Daily Archives: 2012年12月11日

解雇88(日本航空(パイロット等)事件)

おはようございます。

さて、今日は、運行乗務員に対する整理解雇に関する裁判例を見てみましょう。

日本航空(パイロット等)事件(東京地裁平成24年3月29日・労判1055号58頁)

【事案の概要】

Y社は、その子会社、関連会社とともに、航空運送事業及びこれに関連する事業を営む企業グループを形成し、国際旅客事業、国内旅客事業等の航空運送事業を展開する会社である。

Xらは、いずれもY社と期間の定めのない労働契約を締結し、航空機の機長または副操縦士として勤務してきたパイロットである。

Y社では、平成22年3月以降、退職金額の上乗せや一時金の支給などを条件に、二度にわたる特別早期退職措置を実施したほか、整理解雇の方針を表明する前後の4度にわたる希望退職措置を実施した。

しかし、こうした措置にもかかわらず、パイロットについては、稼動ベースで80名分が削減目標に達しなかった。

そこで、Y社は、Xらを整理解雇した。

【裁判所の判断】

整理解雇は有効

【判例のポイント】

1 会社更生法上、労働契約は双方未履行双務契約として、管財人が解除又は履行を選択し得る(同法61条1項)が、管財人は、労働契約上の使用者としての地位を承継している以上、管財人の上記の解除権は、解雇と性格づけられる。客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない解雇は、権利濫用となる(労働契約法16条)のであるから、この権利濫用法理は、管財人が行った本件解雇についても、当然に適用されることになる。
そして、本件解雇は、使用者の経営上ないし経済上の理由によって行われた解雇なのであるから、上記の解雇権濫用法理の適用に当たっては、権利濫用との評価を根拠付ける又は障害する考慮要素として、人員削減の必要性の有無及び程度、解雇回避努力の有無及び程度、解雇手続の相当性等の当該整理解雇が信義則上許されない事情の有無及び程度というかたちで類型化された4つの要素を総合考慮して、解雇権濫用の有無を判断するのが相当である。このことは、当該更生手続がいわゆる事前調整型(プレパッケージ型)の企業再建スキームとして利用されるものであるか否かにより結論を異にする根拠はないのであり、本件更生手続が機構の支援と会社更生手続を併用して事業廃止を回避した事前調整型企業再建スキームであることは、上記結論を左右するものではない

2 Xらは、Y社がワークシェアリング、グループ内外への出向、転籍等の解雇を回避できる有効な手段があったにもかかわらず、それらの措置を真摯に検討・実施せず、また、運行乗務員の専門性、特殊性に照らすと、希望退職募集及び再就職支援の期間が短く、支援の内容も極めて不十分であったと主張する
しかし、上記のとおり、Y社は、更生手続開始決定の前後を通じて、・・・相対的には、手厚い解雇回避努力を尽くしているとの評価が可能である。同年11月の時点で組合から提案されたワークシェアリングの内容は、一時的な措置で問題を先送りする性質のものであるし、上記の解雇回避措置を行わなかったからといって、解雇回避努力が不十分であると評価することは困難であるというべきである。したがって、上記Xらの主張は、上記判断を覆すものとはいえない。

3 本件人選基準のうち、Xらに適用されたのは「病気欠勤・休職等による基準」「目標人数に達しない場合の年齢基準」である。これらはいずれも、その該当性を客観的な数値により判断することができ、その判断に解雇者の恣意が入る余地がない基準であり、このような基準であるということ自体に、一定の合理性が担保されているということができる。

4 Xらは、年齢に基づく不利益な取扱いは、世界各国で法律により禁止されており、中高年齢者の雇用確保という政策的観点と併せて、本件人選基準のうち年齢の高い順番によるという基準は、世界標準から逸脱した不合理なものであるとも主張するが、我が国では、定年制を採ることが、格別、高年齢者等の雇用の安定等に関する法律のように、事業主が定年制を採用することを前提とした立法も存することに照らせば、年齢に基づく基準が不合理なものであると評価することはできない。年齢の高い者から順に目標人数に達するまでを対象とするという基準を他の人選基準では目標人数を満たさない場合の補助的な基準とすることに合理性があることは上記のとおりであり、中高年齢者の雇用保障という政策的観点を考慮しても、上記判断を左右するものではない。

JALの整理解雇事件です。

以前にもJALの事件を紹介しましたが、いずれも解雇は有効と判断されています。

解雇75(日本航空(整理解雇)事件)解雇77(日本航空運行乗務員解雇事件)参照。

会社更生手続中ということもあり、労働者側とすれば、かなり厳しい裁判であることは明らかです。

解雇を選択する前には必ず顧問弁護士に相談の上、慎重かつ適切に対応することが肝心です。決して、素人判断で進めないようにしましょう。