解雇85(南淡漁業協同組合事件)

おはようございます。

さて、今日は、信用業務(貯金業務)責任者に対する普通解雇に関する裁判例を見てみましょう。

南淡漁業協同組合事件(大阪高裁平成24年7月19日・労判1053号5頁)

【事案の概要】

Y社は、信漁連から貯金の入出金、貸付業務の取次ぎ等の業務の委託を受けていた。

Xは、Y社に勤務していた者であるが、Y社から重大な規律違反行為を理由として普通解雇された。

Xは、本件普通解雇は解雇権を濫用したものであり、無効であると主張し争った。

【裁判所の判断】

解雇は有効

【判例のポイント】

1 Y社に勤務している職員は本所で4名、H支所で1名にすぎず、それぞれの職務分担は一応定められているものの、互いの職務は関連しており、円滑な業務の遂行のためには、互いの連携、協力、連絡等が必要不可欠であるところ、Xは、理由は不明であるが、平成20年正月明けからほとんど他の職員と言葉を交わさなくなり、業務上必要な連絡もしないまま、仕事を行うようになったものである。このため、職場の雰囲気を著しく損ねるとともに、本所においてもH支所においても、Xが必要な連絡や伝達をしないことによる業務上の支障が生じることこととなった。そして、その結果、他の職員が困るだけでなく、Xのみが説明を受けたオンライン機器の操作方法を他の職員に教えなかったために、やむなく神戸から信漁連の職員に来てもらうというような事態まで生じたほか、貯金を引き出しに来た組合員に過少払をする結果となったり、組合員から依頼のあった燃油代金の引き落としの手続ができずに迷惑をかけるという結果まで生じていた。そして、Y社の組合員その他の関係者からも、Y社代表者に対して、Y社の本所の雰囲気が悪いとか、Xの窓口での応対が悪い状態が続いていることが告げられる状態にもなっていたものである
・・・XにはY社の職員としての職務上の義務に違背する行為があったものというべきである

2 Y社代表者は、XがY社の職場で他の同僚職員と会話をしないだけでなく、職務上必要な連絡や伝達さえもしなくなり、事務処理上さまざまな支障が生じていることについて3回にわたってXに注意をしたにもかかわらず、Xはこれを聞き入れようとせず、2回目の注意を受けた際には反発して午後には家に帰ってしまい、3回目の注意を受けた際には「ほっといてくれ」などと強く言い返して勤務態度を改めようとは全くしなかったものであるから、Y社の側でそれ以上の注意を重ねてもXの勤務態度の改善が期待できないものと判断したことはやむを得ないところであったというべきである

3 この点、Xは、本件解雇処分の前の段階で、Y社代表者らから、解雇を含めて厳しい処分を検討しているので職務態度を改善するようになどといった指導や警告を受けておらず、かかる指導や警告を受けたなら、Xが職務態度を改善した蓋然性があったと主張する。しかし、上記のとおりXが他の職員との会話をせず、職務上必要な連絡や伝達さえも行わない状態を長期間にわたって続けており、Y社代表者からの注意や指導に対しても、何らの説明や弁明をすることもなく、むしろ反発を強めるだけであった一連の態度に照らすと、Xの主張は到底採用することができない
また、段階的な処分を踏むべきであったとのXの主張についても、Y社代表者からの注意や指導に対して一向に態度を改めることがなく、かえって反発を強めるばかりであったXの一連の態度に照らすと、段階的な処分によってXが態度を改善させる可能性があったものとは認められないから、Xの主張は認められない

解雇事由に決定的な決め手のない普通解雇ですが、トータルでみて、解雇を有効と判断しています。

ポイントは、会社がXに対して、3回にわたって注意し改善を促したにもかかわらず、Xが勤務態度を改めなかった点です。

Xにも当然、そのような態度をとった理由があるはずですが、裁判所は、その点については重視しませんでした。

何度か改善を求めるという点は、参考にすべきですね。

解雇を選択する前には必ず顧問弁護士に相談の上、慎重かつ適切に対応することが肝心です。決して、素人判断で進めないようにしましょう。