為が企業秩序を現実に侵害する事態が発生しているか、あるいは少なくとも、そうした事態が発生する具体的かつ現実的な危険性が認められる場合に限り発動することができるものと解され、この理は、本件就業規則59条所定の懲戒解雇事由の判断にも妥当する。

3 当裁判所は、本件各業務命令違反について、Y社の企業秩序を現実に侵害し、あるいは、その具体的かつ現実的な危険性を有する行為であるとは認められないものと判断したが、ただ、本件管理者権限の重要性にかんがみると、これを不当に保持し、その抹消に応じようとしない本件各業務命令違反は、それ自体、本件社内ネットワークシステムに支えられたY社の企業秩序を現実に侵害する行為であるとの見解も成り立ち得ないものではない。しかし仮に、この見解を採用し、本件各業務命令違反について本件就業規則59条13号の実質的該当性を肯定したとしても、本件の場合、少なくとも客観的には、Xが本件管理者権限の抹消に応じない場合であっても、Y社は、本件各残務整理作業の責任者であるBに対し、パスワードの開示を求め、本件管理者権限の抹消を命じることにより、Xを含め第三者からの不正アクセスを防止、社団する手段を有していたことにかんがみると最終的に本件各業務命令違反に対して懲戒解雇という「最終の手段」(ultima ratio)を選択するか否かを決するに当たっても、実態的な相当性はもとより、手続的な相当性も考慮に入れ、より慎重な判断が求められるものというべきである

4 懲戒処分(とりわけ懲戒解雇)は、刑罰に類似する制裁罰としての性格を有するものである以上、使用者は、実質的な弁明が行われるよう、その機会を付与すべきものと解され、その手続に看過し難い瑕疵が認められる場合には、当該懲戒処分は手続的に相当性に欠け、それだけでも無効原因を構成し得るものと解されるところ、本件懲戒解雇に当たって、Y社は、Xに対し、実質的な弁明を行う機会を付与したものとはいい難く、その手続には看過し難い瑕疵があるものといわざるを得ない。

5 懲戒解雇と普通解雇は、いずれも労働契約の終了を法的効果としている点で共通する。しかし民法の解雇自由の原則の中で行われる中途解約の意思表示である普通解雇の意思表示と、独自の制裁罰である懲戒解雇の意思表示とは法的性質が異なるのであるから、仮に退職金制度が存在しないなど機能の点で実質的な差異は認められないにしても軽々に両者の間に無効行為の転換の法理を適用し、懲戒解雇が無効である場合であっても普通解雇としての効力維持を容認することは、法的に許されないものというべきである
もっとも、上記のとおり無効行為の転換の法理の適用は難しいとしても、事実認定ないし合理的な意思解釈の問題として、懲戒解雇の意思表示の中に普通解雇のそれが含まれてい るものと認める余地はないではない。しかし両者の法的性質上の差異を考慮すると、普通解雇の意思表示が含まれていることが明示されているか、あるいはこれと同視し得る特別の事情が認められる場合を除いて、懲戒解雇の意思表示の中に普通解雇のそれが含まれているものと認めることはできない

担当裁判官は伊良原裁判官です。

ここまで詳細に事実認定をするのは、本当にすごいと思います。

懲戒解雇に関する考え方がいっぱい詰まっており、非常に勉強になります。

是非、参考にしてください。

解雇を選択する前には必ず顧問弁護士に相談の上、慎重かつ適切に対応することが肝心です。決して、素人判断で進めないようにしましょう。

本の紹介185 社長は少しバカがいい。(企業法務・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

さて、今日は本の紹介です。
社長は少しバカがいい。~乱世を生き抜くリーダーの鉄則
社長は少しバカがいい。~乱世を生き抜くリーダーの鉄則 [単行本(ソフトカバー)]

エステー株式会社会長の本です。

男気溢れています。

福島工場閉鎖を断固反対したエピソードは、これぞ経営者の決断です(212頁参照)。

何よりもまず、ワーカー諸君を安心させなければならん。

福島工場は一歩も後退しない。福島の諸君はとりあえず自宅で待機していてくれ。会社命令の自宅待機だから、その間の給料は全額保障する

すばらしいご判断だと思います。

さて、この本で「いいね!」と思ったのはこちら。

危機だ、危機だって、もっともらしい理屈を並べて、うるさく言う人がいる。もっと歴史を勉強したほうがいいよ。長い目で見れば、いいときもあれば、悪いときもある。悪いときのほうが多いんだ。それが普通なんだ。だから、いちいち騒ぐなよ。ビクビクしたってしょうがない。大将が元気でニコニコして、平気な顔してたら、たいていはうまくいく。」(2~3頁)

経営者は、このくらいの度量がないといけないのでしょうね。

「長い目で見れば、いいときもあれば、悪いときもある」という前提に立って、悪いときに備える。

この発想は、経営者に限らず、仕事をしているすべての人が持つべきものだと思います。

そもそも「ずっといい状態」なんてことはあり得ません。

長い目で見れば、何らかの理由で悪い状態に陥ってしまうことは何度も経験するでしょう。

そんなときに、すぐに「私はだめだ」「この仕事、向いていない」と思うのではなく、そこから何を学ぶか、という一点に集中することで突破口が見つけられると思います。

失敗の原因を素早く探り、胸に刻み込む。それ以上の反省、落ち込みは時間の無駄です。

仕事も人生もそういうものだと思います。

どれだけ一生懸命にやってもうまくいかないときはあります。

まずは、今までに多くの失敗から学んだことを胸に刻み、目の前の課題に取り組む。

これしかないと思います。

有期労働契約37(本田技研工業事件)

おはようございます。

さて、今日は、不更新条項を有効として雇止めを認めた原判決を相当とした裁判例を見てみましょう。

本田技研工業事件(東京高裁平成24年9月20日・労経速2162号3頁)

【事案の概要】

Y社は、四輪車、二輪車、耕うん機等の製造・販売等を目的とする会社である。

Xは、平成9年12月、期間契約社員としてY社に入社し、パワートレイン加工モジュールに所属して業務に従事した。

Xは、それ以降も、同業務に従事し、Y社との間で有期雇用契約の締結と契約期間満了・退職を繰り返してきたところ、平成20年12月末、1年間の有期雇用契約が満了したとしてY社から雇用契約の更新を拒絶された。

原審は、Y社のXに対する雇止めを有効と判断した。

そのため、Xは、控訴した。

【裁判所の判断】

控訴棄却
→雇止めは有効

【判例のポイント】

1 Xは、平成20年11月28日、勤務シフト別に期間契約社員に対して開催された説明会に出席し、栃木製作所においては、部品減算に対応した経営努力(モジュール間の配置換え等)だけでは余剰労働力を吸収しきれず、そのため、期間契約社員を全員雇止めにせざるを得ないこと等について説明を受けたこと、Xは上記の説明を理解し、もはや期間契約社員の雇止めは回避し難くやむを得ないものとして受け入れたこと、Xは、本件雇用契約書と同じ契約書式にはそれを明確にするための雇止めを予定した不更新条項が盛り込まれており、また、その雇止めが、従前のような契約期間の満了、退職と空白期間経過後の再入社という形が想定される雇止めではなく、そのようなことが想定されず、再入社が期待できない、これまでとは全く趣旨を異にする雇止めであると十分理解して任意に同契約書に署名したが、その時点で印鑑を持参していなかったために拇印を押してY社に提出したこと、以上の各事実が認められることは引用に係る原判決認定事実のとおりであり、Xは、本件雇用契約は、従前と異なって更新されないことを真に理解して契約を締結したことが認められる

2 従前は更新があり得る内容の有期雇用契約を締結していた労働者が、不更新条項が付された有期雇用契約を締結する際には、不更新条項に合意しなければ有期雇用契約が締結できない立場に置かれる一方、契約を締結した場合には、次回以降の更新がされない立場に置かれるという意味で、いわば二者択一の立場に置かれることから、半ば強制的に自由な意思に基づかずに有期雇用契約を締結する場合も考えられ、このような具体的な事情が認められれば、不更新条項の効力が意思表示の瑕疵等により否定されることもあり得る(Xがその主張において引用する裁判例は、このような具体的な事情が認められた事例であるとも考えられる。)。
しかしながら、不更新条項を含む経緯や契約締結後の言動等も併せ考慮して、労働者が次回は更新されないことを真に理解して契約を締結した場合には、雇用継続に対する合理的期待を放棄したものであり、不更新条項の効力を否定すべき理由はないから、解雇に関する法理の類推を否定すべきである

先日の社労士勉強会でも取り上げた裁判例です。

第1審判決についてはこちらをご参照下さい。

労働契約法が改正され、5年ルールが新たに誕生しました。

施行はまだ先ですが、今から取り組むべき内容であることは、労務管理をかじっている人であれば誰でも知っていることです。

今後、この5年ルールとの関係で、雇止めに関する訴訟が相当数提起されることは間違いないことです。

現実には、裁判例の集積を待っている時間はないので、適切だと考える対策を各企業で実施する必要があります。

有期労働契約は、雇止め、期間途中での解雇などで対応を誤ると敗訴リスクが高まります。

事前に顧問弁護士に相談の上、慎重に対応しましょう。

本の紹介184 解決する力(企業法務・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。 

さて、今日は本の紹介です。
解決する力 (PHPビジネス新書)
解決する力 (PHPビジネス新書) [新書]

猪瀬さんの本です。

これで3冊目です。 3冊くらい読むと、著者の考え方がある程度わかります。

さて、この本で「いいね!」と思ったのはこちら。

平常時に冷静に事態を切り抜けられる人は、緊急時でも同じ対応ができます。なぜなら、緊急かそうでないかが問題なのではなく、普段から事態を切り抜けようと努力していることが大事だからです。普段から『○○だからできませんでした』と言い訳している人が、緊急時の大一番で力を発揮できるはずがありませんからね。普段からの習慣が緊急時の対応に表れますから、常日頃から困難なことを避けずに、場数を踏んでおくことが大事ですね。」(212頁)

猪瀬さんも「習慣」という言葉を使っています。

緊急時に適切に対応するためには、平常時から、緊急時にも対応できるように「困難から逃げない」という習慣をつくっておくことが大切です。

平常時に冷静に対応できない人が、緊急時に突然、冷静に対応できるはずがありません。

試験を受けるときもそうですよね。

「練習は本番のように。本番は練習のように。」ということです。

日頃の試験勉強時から、本試験を想定した準備をしなければ本番で力を発揮することなどとてもできません。

試験終了後に「緊張して頭が真っ白になってしまった」「もう少し時間があれば解けたのに」などと恥ずかしいことを言わなくていいように準備をすることが大切です。

みんな同じ環境、同じ制限時間の中で受験しているのです。

足りないのは時間ではなく、時間内に解く準備です。

すべては平常時の準備・習慣なんだと思います。

解雇99(学校法人専修大学事件)

おはようございます。

さて、今日は、労災保険給付の受給労働者に打切補償を支払って行った解雇に関する裁判例を見てみましょう。

学校法人専修大学事件(東京地裁平成24年9月28日・労判1062号5頁)

【事案の概要】

本件は、Y大学が、業務上疾病(頸肩腕症候群)により療養のため休業中で労災保険給付(療養補償給付、休業補償給付)を受けているXに対し、その休業期間満了後、Y大学の災害補償規程に基づき、労基法81条所定の打切補償を支払って行った平成23年10月31日付け解雇は解雇権の濫用にも当たらず有効であるとして、同日以降の地位不存在確認を求めて本訴を提起し、これに対し、Xは、同条所定の「労基法75条の規定によって補償を受ける労働者」に該当せず、本件解雇は労基法19条1項本文に違反し無効であるとして、Xが地位確認並びにリハビリ就労拒否、不当解雇等を理由とする損害賠償及びこれに係る遅延損害金の各支払を求めて反訴を提起したものである。

Y大学は、上記本訴を取り下げ、Xはこれに同意したため、本件請求は、上記反訴請求のみとなった。

本件の争点は、労基法19条1項但書前段にいう同法81条の打切補償の対象となる労働者とは、同条の文言どおり同法75条による使用者からの療養補償を受ける労働者に限られるのか(Xの主張)、労災保険法上の保険給付(療養補償給付)を受ける労働者も含まれるか(Y大学の主張)である

【裁判所の判断】

解雇は無効

【判例のポイント】

1 労災保険の給付体系は、労基法の補償体系とは独自に拡充されることによって成立、発展を遂げた制度であって、労基法による災害補償制度から直接には派生したものではなく、両制度は、使用者の補償責任の法理を共通の基盤としつつも、基本的には、並行して機能する独自の制度であると解するのが相当であって、両制度がその基盤とする法律関係原理(補償責任の法理)を一にしており、かつ相互に法的関連性をうかがわせる規定(労災保険法12条の8第2項、労基法84条1項等)が存在するからといって、そのことから直ちに「労災保険給付を受けている労働者」と「労基法上の災害補償を受けている労働者」を軽々に同一視し、その法的取扱いを等しいとする必然性はない

2 労基法81条は、単に労基法19条1項本文の解雇制限を解除するための要件を定めるだけではなく、労基法19条1項本文違反の解雇を行った使用者を処罰するという公法的効力、すなわち処罰の範囲を画するための要件でもあるから、労基法81条にいう「(労基法)第75条の規定(療養補償)によって補償を受ける労働者」の範囲は、原則として文理解釈によって決せられるべきである(罪刑法定主義)。

3 労基法81条の打切補償制度の趣旨は、療養給付を必要とする労災労働者の生活上の需要よりも、補償の長期化によって使用者の負担を軽減することに重点があり、その意味で、使用者の個別補償責任を規定する労基法上の災害補償の限界を示すものと解されるところ、労災保険制度は、使用者の災害補償責任(個別補償責任)を集団的に補填する責任保険的機能を有する制度であるから、使用者は、あくまで保険者たる政府に保険料を納付する義務を負っているだけであり、これを履行すれば足りるのであるから、「労災保険法第13条の規定(療養補償給付)によって療養の給付を受ける労働者」との関係では、当該使用者について補償の長期化による負担の軽減を考慮する必要はなく、労基法81条の規定の「第75条の規定(療養補償)によって補償を受ける労働者」とは、文字通り労基法75条の規定により療養補償を受けている労働者に限るものと解され、明文の規定もないのに、上記「(労基法)第75条の規定(療養補償)によって補償を受ける労働者」の範囲を拡張し、「労災保険法第13条の規定(療養補償給付)によって療養の給付を受ける労働者」と読み替えることは許されない

4 Xは、労基法81条の規定の「第75条の規定(療養補償)によって補償を受ける労働者」には該当せず、本件打切補償金の支払は、労基法19条ただし書前段にいう「使用者が、第81条の規定によって打切補償を支払う場合」に該当しないこととなり、同項本文所定の解雇制限は解除されず、これに対する本件解雇は無効である。

5 本件業務災害・休職の期間満了直前に、XはY大学に対しリハビリ就労させるように求めているが、Y大学がそのような要求に応じるべき法的義務を負っていたものとは解されず、Y大学のリハビリ就労拒否は、不法行為を構成しない。

この争点については、まだ定説というものがありません。

文理解釈からすれば、上記判断になりますが、本件と同様の事案では、打切補償を支払って解雇することは相当難しくなります(事実上、ほとんど不可能なくらい現実的でない)。

控訴審がどのような判断を示すか注目しています。

解雇を選択する前には必ず顧問弁護士に相談の上、慎重かつ適切に対応することが肝心です。決して、素人判断で進めないようにしましょう。

本の紹介183 金のなる木の育て方(企業法務・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。 

さて、今日は本の紹介です。
金のなる木の育て方
金のなる木の育て方 [単行本(ソフトカバー)]

アニキ本、第9弾です。 ちなみに第8弾は「絶対成功する大富豪のオキテ」です。

お金の話とはいえ、いかに儲けるかというような小手先の話は一切ありません。

もっと深い話です。 お金というより人生の話ですね。

題名を「幸せになる木の育て方」にしたほうがいいと思います。

さて、この本で「いいね!」と思ったのはこちら。

『天職にめぐり合えないから、がんばれない』という言い訳は、順序が逆だ。めぐり合うために、必死になれ。
本気で天職を見つけたいと思うなら、真剣になれ。本気になれ。・・・『天職探し』を逃げの口実にするな。・・・そもそも『天職』は探すものではない。ひょっとしたら『天職=自分の好きなこと』とは限らない。自分がいちばん求められる仕事、気づいたらずっと続いていた仕事、それを『天職』という。社会での自分の役割は、人に見つけてもらうものだ。
」(108~109頁)

同感です。

天職について、「自分の好きな仕事」ではなく「自分がいちばん求められる仕事」と定義する。

自分本位ではなく、社会や周囲の人からの視点で天職を捉える。

仕事が自分に合うかどうかではなく、自分がその仕事に合わせるのです。

すべては考え方の習慣の問題です。

人間は、もともと人の役に立ちたいという思いを持っています。

人の役に立つことによって喜びを感じることができる動物です。

社会から与えられたポストで、与えられた仕事を精一杯やり抜く。

それこそが天職なんだと思います。

派遣労働12(日本精工(外国人派遣労働者)事件)

おはようございます 

さて、今日は派遣労働者12名による派遣先会社への地位確認等請求に関する裁判例を見てみましょう。

日本精工(外国人派遣労働者)事件(東京地裁平成24年8月31日・労判1059号5頁)

【事案の概要】

本件は、派遣元会社から派遣先会社であるY社に対し、派遣元会社に雇用され、平成18年11月10日以前は業務処理請負の従業員として、翌11日以降は労働者派遣の派遣労働者として、Y社の工場等において就業していたXら12名が、Y社と派遣元会社との間の労働者派遣契約の終了に伴ってY社の工場における就業を拒否されたことについて、主位的に、(1)請負契約当時のXら、派遣先であるY社、派遣元であるA社の三社間の契約関係は、違法な労働者供給であり、XらとY社との間で直接の労働契約関係が成立しており、その後も、当該関係は変化なく維持され、XらとY社との間には直接の労働契約関係が継続していたというべきであること、(2)そうでないとしても、XらとY社との間は、黙示の労働契約が成立していたというべきであること、(3)(1)および(2)の労働契約の成立が否定されるとしても、労働者派遣法40条の4の雇用契約申込義務により、XらとY社との間には労働契約が成立していたと主張して、Y社に対し、労働契約上の権利を有する地位にあることの確認および未払賃金と遅延損害金の支払を求めるとともに、予備的に、(4)Y社が長年にわたりXらの労務提供を受けてきた中で、Xらに対する条理上の信義則違反等の不法行為が成立すると主張して、Y社に対し、それぞれ200万円の慰謝料および遅延損害金の支払いを求めた事案である。

【裁判所の判断】

労働契約の成立は否定

慰謝料として50万~90万円の支払を命じた

【判例のポイント】

1 Xらが念頭に置く、請負人が注文者から業務処理を受託し、自己の雇用する労働者を、注文者の事業場に派遣して就労させているが、当該労働者の就労についての指揮命令を行わず、これを注文者にゆだねているような典型的な偽装請負のケースの場合、請負人と注文者との契約関係が請負契約と評価することができないとしても、注文者と労働者との間で労働契約が締結されていないのであれば、注文者、請負人、労働者の三者間の関係は、派遣法2条1号にいう労働者派遣に該当すると解すべきであり、このような労働者派遣も、それが労働者派遣である以上は、職業安定法4条6号にいう労働者供給に該当する余地はないものというべきである(最高裁平成21年12月18日)。

2 これを本件についてみるに、・・・派遣法に違反したものであったといわざるを得ない。しかしながら、派遣法に違反する労働者派遣が行われた場合においても、派遣法の趣旨及びその取締法規としての性質等に照らせば、特段の事情のない限り、そのことだけによっては派遣労働者と派遣元との間の労働契約が無効になることはないと解すべきであり、本件において、XらとA社との間の労働契約を無効と解すべき特段の事情はうかがわれないから、請負時代においても、両者間の労働契約は有効に存在していたものと解すべきである
したがって、上記三者間の関係は、派遣法2条1号にいう労働者派遣に該当し、職業安定法4条6項にいう労働者供給には該当しないから、労働者供給に該当することを前提とするXらの主張は、前提において失当というべきである。そうすると、XらとY社との間の直接の(明示の)労働契約の成立を認めることはできない。

3 労働者と派遣先会社との間に黙示の「労働契約」(労働契約法6条)が成立するためには、(1)採用時の状況、(2)指揮命令及び労務提供の態様、(3)人事労務管理の態様、(4)対価としての賃金支払の態様等に照らして、両者間に労働契約関係と評価するに足りる実質的な関係が存在し、その実質関係から両者間に客観的に推認される黙示の意思表示の合致があることを必要とすると解するのが相当である
そして、労働者派遣においては、労働者に対する労務の具体的指揮命令は、派遣先会社が行うことが予定されているから、黙示の労働契約が認められるためには、派遣元会社が名目的存在に過ぎず、労働者の労務提供の態様や人事労務管理の態様、賃金額の決定等が派遣先会社によって事実上支配されているような特段の事情が必要というべきである

相変わらずこの分野は勝訴のハードルがとても高いですね。

派遣元会社も派遣先会社も、対応に困った場合には速やかに顧問弁護士に相談することをおすすめします。

本の紹介182 勉強法の王道(企業法務・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

さて、今日は本の紹介です。
勉強法の王道
勉強法の王道 [単行本(ソフトカバー)]

伊藤塾塾長の伊藤真先生の本です。

司法試験の勉強をやったことのある人で、知らない人はいません。

受験時代には、お世話になりました。

事務所のスタッフの資格試験や検定の勉強のために役に立てばと思い、読んでみました。

王道というだけあって、奇をてらうことは1つも書いてありません。 安定感が違います。

さて、この本で「いいね!」と思ったのはこちら。

もっと勉強時間が取れればよいのに、もっとお金に余裕があれば受験指導校の講座を取れるのに、・・・と思う人もいることでしょう。受験勉強に限らず、人は、それぞれの能力や環境、時間、お金といった様々な不満や制約の中で生きています。
・・・こうして考えてみると、スランプもピンチもそうでしたが、それらに至らない様々な小さな制約も、それがあるからこそ、人間は成長できるのではないでしょうか。人間は様々な制約があって、初めて磨かれるし、高められていくのです。・・・時間がないからこそ、時間の価値を知り、最大限に活かすべく様々な技術を用いる。お金に限りがあるからこそ、その価値を知り、有効に活用しようと考えるといった具合に、私たちは、日々、様々な制約の中で、その制約によって成長を続けているのです。
」(162~163頁)

日頃からスタッフに伝えていることですが、制約がなければ人は工夫をしようと思いません。

また、時間がない、お金がないと、「ない」ことばかりに目を向けている限り、結果を出すことは難しくなります。

このような発想から脱却できない人は、たとえどんなに恵まれた状況に置かれたとしても、それでもなお、「ない」ことに目を向けるのです。

そもそも考えられるすべての制約を取り除くことなどできないのですから、与えられた条件の下で、いかに目的を達成するかを考え、精一杯やるだけです。

「制約上等!」くらいの強い気持ちで物事に取り組むくらいがちょうどいいのではないでしょうか。