Monthly Archives: 1月 2013

継続雇用制度20(社会福祉法人甲会事件)

おはようございます。

さて、今日は、有効な戒告処分を受けた者の再雇用拒否に関する裁判例を見てみましょう。

社会福祉法人甲会事件(東京地裁平成24年10月9日・労経速2157号24頁)

【事案の概要】

本件は、Y社との間で期限の定めのない雇用契約を締結していたXが、Y社がXの定年後の再雇用を拒否したことは権利の濫用として無効である旨主張して、Y社に対し、雇用契約に基づく地位確認及び賃金の支払を求めた事案である。

Y社は、援護または更生の措置を要する者に対して援助することを目的とする第一種社会福祉法人であり、児童養護施設及び知的障害児施設を運営している。

Xは、昭和26年生の男性であり、昭和50年、Y社との間で期限の定めのない雇用契約を締結し、児童指導員として勤務していた者である。

Y社には、高年法9条2項に基づく定年後の再雇用制度に関する労使協定が存するところ、「懲戒処分該当者でないこと」等を同制度の対象としている。ただし、本件再雇用基準を充たさない場合であっても、Y社が業務上必要と認めた者については、本件再雇用制度の対象としている。

Xは、園児の指導について、就業規則に反するとして戒告処分を受けていた。

【裁判所の判断】

再雇用拒否は有効

【判例のポイント】

1 高年法自体は企業に一定の措置を講ずるよう義務づける行政法規であって、同法に基づいて定年後も労働者を雇用する義務まで課するものではないこと、同法9条2項は、労働者の過半数の代表者との書面協定によって、事業主が継続雇用の対象とする労働者を選別することを許容しているものと解されること等からすれば、その選定基準を具体的にどのような内容とするかについては、基本的に各企業の労使の判断に委ねられているというべきであり、その内容が公序良俗に反するような特段の事情がない限り、当該選定基準が違法無効となるものではない

2 本件再雇用基準は、基準自体に特段不合理な点はないこと(懲戒権の濫用にわたるような懲戒処分でない限り、懲戒処分該当者を再雇用の対象から除外することにも合理性があると認められること)、ただし書規定という救済措置もあること等にかんがみれば、公序良俗に反する内容とは認められず、他に本件再雇用基準の効力を否定する事情を認めることはできない

3 本件再雇用制度は、それまでの雇用契約を継続する定年延長制度とは異なり、定年後に新たな労働契約を締結して雇用を継続する制度であるから、新たな労働契約を締結したといえるためには、改めて、賃金等の主要な労働条件に関する双方の合意を要する。
再雇用契約の成立につき、Xは、本件戒告処分は無効であるから、Xは再雇用を求めうる地位にあり、再雇用契約が成立したものとして取り扱われるべきであると主張するが、本件再雇用制度における再雇用契約の労働条件は、雇用期間のほかは就業規則に規定がなく、再雇用協定においても、個別の嘱託雇用契約書によって定めることになっていることからすれば、本件再雇用制度において再雇用契約が締結されたといい得るためには、基準該当者による再雇用の申し出があっただけでは足りず、別途、再雇用契約の労働条件に関し、Y社と基準該当者の双方が明示または黙示に合意することが必要というべきである

4 ・・・本件戒告処分は有効というべきである。
・・・以上によれば、Xを基準該当者と認めることはできないから、X・Y社間に再雇用に関する黙示の合意があったといえるか否かについて判断するまでもなく、Xの請求は認めることができない。

久しぶりの継続雇用に関する裁判例です。

従来型の継続雇用制度を前提とした争点です。

継続雇用については法改正があったところなので、今後の動向に注目しています。

高年法関連の紛争は、今後ますます増えてくることが予想されます。日頃から顧問弁護士に相談の上、慎重に対応することをお勧めいたします。

本の紹介162 30代の飛躍力(企業法務・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

さて、今日は本の紹介です。

30代の「飛躍力」 成功者たちは逆境でどう行動したか (PHPビジネス新書)
30代の「飛躍力」 成功者たちは逆境でどう行動したか (PHPビジネス新書)

サブタイトルがいいですよね。 そそられます。

登場するのは、スティーブ・ジョブズさん、盛田昭夫さん、松下幸之助さん、本田宗一郎さんなどです。

成功者が、逆境に直面したときに、どのように行動したかを学ぶことは、とても有意義です。

1度も失敗せずに成功した人など世の中にいないということがよくわかります。

さて、この本で「いいね!」と思ったのはこちら。

1つの成功と次の成功がもし同じ道の上にあるのなら、1つの成功で歩んだ道を修正する必要はない。だが現実のビジネスの世界は、1つの成功と次の成功は同じ道の上にはないことを、ネクストでの失敗は教えてくれる。・・・一度は成功した企業の多くが消え去るのは、同じ道を行けば次の成功が待っていると思い込んだからだ。」(218~219頁)

よく「成功体験は捨てろ」などと言われます。

なかなか難しいですよね。

私は、「成功体験は捨てろ」という意味を、「油断するな」「個別具体的な状況から柔軟に考えろ」といった意味で考えています。

「1つの成功と次の成功は同じ道の上にはない」というのは、表現としてとてもわかりやすいですね。

すべての状況が同じでは、前と同じようにやれば成功するのかもしれませんが、そのような条件設定自体、非現実的です。

結局のところ、1つ1つ冷静に状況を判断するしかないんでしょうね。

解雇92(F社事件)

おはようございます。

さて、今日は、精神疾患により休職した者の退職扱いに関する裁判例を見てみましょう。

F社事件(東京地裁平成24年8月21日・労経速2156号22頁)

【事案の概要】

本件は、Y社(コンピュータのソフトウェアの作成及び販売等を目的とする会社)に正社員として勤務していたXが、Xの休職は業務上の傷病によるものであるにもかかわらず、Y社は、これを業務上の疾病によるものでないとして扱った結果、平成21年12月31日をもって休職期間満了による事前退職扱いとしたものであって、当該退職は無効である旨を主張して、Y社に対し、雇用契約上の権利を有する地位の確認を求めた事案である。

なお、Xは、自分が精神疾患による休職を余儀なくされたのは、(1)Y社の従業員Cからパワーハラスメントを受けたこと、(2)Y社の産業医Dが産業医として不当ないし不適切な行為をしたこと、(3)Y社健康保険組合がXの傷病を「私傷病」として取り扱ったこと、(4)Y社労働組合が、Xの力とならず会社側の立場で行動したこと、及び(5)XがA社の業務に従事していた際に、A社から過重労働を強いられたことが原因であると主張して、各被告らに対し、不法行為ないし使用者責任に基づき慰謝料の支払をも求めている。

【裁判所の判断】

本件退職扱いは有効

慰謝料請求はいずれも棄却

【判例のポイント】

1 Y社の就業規則においては、業務外の傷病による欠勤が引き続き6か月に及んだときは、その翌日から一定期間休職とするものとされており、さらに、休職となった者が休職期間満了までに休職事由が消滅しないときは同日をもって自動的に退職とするものとされているところ、休職期間満了時に休職事由たる精神疾患が寛解していたと認めるに足りる証拠はないから、Xは、Y社を自動的に退職したというべきである

2 平成16年2月にXが「うつ状態」との診断を受ける直前の6か月間のうち、100時間を超える残業のあった月が5か月あったことなど、Xの精神疾患が業務に起因するものであることを疑わせる事情も認められないではないが、少なくとも当該事実のみによっては、Xの傷病が業務上のものであると直ちに断定することはできない

3 Xは、当裁判所の再三の釈明にもかかわらず、業務と傷病との間の相当因果関係の存在について具体的な主張及び立証(特に医学的な見地からの主張立証)をしようとしないから、本件においては、Xの傷病につき業務起因性を認めるに足りる証拠はないといわざるを得ず(なお、Xは、多数の人証申請をしているが、いずれも上記相当因果関係の立証との関係では取調べの必要性が認められない。)、結局、本件退職扱いの無効をいうXの上記主張は採用の限りではないというべきである。

4 Xは、Cのパワーハラスメントが原因となって、本件退職扱いの結果が生じた旨を主張する。しかしながら、仮にX主張に係るCの行為の全部ないし一部が存在すると認められたとしても(ただし、現時点において、Cの行為がパワーハラスメントに該当すると評価するに足りる証拠はない。)、当該行為と本件退職扱いの結果との間に相当因果関係があると認めるに足りる証拠はないから、その余の点につき検討するまでもなく、Cのパワーハラスメントを理由とするXの慰謝料請求は理由がない。

5 Xは、Dが産業医として不当・不適切な行為をしたため、Xは職場に復帰することもできず、本件退職扱いという結果が生じた旨を主張する。しかしながら、仮にX主張に係るDの行為の全部ないし一部が存在すると認められたとしても(ただし、現時点において、Dの行為が産業医として不当ないし不適切であったと評価するに足りる証拠はない。)、当該行為と本件退職扱いの結果との間に相当因果関係があると認めるに足りる証拠はないから、その余の点につき検討するまでもなく、XのDに対する慰謝料請求は理由がない。

この事案では、原告は、考えられるあらゆる相手の行為を損害賠償の対象としましたが、すべて棄却されています。

なかには、さすがに難しいだろう・・・と思われるものもありますが、代理人の考えがあってのことだと思います。

うつ状態になったことは、労災であるから、事前退職扱いは無効であるという主張はあり得る主張です。

今回は、業務起因性が否定されたため棄却されましたが、争点としてはよく見かけるものです。

うつ状態になる直前半年間のうち5か月は残業が100時間を超えているようですが、裁判所は、この事実だけでは業務起因性を肯定することはできないと判断しました。

裁判所としては、残業時間が多いのはわかったから、協力医の意見書を提出する等、医学的見地からの立証もしてほしいと求めましたが、難しかったようですね。

解雇を選択する前には必ず顧問弁護士に相談の上、慎重かつ適切に対応することが肝心です。決して、素人判断で進めないようにしましょう。

本の紹介161 夢をかなえるゾウ(企業法務・顧問弁護士@静岡)

おはようございます 今年もあっという間に1週間が過ぎていきますね。
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←先日、不動産関係の会社の社長と常務とともに「こはく」でプチ新年会をやりました

写真は、「和牛テール 赤ワイン煮」です。とろとろになるまで煮込んであり、めちゃうまです!

新年早々、勢いのある同世代の方と話をすると、気合いが入りますね。

今日は、午前中は、建物明渡しの裁判が1件入っています。

午後は、裁判が1件、裁判の打合せが1件入っています。

すべて不動産関係の裁判です。

うちの事務所は、労務関係もさることながら、不動産関係の裁判が多いのが特徴です。

夜は、社労士の先生方を対象とした勉強会です。

今日のテーマは、「実務における休業手当(労基法26条)と民法上の危険負担(民法536条2項)との関係」です。

基本的な事項ですが、しっかりとおさえていないと、誤解をしてしまうところです。

今日も一日がんばります!!

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さて、今日は、本の紹介です。
夢をかなえるゾウ 文庫版
夢をかなえるゾウ 文庫版

いつか読もうと思って、ずっと読んでこなかった本です。

文庫版が出ていたので、こちらを買い、読んでみました。

とてもいい本です。おすすめです!

小説の途中で、ガネーシャがいいことを言ってくれています。

「夢をかなえるゾウ2」も出ているようなので、読んでみようと思います。

さて、この本で「いいね!」と思ったのはこちら。

自分はあれやな、根本的なところでは理解できてへんな。ええか?成功したいて心から思とるやつはな、何でもやってみんねん。少しでも可能性があることやったら何でも実行してみんねん。つまりやな、『バカバカしい』とか『意味がない』とか言うてやらずじまいなやつらは、結局そこまでして成功したくないっちゅうことやねん。『やらない』という行動を通して、成功したくない自分を表現してんねん。すると宇宙はなあ、『ああ、こいつ成功したないんやな』そう考えるんや。そういうやつから真っ先に成功から見捨てられてくねん」(246~247頁)

人間の長い歴史において、どうすれば人が成功するか、そのことはもう解明されているのです。それでも世の中にはいまだ成功法則書が溢れ、それを読んだ人に『成功するのではないか』という期待を与え続けています。しかし、そうした人たちのほとんどが成功していくことはありません。
なぜでしょう?
それは、何もしないからです。 実行に移さないからです。 経験に向かわないからです。
」(289頁)

「『やらない』という行動を通して、成功したくない自分を表現してんねん」という言葉は、いいですね。

行動に移すという精神がある人は、どんどん成功者や成功本から吸収してどんどん行動に移しています。

行動に移せるかどうかということだけでほとんど勝負は決まっているようにも思います。

短い人生ですから、やりたいこと、やるべきことをどんどんやっていきたいと思います。

今年もやりますよ!!

有期労働契約35(NTT東日本-北海道ほか事件)

おはようございます。

さて、今日は、雇用期間5年余、更新回数5回の有期契約労働者の雇止め、および関係会社への雇用替えに関する裁判例を見てみましょう。

NTT東日本-北海道ほか事件(札幌地裁平成24年9月5日・労経速2156号3頁)

【事案の概要】

本件は、Y社との間で期間の定めのある雇用契約を締結し、契約社員として複数回契約を更新していたXらが、Y社らに対し、Y社による期間満了後の更新拒絶(雇止め)は許されないと主張し、さらに、Y社との間の雇用契約を合意解約してA社へ転籍する旨の意思表示は錯誤によるものであるから無効であるなどとして、XらがY社との間で雇用契約関係上の地位を有することの確認等を求めた事案である。

【裁判所の判断】

雇止め及び雇用替えは有効

【判例のポイント】

1 XとY社との間の雇用契約は、5年6ヶ月にわたり継続し、契約の更新も5回されているが、Xの所属していた113センタにおいては、正社員とXを含む契約社員Ⅱの業務内容には相違点があること、Xの業務は継続性のある業務とはいい難いこと、業務の縮小、再委託等がある場合には雇止めがされていたこと、契約内容更新の際には、一応契約更新の意思の確認及び契約内容の説明は行われており、雇用更新の手続が形式的、機械的なものになっていたということはできないことから、XとY社との間の雇用契約には、期間の定めのない契約と実質的に異ならない状態になっていたということはできず、また、雇用契約が更新されるものとの合理的な期待を抱いていたということもできないから、解雇に関する法理が類推適用されない。

2 Y社による本件雇用替えの目的には、一応の合理性が認められ、Xらを雇止めしてA社に転籍させる理由としても一応の合理性があるものと認められること、Y社は、本件雇用替えに当たって、Xらを単に雇止めするのではなく、A社への移籍という選択肢を提示してるところ、その選択肢は非合理的とはいえないこと、本件雇用替えの実施に当たって適正な手続が執られていること、本件雇用替えの対象者の人選に不公正な点は見られないことからすれば、Xらの主張のように、仮に解雇に関する法理が適用されるとした場合でも、Xらとの間の雇用契約を更新しないということを正当化する客観的に合理的な理由があったというべきである。

3 B、Cは転籍に応じなければ、Y社を雇止めになる旨を認識していたものと認められ、Xについても転籍に応じなければ同社がXを雇止めできると認識していた可能性は否定できないが、A社に転籍後もY社に派遣され、従前と同じ業務を続けることが予定されていたこと、転籍後の労働条件は転籍前と比べてほとんど変更なく、転籍前の不利益をできるだけ小さくするための手当がされていたこと、逆に転籍前と異なり正社員に登用される可能性もあったこと、本件雇用替えがY社と同社の最大労組との協議、大綱了解に至っていた施策であること等からすれば、通常一般人が、仮に、法的に雇止めができないことを認識していたとしても、転籍に合意することは十分にあり得たものと考えられ、仮にXらに錯誤があったとしても、錯誤がなかった場合に、通常一般人が転籍に合意しなかったであろうと考えられるほどに重要な錯誤があったとはいえず、要素の錯誤であるとは認められない

今月、社労士会のセミナーで講師を務める際、有期雇用について触れる予定です。

最近は、使用者の中でも、ちゃんと過去の裁判例から対応策を勉強しているところは、事前に適切な手続をしてから、雇止めをしているため、以前に比べると、有効と判断されるケースが増えているように思います。

まずは、上記判例のポイントの2と3のように、2つのレベルに分けて考えるようにしましょう。

次に、どのような手続をしていると有効と判断されるのかを複数の裁判例から読み取ることが大切です。

セミナーでは、そのあたりも触れます。

有期労働契約は、雇止め、期間途中での解雇などで対応を誤ると敗訴リスクが高まります。

事前に顧問弁護士に相談の上、慎重に対応しましょう。

本の紹介160 たった1つの言葉が人生を大きく変える(企業法務・顧問弁護士@静岡)

おはようございます
Attachment-1←昨年末の年越しそば第2弾として、「吉野」に行ってきました

写真は、税理士K山先生おすすめの「ぶっかけ」です。せいろを7種類(山菜、おかか、大根おろし、葱、海苔、かき揚、わさび)の薬味で食べます。

おいしゅうございました。 

年をとればとるほど、おそばがおいしくなってくるのは気のせいでしょうか。

今日は、午前中、裁判が2件、破産の免責審尋が1件、新規相談が1件入っています。

午後は、新規相談が2件入っています。

夜は、東京で、社団法人の理事会です

いよいよプロジェクトが形になってきたので、これからが楽しみです。

今日も一日がんばります!!

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さて、今日は本の紹介です。
たった1つの言葉が人生を大きく変える
たった1つの言葉が人生を大きく変える

よくある名言集です。

この本の特徴は、原題である「NEVERISMS」からもわかるとおり、「決して~するな」という名言を集めたという点です。

さて、この本で「いいね!」と思ったのはこちら。

危険が迫ってきたときは、背中を見せて逃げるな。危険が2倍になる。しかし、ひるむことなく断固として立ち向かえば、危険は半分になる。何事からも、決して逃げるな。決して!」(ウィンストン・チャーチル)(168頁)

これを普段の仕事におきかえて考えることにします。

「危険」は「嫌なこと」「大変なこと」という意味で考えます。

大変な仕事は、どうしても後回しにしがちです。

でも、後回しにすればするほど自分を苦しめることになります。

後回しにしたって逃げることはできないのです。

最終的には、どこかでやらないといけないのです。

そうであるならば、覚悟を決めて取りかかる。

そして、これを習慣化する。

そうすると、自然と逃げない姿勢が身についてきます。

解雇91(甲社事件)

おはようございます。

今日は、勤務態度不良を理由とする解雇に関する裁判例を見てみましょう。

甲社事件(東京地裁平成24年7月4日・労経速2155号9頁)

【事案の概要】

本件は、Y社に雇用されていたXが、同社の行った解雇が無効であるとして、雇用契約上の地位の確認と未払給与、賞与の支払を求めるとともに、上司らが共謀して、Xに対する嫌がらせ・ハラスメント(虐待行為)を行ったとして、上司らに対し、共同不法行為に基づく損害賠償請求を求め、また、Y社に対して安全配慮義務違反による債務不履行もしくは不法行為に基づく損害賠償を求める事案である。

なお、Y社は、主にコンピューターソフトウェアの設計、販売及び輸出入を業とする会社である。

Xは、平成18年11月にY社に採用された。職務内容は、顧客に対するサポートシステムの保守及び新規機能追加の対応業務、各種プロジェクトの計画、進捗管理、ドキュメント作成、下請け業者のマネジメント業務であった。

【裁判所の判断】

解雇は有効

【判例のポイント】

1 本件解雇の具体的な理由として上げられている上記(1)ないし(3)の点については、上記のとおり、いずれもこれを認めることができる。具体的に、(1)に関して、Xは、これまでの業績が評価されて昇進したCに対して嫉妬し、Cのみならず、Dに対しても上司に対する尊厳を欠いたような発言を繰り返している。
また、(2)に関して、Xは、組織変更前の問題があるとされる仕事の進め方にこだわり、組織変更後の新しい方針を受け入れないまま、何事も自分が担当するプロジェクトが最優先で行おうとして、Dの指示や指導に従わなかったことが認められる。
さらに、(3)に関して、Xは、保守・サポート課に異動した後も、Y社の開催するワークショップに対して、根拠なく批判的な態度を取る、Navi2.2プロジェクトをたびたび紛糾させるといった行動を取る、E課長やDの指示や指導に従わない姿勢を取る、E課長から態度を改めないとPMの仕事に携わることはできないと指導されても、これに理解を示さず、自己の能力をアピールし続け、PMとしての仕事をさせて欲しいと要望し続ける等し、周囲の社員から一緒に仕事をしにくい人であるといった評価を受けていることが認められる。

2 以上からすると、Xには、Y社が求めている協調性が欠けており、また指導されても、自分の姿勢を改めようとしなかったことは明らかであり、かかるXの協調性不足を解雇の理由とした本件解雇については、客観的に合理的な理由があるといえる

3 次に、本件解雇が、社会通念上相当といえるかについて検討する。
・・・以上からすると、本件解雇に至るまでに、Y社は、Xに対して、再三にわたって指導注意を行った上で、それに応じようとしないXに対し、BA部以外の他部署への異動を勧奨し、さらに退職勧奨を行い、合意による退職の方途を探っており、Xとかなり時間を掛けて協議を行っていることが認められる。しかしながら、他部署への異動については、Xにやる気がなかったことなどから実現しなかったものである。また、退職勧奨についても、Xが、C、Dの謝罪の仕方にこだわったため、これが実現しなかったものである。なお、CやDについては、Xが主張するような事実自体認められない、あるいはパワーハラスメントとして評価しうるような行為はなかったものであり、C及びDが不法行為責任を負うものではない。
そして、Xが、Qに対して、Y社から他部署への異動のための面接を受けるよう指示されたことについて「この会社あほ???」と述べたり、他部署へ異動を命じられると「和解金も取れないし、パワハラも訴えられない」と述べていることからすれば、Xは、Y社の本件解雇を回避するために取られた他部署への異動打診といった措置をあざ笑うかのように不誠実な対応をとり続けたことは明らかであり、Xにやる気がみられないとして他部署からの受け入れを断られたものもXに原因があるといわざるを得ない。かかるXに対して、退職勧奨を経た上で行われた本件解雇は、やむを得ないものとして社会通念上相当といえる。

勤務成績不良を理由とする解雇を有効に行うことは、一般的にはハードルが高いといえます。

正直なところ、私は、その原因が使用者側にあると考えています。

勤務成績不良を理由とする解雇が無効になってしまう主な理由は、使用者の労働法や判例に関する知識不足にあります。

労使紛争に長けている顧問弁護士等がいる場合であればともかくとして、そうでない場合、使用者は、所定の手続を踏むことなく、すぐに解雇してしまう。そうすると、多くの場合、解雇は無効と判断される。

今回の裁判例を読むだけでも、どのようなことを事前にすべきかを読み取ることは十分に可能であると思います。

是非、参考にしてください。

解雇を選択する前には必ず顧問弁護士に相談の上、慎重かつ適切に対応することが肝心です。決して、素人判断で進めないようにしましょう。

本の紹介159 出稼げば大富豪 運命が変わる編(企業法務・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は本の紹介です。

出稼げば大富豪 運命が変わる編 (調子ぶっこきシリーズ)
出稼げば大富豪 運命が変わる編 (調子ぶっこきシリーズ)

アニキ本、第6弾です。

何度も言いますが、とにかく全部読んでみます(笑) あと少しです。

さて、この本で「いいね!」と思ったのはこちら。

安定なんかを目標にしてるから安定から遠ざかるねや。わかるか?」(206頁)

シンプルですが、真実ですね。

目から鱗が落ちるというよりは、「そりゃそうだよね」という感じです。

いつも言うことなのですが、私と同世代の経営者を見ていて、安定を目標としている人って、1人もいないのではないでしょうか。

いろいろな経営者の顔を思い浮かべてみましたが、「安定」という言葉が似合う人が見当たりません。

みんな安定なんか目指していないですよね。

多くの「できる」経営者に共通するキーワードは、「変化」、「実行」、「挑戦」、「斬新」などです。

正直、30代から、安定なんかを目標にしても、楽しくもなんともないわけです。

こんな考えの経営者が周りにはたくさんいます。

このような考えの経営者が、世の中を変えていくのだと信じています。

継続雇用制度19(全国青色申告会総連合事件)

あけましておめでとうございます。

今年も一年、よろしくお願いいたします。

さて、今日は、定年後の再雇用における雇止めに関する裁判例を見てみましょう。

全国青色申告会総連合事件(東京地裁平成24年7月27日・労経速2155号3頁)

【事案の概要】

Xは、平成3年5月からY社に正社員として勤務していた。

Xは、定年退職後、Y社との間で、平成21年10月、期間雇用の定めがある再雇用契約を締結した。

Y社は、Xに対し、期間満了後新たに契約を締結しない旨(本件雇止め)を通告した。

Xは、本件雇止めは無効であると主張し争った。

【裁判所の判断】

雇止めは有効

【判例のポイント】

1 Y社においては、職員が引き続き勤務することを希望すれば、就業規程の定める一定の要件の下、1年間の再雇用をするという内容の再雇用制度が採用されたのは、平成18年4月1日付けの就業規程の改訂によってであり、Xは、Y社において、前記改訂後初めて定年退職を迎える正職員であったこと、本件雇止めは、更新を経ずして行われたものであることが認められるから、本件においては、前記再雇用制度の運用状況や過去の更新の手続・回数等の雇用継続の合理的な期待を裏付けるに足りる客観的な事情は、特に見当たらないと言わざるを得ない。

2 平成3年当時、60歳定年制は未だ法律上義務づけられていなかったこと、Y社において、職員が引き続き勤務することを希望し、一定の要件を満たしていれば、1年間の再雇用をするという内容の再雇用制度は存在しなかったことが認められるのであって、Y社における定年が60歳であることが求人カードによって明示されていることを考え合わせれば、求人カードに再雇用制度有りという旨の記載があるとしても、また、Xの主張するとおり、
C及びDが、再雇用制度があり、65歳まで働くことができる旨を説明したとしても、それは、未だ存在してなかった前記の内容の再雇用制度を前提とするものではなく、定年が60歳であることを前提に、65歳まで再雇用されることもあり得るという意味にとどまるものと評価され、Xの65歳までの雇用継続を保障するものとは認められない
から、平成22年10月20日の本件再雇用契約の期間満了に当たってのXの雇用継続の合理的な期待を裏付けるには足りない。

3 Y社の再雇用制度は、平成18年4月1日付けの就業規程の改訂により導入されたもので、Xは、Y社において、前記改訂後初めて定年を迎える正職員であったから、Y社において、前記制度の運用について、慣例は存在しなかったというほかない
Xは、Y社及び東京青色申告会連合会の職員の定年後再雇用や役員が60歳を超えても勤務している例を挙げるが、いずれもY社における65歳までの継続雇用の慣例の存在を裏付けるに足りない。なお、Xは、Y社の平成2年4月の東京青色申告会連合会事務局からの分離・独立後に本件雇用契約を締結しており、前記のとおり、Y社の再雇用制度の制度化は、それ以降であるから、東京青色申告会連合会の例をもって、Y社における60歳以上の職員の雇用についての慣例を根拠付けることはできない
以上によれば、Xの本件再雇用契約後の職務内容が、それ以前と同じであったことを考慮に入れてもなお、Xにおいて、本件再雇用契約終了後の継続雇用について合理的な期待があったとはいえない。

久しぶりに継続雇用に関する裁判例を見ます。

この裁判例で学ぶべきは、「慣例」についてのハードルの高さです。

私も裁判で経験がありますが、労使慣行を認定し、そこから一定の法的効果を導くのは、想像しているよりもはるかに大変です。

「長い間、継続している」という一事をもって、労使慣行があるとはならないのです。

高年法関連の紛争は、今後ますます増えてくることが予想されます。日頃から顧問弁護士に相談の上、慎重に対応することをお勧めいたします。