Daily Archives: 2012年11月20日

賃金52(株式会社乙山事件)

おはようございます。

さて、今日は、タクシー会社を退職した社員からの割増賃金等請求に関する裁判例を見てみましょう。

株式会社乙山事件(東京地裁平成24年3月23日・労判1054号47頁)

【事案の概要】

Y社は、タクシー事業等を営む会社である。

Xは、Y社の従業員であった者である。

Xは、Y社を退職後、未払割増賃金を請求した。

【裁判所の判断】

約1200万円の未払割増賃金請求に対して、約105万円の支払いを命じた

付加金として50万円の支払いを命じた

【判例のポイント】

1 労基法上の労働時間とは、労働者に実際に労働させる実労働時間、すなわち「労働者が使用者の指揮命令下に置かれている時間」をいうものと解されるところ、その判断は、(1)当該業務の提供行為の有無、(2)労働契約上の義務付けの有無、(3)義務付けに伴う場所的・時間的拘束性(労務の提供が一定の場所で行うことを余儀なくされ、かつ時間を自由に利用できない状態)の有無・程度を総合考慮した上、社会通念に照らし、客観的にみて、当該労働者の行為が使用者の指揮命令下に置かれたものと評価することができるか否かという観点から行われるべきものである。

2 Xの勤務パターンは明確にされていなかったが、Xは毎日午前5時頃出社して帰庫管理等に着手しており、Y社もこれを黙認せざるを得ない状況にあったことから、始業時は午前5時であるといわざるを得ない。

3 Xは、事業場に毎日午後5時くらいまで居残っていたものの、Y社において内勤制度が発足し確立していた本件請求期間内においてはXが居残る必要性は消滅しており、加えてY社の代表者はXに会う度毎に「早く帰ったらどうか」と退社を促していたことからすれば、Xが午後5時頃までY社の指揮命令下に置かれていたものとはいいがたく、この時間をXの実労働時間の終了時とすることはできない

4 Y社の運行管理業務はそもそも繁忙状態を生じさせるようなものではなく、残業手当(1ヶ月5万円)に相当する1か月約15時間に相当する残業時間があれば十分にこなしうる程度のものであったと認められ、1日8時間を超えて労務の提供を余儀なくされるような業務が存在していたのかは大いに疑問であるといわざるを得ない
以上の点に加え、Xは、元々明確な所定労働時間に縛られた勤務体制下で業務に従事していたわけではなく、内勤に転じた後も、運行管理業務だけではなく、Y社に乗務員を紹介するという重要な役割を担っていたことなどを併せ考慮すると、上記要素(1)ないし(3)のいずれの観点からみても、Xの行っている上記運行管理業務が上記午後1時すなわち「8時間」を超えてY社の指揮命令下に置かれていたとはいい難く、したがって、Xの上記運行管理業務による実労働時間が上記「8時間」を超えていたものと評価することはできない。

5 Y社では、週休2日制を採用していたものであるが、Xの休日は週休1日が実態であって、法定外休日の土曜日も平日と同様に出社してY社の指揮命令下において運行管理業務を行っていたと認められる。

6 法定休日である日曜日も業務に従事していたとするXの主張につき、班長制度によりXの業務量等は減少していたもので、早めの退社を促していたY社代表者は、法定休日にXに労働させる意思を有していなかったものとみるのが自然であるから、休日割増賃金にかかる請求は認められない

7 Y社は、使用者としてXについてもタイムカードないしは出勤簿等により出退勤管理を行うべき義務を負っていたにもかかわらず、これを怠ってきた経緯が認められ、かかるY社の対応は労基法37条等の趣旨・目的に照らすと軽々に許されるものではない。そうだとすると当裁判所としては、Y社に対して時間外労働等に関する労基法の諸規定の遵守を励行させるべく、制裁金たる付加金の支払を命ずるよりほかない。
もっとも、その一方で、・・・Y社が本件給与の一部である残業手当のほかに、Xに対して割増賃金を支払う必要がないものと誤信したことには、それなりにやむを得ない事情が介在していたものということができる。
以上のとおりであるから、これらの事情を併せ考慮するならば、本件訴訟において認容すべき付加金の額は50万円が相当である。

非常に参考になる裁判例です。

上記判例のポイント1のとおり、労基法上の労働時間の判断のしかたは、是非、おさえておきたいところです。

その上で、この裁判例は、残業の必要性を否定しました。

労働時間を、実質的に判断している点を、使用者側のみなさんは是非、参考にしてください。

請求金額と認容金額を比較すると、ほぼ使用者側の勝利なんでしょうね。

残業代請求訴訟は今後も増加しておくことは明白です。素人判断でいろんな制度を運用しますと、後でえらいことになります。必ず顧問弁護士に相談をしながら対応しましょう。