おはようございます。
さて、今日は、営業社員2名による残業代等請求に関する裁判例を見てみましょう。
VESTA事件(東京地裁平成24年8月30日・労判1059号91頁)
【事案の概要】
Y社は、不動産の調査、鑑定および資料収集業務、賃貸契約に対する保証業務等を目的とする会社である。
X1及びX2は、Y社に勤務していた者である。
Xらは、Y社に対し、未払残業代の請求をした。
【裁判所の判断】
X1については、約367万円の割増賃金の支払を認めた。
X2については、管理監督者性を肯定し、割増賃金の請求を棄却した。
【判例のポイント】
1 (1)X1の職務内容は、他の従業員と同様に、督促及び営業業務が中心であり、支店長としての職務内容も、支店の業務内容のとりまとめ及びその報告等にとどまり、人事に係る決裁権もなかったこと、(2)実際の労働時間について、Y社においては、タイムカードの打刻等が義務付けられていた形跡はなく、必ずしも厳格な労働時間管理がされていたとは認められないものの、その点は、他の従業員についても同様であり、X1が出社時間、退社時間に裁量を有していたとまでは認められないこと、(3)待遇の内容、程度について、X1は、平均賃金額よりも月額15万円前後と高額の賃金を取得していたことが認められるものの、他の従業員と同様に督促及び営業業務を担当しながら、支店長としての業務も遂行していたことに照らすと、その賃金額も必ずしも高額であるということはできない。
2 Y社は、X1の職務内容及び権限として、A営業所及びB支店に勤務中、中国・四国エリアの営業責任者として同エリア所在の各支店から提出される営業等に関する稟議書の取りまとめ、確認、承認をした上でY社に提出するほか、同エリアにおける従業員の採用及び退職の際に最終面接をし、その結果をY社に報告し、意見を述べる立場にあり、同エリアの従業員の人事に関する最終決定に当たってその意見が重視されていたから、X1が経営者と一体的立場にあったと主張する。しかし、稟議書の決裁権はX2にあり、従業員の人事権もY社の役員にあって、X1にはなかったことが認められるし、中国・四国エリアの稟議書のとりまとめ、確認、承認の権限、同エリアの従業員の最終面接をする権限があるからといって、X1が経営者と一体的な立場にあったと認めることはできない。また、従業員の人事に関する最終決定に当たって、X1の意見が重視されていたと認めるに足りる的確な証拠はないし、X1の意見がどのように取り扱われていたかも不明である。したがって、Y社の上記主張は採用することができない。
以上によれば、X1が経営者と一体的な立場にある者ということはできないから、管理監督者には当たらないというべきであり、ほかにX1が管理監督者に当たることを裏付けるに足りる事情はうかがわれない。
3 ・・・続いて、A営業所及びE支店勤務中の平日の終業時刻については、これを認めるに足りる客観的記録は存在しないが、X1は、その本人尋問において、割増賃金を請求する全期間を通じて、主として督促及び営業業務を担当し、午後7時頃まで営業で外回りをした後、午後9時頃までは電話による督促業務等を行うことが義務付けられており、業務終了前に帰宅したことはなかった旨供述する一方、労基法108条等に基づき労働時間を適性に把握することを義務付けられるY社が、従業員の労働時間を厳格にしておらず、X1が午後9時頃までは営業及び督促業務に従事していたことについて積極的に反証していないことに照らすと、A営業所及びE支店勤務中の終業時刻は、どんなに早くとも午後9時を下回ることはなかったと認めることに十分な合理性がある。
したがって、X1のA営業所及びE支店勤務中の平日の終業時刻は、午後9時と認める。
4 X2は、その本人尋問において、Y社の指示の下とはいうものの、自らの意思で出社時刻を決定していた旨供述しているし、そもそも従業員に対する労働時間管理が厳格に行われていなかったY社において、X2が労働時間を管理されていたとは認められないことに照らすと、X2は、一時、取締役の地位にもあり、その間の労働者性の問題はさておき、少なくともY社の営業部門の責任者としての立場にあり、その賃金又は報酬は、代表取締役の報酬に準ずる水準にあった上、実際の労働時間についても、厳格に管理されていたとまでは認められない一方、出社時刻には一定の裁量があったことがうかがわれるから、X2は、Y社の営業部門において、経営者の一体の立場にあったということができる。
以上検討してきたところによれば、X2は、労働基準法41条2号の管理監督者に当たるというべきである。
労働時間の認定方法については、労基法108条を取り上げ、使用者の労働時間適正把握義務から、労働者側の主張する終業時間をそのまま認定しています。
また、そもそも会社内で労働時間管理が厳格になされていない場合は、管理監督者性の認定に際し、否定側に働く事情です。
管理監督者性に関する対応については、会社に対するインパクトが大きいため、必ず顧問弁護士に相談しながら進めることをおすすめいたします。