おはようございます。
さて、今日は、派遣労働者に対する整理解雇に関する裁判例を見てみましょう。
シーテック事件(横浜地裁平成24年3月29日・労判1056号81頁)
【事案の概要】
Y社は、持株会社であるR社のグループ会社として労働者派遣事業を営む会社である。
Xは、Y社との間で労働契約を締結し、派遣労働者として就労していた。
Y社は、平成21年6月末、Xを整理解雇した。
Xは、本件整理解雇は要件を満たしておらず無効であると主張し争った。
【裁判所の判断】
整理解雇は無効
【判例のポイント】
1 本件解雇は、労働者の私傷病や非違行為など労働者の責めに帰すべき事由による解雇ではなく、使用者の経営上の理由による解雇(整理解雇)であるから、その有効性については慎重に判断するのが相当である。そして、整理解雇の有効性の判断に当たっては、人員削減の必要性、解雇回避努力、人選の合理性及び手続の相当性という4要素を考慮することが相当である。
2 ・・・これらの事情を考慮すると、本件解雇当時、Y社において、支出の相当割合を占める人件費を削減することが求められていたというべきであり、Y社が、R社に対する貸付けを放棄し、R社に対する経営指導料等の支払債務とR社に対する貸付金の相殺を行っていないことを考慮すると、切迫性には検討の余地はあるものの、Y社において、人員削減の必要性が生じていたことは否定し難い。
3 Y社は、平成20年10月以降、間接部門の従業員を対象に希望退職の募集をしたり、技術社員の一時帰休を実施したり、新規採用中止を決定したり、事務消耗品購入の禁止、時間外労働の削減などにより経費を削減し、また、利益がない場合であっても派遣先との契約を締結する方針を取るなどして契約数を増やすための努力をしていたことが認められる。
しかし、Y社は、Xを含む技術社員に対しては希望退職の募集を行わないまま、平成21年3月10日時点で待機社員であった技術社員及びそれ以降に待機社員となる全ての技術社員を対象に、整理解雇を実施することを決定し、同年3月17日以降、技術社員が待機社員になる都度、解雇通知を行っていたのであって、Y社が整理解雇の実施に当たって削減人数の目標を定めていたかも明らかではない。また、Y社では、本件解雇の通知前である同年4月に整理解雇により2774人及び同年1月ないし同年4月に退職勧奨等により1309人の人員削減が終了していたところ、それ以降、さらに整理解雇を実施する必要性があるか否かについて真摯に検討したことが証拠上窺われない。これらの事情からすれば、Y社が、本件解雇当時、人員削減の手段として整理解雇を行うことを回避する努力を十分に尽くしていたとは認めることができない。
この点、Y社は、技術社員に対して希望退職の募集をしなかった理由を、優秀な技術社員が流出することでかえって資金繰りを悪化させるおそれがあったためと主張するが、Y社が、個々の技術社員の有する技術や経歴等を一切考慮することなく、待機社員であることのみをもって整理解雇の対象としたことからみても、上記Y社の主張は、不合理というほかない。
4 Y社は、本件解雇の有効性の判断に当たっては、労働者派遣事業の特殊性について考慮すべきであると主張する。派遣労働者が派遣先企業における業務の繁閑等に対応するための一時的臨時的な労働力の需給調整システムとして雇用の調整弁としての役割を担っていることは理解できるところである。しかしながら、本件で問題になっているのは、労働者派遣事業を営む者と派遣労働者との間の労働契約であって、派遣労働者が派遣先企業において労働力の需給調整システムとして雇用の調整弁としての役割を担っていることから直ちに労働者派遣事業を営む者と派遣労働者との間の労働契約が不安定なものであることは導かれない。労働者派遣事業を営む者は、自ら雇用する派遣労働者が派遣先企業の雇用の調整弁となり、労働を提供することができないことがあり得るというリスクを負担する一方で、派遣労働者を企業に派遣することで利益を得ている側面を否定できないから、派遣労働者が派遣先企業との間の派遣契約の終了により一時的に仕事を失っても、そのことだけから直ちに解雇できないことはいうまでもない。労働者派遣事業を営む者としても、その雇用する派遣労働者との間の雇用期間を定めるなど、前記リスクを軽減することは可能である上、労働者派遣事業法30条も「派遣元事業主は、その雇用する派遣労働者又は派遣労働者として雇用しようとする労働者について、各人の希望及び能力に応じた就業の機会及び教育訓練の機会の確保、労働条件の向上その他雇用の安定を図るために必要な措置を講ずることにより、これらの者の福祉の増進を図るように努めなければならない。」と定め、派遣労働者の雇用の安定を図るように求めているところである。
解雇を選択する前には必ず顧問弁護士に相談の上、慎重かつ適切に対応することが肝心です。決して、素人判断で進めないようにしましょう。