賃金53(京都市・京都市教委(酒気帯び運転)事件)

おはようございます。

さて、今日は、懲戒免職でなされた退職金不支給処分に関する裁判例を見てみましょう。

京都市・京都市教委(酒気帯び運転)事件(東京地裁平成24年2月23日判決・労判1054号66頁)

【事案の概要】

本件は、京都市教育委員会が、京都市立中学校教頭であったXに対し、Xが酒気帯び運転をしたこと等を理由として、懲戒免職処分及び一般の退職手当の全部を支給しないことを内容とする退職手当支給制限処分を行った。

Xは、懲戒免職処分はやむを得ないとしながらも、本件処分については、裁量権の濫用である等と主張し、本件処分の取消しを求めた。

【裁判所の判断】

退職手当不支給処分を取り消す

【判例のポイント】

1  退職手当の法的性格は、一義的に明確とはいえず、退職手当制度の仕組み及び内容によってその性格付けに差異が生じ得るが、一般的に、沿革としての勤続報償としての性格に加えて、労働の対償であるとの労働者及び使用者の認識に裏付けられた賃金の後払いとしての性格や、現実の機能としての退職後の生活保障としての性格が結合した複合的な性格を有していると考えられる。そして、本件における退職手当も、算定基礎賃金に勤続年数別の支給率を乗じて算定されていること、支給率がおおむね勤続年数に応じて逓増していること、自己都合退職の場合の支給率を減額していることなどに照らすと、これらの3つの性格が結合したものと解するのが相当である。

2 本件条例13条は、退職手当管理機関が退職手当等の全部又は一部を支給しない処分をするに当たっては、当該退職をした者が占めていた職の職務及び責任、当該退職をした者の勤務の状況、当該退職をした者が行った非違の内容及び程度、当該非違に至った経緯、当該非違後における当該退職をした者の言動、当該非違が公務の遂行に及ぼす支障の程度並びに当該非違が公務に対する信頼に及ぼす影響を勘案すべきであると定めており、このような広範な事情について総合的な検討を要する以上、退職手当支給制限処分をするか否か、するとしていかなる程度の制限をすべきかは、平素から内部事情に通じ職員の指揮監督に当たる退職手当管理機関の裁量に委ねられていると解すべきである。
そのため、退職手当管理機関が上記裁量権を行使して行った退職手当支給制限処分は、それが社会観念上著しく妥当を欠いて裁量権を付与した目的を逸脱し、これを濫用したと認められる場合でない限り、その裁量権の範囲内にあるものとして、違法とならないものというべきである。
したがって、裁判所が退職手当支給制限処分の適否を審査するに当たっては、退職手当管理機関と同一の立場に立って当該処分をすべきであったかどうか又はいかなる処分を選択すべきであったかについて判断し、その結果と処分とを比較してその軽重を論ずべきものではなく、退職手当管理機関の裁量権の行使に基づく処分が社会通念上著しく妥当を欠き、裁量権を濫用したと認められる場合に限り違法であると判断すべきものである(最高裁昭和52年12月20日参照)。

3 そもそも懲戒免職処分は、非違行為をした者に職員としての身分を引き続き保有させるのが相当かという観点から判断されるのに対し、退職手当は、通常であれば退職時に支払われる一時金を支払うのが相当かという観点から判断されるものであって、懲戒免職処分と退職手当の不支給は論理必然的に結びつくものではない(この観点からすると、両者を結び付けていた平成20年法律第95号による改正前の退職手当法の規定は相当性を欠いていたということができる。)。そして、退職手当が同時に賃金の後払いとしての性格を有することに照らすと、懲戒免職処分を受けて退職したからといって直ちにその全額の支給制限まで当然に正当化されるものではないことは明らかであり、その全額の支給制限が認められるのは、当該処分の原因となった非違行為が、退職者の永年の勤続の功をすべて抹消してしまうほどの重大な背信行為である場合に限られると解するのが相当である

4 Xの飲酒量が多く、本件非違行為が極めて危険かつ悪質であること、夫婦関係の不和という動機に酌量の余地は皆無であること、Xは中学校教諭でかつ管理職の立場にあって、本件非違行為が職務に与える悪影響は大きいことから、退職手当が相応に減額されることはやむを得ないが、他方、Xは27年間教員として勤務して学校教育に多大な貢献をし、本件によって懲戒免職処分を受けるまで処分歴はないこと、本件非違行為は酒酔い運転ではなく酒気帯び運転にとどまり、職務行為とは直接には関係のない私生活上のものであること、本件事故の結果も幸い物損にとどまっているうえ、被害者と示談をして被害弁償を行っていること、これらの事情に照らすと、本件非違行為がXの永年の勤続の功績をすべて抹消するほどの重大な背信行為であるとまでは到底いえず、本件退職手当全部支給制限処分は社会観念上著しく妥当を欠き、裁量権を濫用したと認められるので、違法であり、取り消されるべきである

退職金の不支給もしくは減額については、いつも相当性の判断が悩ましいです。

事前に必ず顧問弁護士に相談の上、対応することをお勧めいたします。