おはようございます。
さて、今日は、退職した元部長からの時間外割増賃金・減額賃金差額請求に関する裁判例を見てみましょう。
ピュア・ルネッサンス事件(東京地裁平成24年5月16日・労判1057号96頁)
【事案の概要】
Y社は、美容サロンの経営、化粧品等の販売を目的とする会社で、ネットワークビジネスの運営、健康食品の製造販売、美容サロンの経営またはフランチャイズ、化粧品等の美容商品の製造販売を行うA社グループのグループ会社である。
Xは、平成17年11月、Y社に管理職(部長)として入社し、Y社が企画する化粧品販売イベントの運営等に従事してきた。
Xは、平成18年5月にY社の取締役、19年6月に常務取締役、20年12月に専務取締役に選任された。
Xは、21年9月に退職した後、Y社に対し、時間外割増賃金および減額賃金の差額分を請求した。
【裁判所の判断】
1 Xは管理監督者に該当する。
→深夜割増賃金部分約98万円の支払いを命じた
2 減額賃金の差額5万円の支払いを命じた
3 付加金として除斥期間が到来していない時間外手当と同額の約92万円の支払いを命じた
【判例のポイント】
1 もともとY社は、その規模に比して取締役の数が不自然に多く、Xには終始一貫して基本給と役職手当という名目で対価が支払われており、雇用保険にも継続して加入していることに加え、提出された証拠だけからはXの報酬額が変更される都度、取締役会の決議がなされたことは認められない。また、Y社の取締役会、役員会議、経営会議においては、具体的な討論がなされたような形跡がなく、実質的なオーナーとみされるB会長の指示を伝達する場にすぎなかったことが認められるし、Xが取締役に選任された前後においてその担当する業務について具体的な変更があったことは証拠上見当たらない。そうすると、Xは、基本的にB会長の指示や許可を受けて業務に従事することが多かったものといえる。また、Xが一度Y社を退社した上で取締役に選任されたような事実も認められない。
したがって、Xは、Y社との関係において、取締役としての地位を有していたが、労働者であったと認めるのが相当である。
2 労基法41条1項2号の管理監督者とは、部長、工場長等労働条件の決定その他労務管理について経営者と一体的な立場にある者をいうとされる。
管理監督者に該当するか否かは、(1)事業主の経営に関する決定に参画し、労務管理に関する指揮監督権限を認められているか否か、(2)自己の出退勤をはじめとする労働時間について裁量権を有しているといえるか否か、(3)一般の従業員に比しその地位と権限にふさわしい賃金上の処遇を与えられているか否かを実態に即して判断することになる。
3 Xは、経営会議等の重要な会議に参加しており、実情は、B会長が決めた方針の伝達が行われることが多かったとはいえ、取締役という地位で参加しており、サロンの開設や従業員の採用など個別的に重要な業務の担当を任されるようになっている。
Xは労務担当の取締役とされていたが、従業員の採用や人事考課の権限等、労務管理についての一般的に広範な権限が与えられていたわけではない。しかしながら、Y社は規模の小さい個人企業であるため、人事考課自体が行われていたのか疑問であり、また採用にあたってもB会長に決定権があったとしても必ずしも不自然とはいえず、その後、Y社の業務が拡大するとともに、従業員の採用について、Xに権限が与えられるようになっている。また、Xは、従業員やスタッフの勤務時間についての集計や、訂正の確認などを行っており、他の従業員などの勤務時間に関する労務管理の権限がある程度与えられていたものといえる。
Xは、タイムカードによって厳格な勤怠管理が義務づけられていたとはいえず、タイムカードも本来許されていない手書きでの修正が許されたり、他の従業員とは異なる扱いがなされるなどしているし、パーティーや懇親会、麻雀などへの参加時間も労働時間としてタイムカードが打刻されている。また、Xの主張する業務量に比して、労働時間が不自然に長時間となっており、勤務時間中に業務以外のことをしていた事情もうかがえることからすると、Xについては、厳密な労働時間の管理がされていたとはいえず、労働時間について広い裁量があったといえる。
そして、Xは、基本給として月額35万円、役職手当として月額5万円から10万円の給与をもらっており、一般従業員の基本給と比べて厚遇されていたことは明らかである。
以上からすると、Xは、労基法41条2号の管理監督者に該当するとみるのが相当である。
4 Xは、労働者ではあるが、管理監督者に該当するため、その請求できる時間外手当は深夜割増賃金に限られる。
5 Xは、労働者として労基法の適用を受ける地位にあるから、Xが、管理監督者に該当するとしても、Y社において深夜割増賃金に相当する時間外手当の支払いを免れることはない。それにもかかわらず、Y社は、Xに対し、時間外手当の支払を一切していない。こうした事情に加えて、Y社が労基法の適用を免れようとして労働者を取締役 に選任するといった意図が認められる等の本件の実情を照らし合わせると、本件については、付加金として、労基法114条ただし書きの除斥期間が到来していない平成20年1月分ないし平成21年9月分の時間外手当と同額の付加金の支払を命じることが相当である。
上記判例のポイント1では、取締役の労働者性が争点となっており、これを肯定しています。
事実認定の方法について参考になります。
また、この裁判例では、珍しく管理監督者性が肯定されています。
なかなか普通の会社で、管理監督者であることを前提として、割増手当を全く支払わないという労務管理の方法は、リスクが非常に高いことは間違いありません。
それゆえ、あまり、おすすめはしません。
管理監督者性に関する対応については、会社に対するインパクトが大きいため、必ず顧問弁護士に相談しながら進めることをおすすめいたします。