派遣労働11(日本精工事件)

おはようございます。 

さて、今日は、偽装請負と明示・黙示の労働契約の成否に関する裁判例を見てみましょう。

日本精工事件(東京地裁平成24年8月31日・労経速2159号9頁)

【事案の概要】

本件は、派遣元会社から派遣先会社であるY社に対し、派遣元会社に雇用され、平成18年11月10日以前は、業務処理請負の従事者として、翌11日以降は、労働者派遣の派遣労働者として、Y社の工場等において就業していたXら(帰化者を含む日系ブラジル人)が、Y社と派遣元会社との労働者派遣契約の終了に伴い、Y社の工場における就業を拒否されたことについて、主位的に、(1)派遣元会社と派遣先であるY社との間の契約関係が請負契約であった当時のXら、派遣先会社であるY社及び派遣元会社の三者間の契約関係は、違法な労働者供給であり、XらとY社との間で直接の労働契約関係が成立しており、平成18年11月11日以降、派遣元会社と派遣先会社でありY社との間の契約関係が労働者派遣契約に変更された後も、労働契約関係は変化なく維持されていたから、Xらと派遣先会社であるY社との間に直接の労働契約関係が継続していたというべきであること、(2)そうでないとしても、XらとY社との間には、黙示の労働契約が成立していたというべきこと、(3)(1)及び(2)の労働契約の成立が否定されるとしても、Y社には、派遣法40条の4に基づき、Xらに対する雇用契約申込義務があったというべきであるから、XらとY社との間には当該義務に基づく労働契約が成立していたというべきであることを主張して、Y社に対し、労働契約上の権利を有する地位にあることの確認並びに上記労働契約に基づいて平成22年1月以降の月例賃金等の支払を求めるとともに、予備的に、(4)長年にわたりXらの労務提供を受けてきたY社には、Xらに対する条理上の信義則違反等の不法行為が成立すると主張して、Y社に対し、それぞれ200万円の慰謝料等の支払を求めたものである。

【裁判所の判断】

Y社に対し、慰謝料として50万~90万円の支払を命じた。

派遣先会社との労働契約の成立は否定

【判例のポイント】

1 労働者と派遣先会社との間に黙示の「労働契約」(労働契約法6条)が成立するためには、(1)採用時の状況、(2)指揮命令及び労務提供の態様、(3)人事労務管理の態様、(4)対価としての賃金支払及び労務提供の態様等に照らして、両者間に労働契約関係と評価するに足りる実質的な関係が存在し、その実質的関係から両者間に客観的に推認される黙示の意思表示の合致があることを必要とすると解するのが相当であって、労働者派遣においては、労働者に対する労務の具体的指揮命令は、派遣先会社が行うことが予定されているから、黙示の労働契約が認められるためには、派遣元会社が名目的存在にすぎず、労働者の労務提供の態様や人事労務管理の態様、賃金額の決定等が派遣先会社によって事実上支配されているような特段の事情が必要とされるところ、請負時代、派遣時代を通じて、XらとY社との間において、黙示の労働契約が成立していたと認めることはできない。

2 派遣法40条の4所定の労働契約申込義務は公法上の義務として規定されているものであり、これによって、私法上の雇用契約申込義務が発生したり、労働契約関係を形成したり、擬制したりするものではなく、しかも上記申込義務が発生するには派遣先会社が派遣元会社から派遣元通知を受ける必要があるところ、各社がY社に対して派遣元通知をしていないので、派遣元通知のないXら、各社、Y社の三者間の労働者派遣関係において、派遣先会社であるY社に申込義務が発生すると解することはできず、申込義務に基づくXらとY社との間の労働契約は成立しない

3 Y社は、Xらの派遣先会社であって、直接契約責任を負う者ではないが、派遣先会社が派遣労働者を受け入れて就労させるについては、派遣法の規制を遵守するとともに、その指揮命令下に労働させることにより形成される社会的接触関係に基づいて、派遣労働者に対し、信義誠実の原則に則って対応すべき条理上の義務を負うと解するのが相当であり、この義務に違反する信義則違反の行為は不法行為を構成するというべきところ、本件において、Y社のXらに対する対応は、Y社が、偽装請負又は派遣法違反の法律関係の下、長期間にわたってXらの労務提供の利益を享受してきたにもかかわらず、突如として、何らの落ち度のない派遣労働者であるXらの就労を拒否し、Xらに一方的不利益を負担させるものである上、Xらの派遣就労に当たって、日本人派遣労働者の正社員登用の事実があるにもかかわらず、その選別基準について合理的な説明をしたり、再就職先をあっせんしたりするなどのしかるべき道義的責任も果たしていないものといわざるを得ないものであり、前記条理上の信義則に違反する行為であり、不法行為に該当する

上記判例のポイント3は重要です。是非、押さえておいてください。

派遣元会社も派遣先会社も、対応に困った場合には速やかに顧問弁護士に相談することをおすすめします。