おはようございます。
さて、今日は、親会社・持株会社の労組法上の使用者性に関する裁判例を見てみましょう。
高見澤電機製作所外2社事件(東京地裁平成23年5月12日・ジュリスト1447号119頁)
【事案の概要】
Y1社は、長野県の信州工場でリレー部品等の製造等を営む会社である。
Y1社と組合との間には、会社は、企業の縮小・閉鎖などによる組合員の労働条件の変更については、事前に所属組合と協議し、合意の上実施することを内容とする全面解決競艇を締結していた。
Y1社は、平成13年9月、持株会社であるY2社を設立し、その後、Y1社からY2社にグループ会社全体を統括する管理・営業・技術開発部門の営業譲渡が実施され、Y1社はY2社の製造子会社に特化された。
Y3社は、Y2社が設立されるまでは、Y1社の株式の約53%を所有し、Y1社の取締役の約半数はY3社出身またはY3社との兼務役員であった。Y3社は、Y2社の設立以降、Y2社の議決権株式の約68%を所有し、Y1社の株式は所有していない。
組合は、平成13年11月、Y3社、Y2社、Y1社に対し、Y1社信州工場の存続・発展のための今後の経営計画・事業計画と同工場の労働者雇用確保等のための方策を明らかにすること等を求める団交を申し入れた。これに対し、Y1社は団交に応じたが、Y3社、Y2社は組合員の使用者ではないことを理由に団交に応じなかった。
【裁判所の判断】
請求棄却
→不当労働行為にはあたらない。
【判例のポイント】
1 一般に「使用者」とは労働契約上の雇用主をいうものであるが、雇用主以外の事業主であっても、当該労働者の基本的な労働条件等について、雇用主と同視できる程度に現実的かつ具体的に支配、決定することができる地位にある場合には、その限りにおいて、当該事業主は労組法7条の「使用者」に当たる。
2 Y3社は、A事件、B事件の時点で、Y1社の株式の過半数を所有し、Y1社の全取締役の約半数がY3社出身またはY3社との兼務役員であったことから、資本関係および出身役員を通じ、親会社としてY1社に対し、その経営について一定の支配力を有していたとみることができる。
Y2社の設立後(C事件の時点で)は、Y2社は、資本関係および兼務役員を通じて、親会社としてY1社に対し、その経営について一定の支配力を有し、営業取引上優位な立場を有していたとみることができる。Y3社についても、資本関係および出身役員を通じ、孫会社であるY1社に対し、経営について一定の支配力を有していたと推認することができる。
3 Y2社設立以後、Y2社のY1社に対する営業取引上の意思決定ないし行為が、Y1社の労働者の賃金等の労働条件に影響を与えうることは否定できない。しかし、その決定過程にY2社が現実的かつ具体的に関与したことを認める証拠や、労働時間等の基本的な労働条件等についても、Y2社が雇用主と同視できる程度に現実的かつ具体的な支配力を有していたと認めるだけの証拠はない。Y3社についても、Y1社の労働者の基本的な労働条件等について、現実的かつ具体的な支配力を有していたと認めるだけの証拠はない。
以上によれば、Y3社およびY2社は、Y1社の経営について一定の支配力を有していたといえるが、労働者の基本的な労働条件等について現実的かつ具体的に支配、決定することができる地位にあったといえる根拠はないから、労組法7条の使用者にはあたらない。
4 組合員の労働条件変更につき組合との事前協議・合意の上実施することを定めた本件全面解決協定は、いかなる場合においても常に使用者が一方的に経営上の措置を執ることを許さないとする趣旨ではなく、使用者側の独断専行を避け、できる限り両者相互の理解と納得の上に事を運ばせようとする趣旨を定めたものと解すべきである。そうすると、少なくとも、労働条件の変更を含む当該経営上の措置が使用者にとって必要やむを得ないものであり、かつ、これについて労働組合の了解を得るために使用者として尽くすべき措置を講じたのに、労働条件の了解を得るに至らなかった場合に、使用者が一方的に当該経営措置を実施することを妨げるものではないと解するのが相当である。A事件における転社者・希望退職者の募集および人事異動については、経営上の必要性が認められ、Y1社は組合らの理解や同意を求めて団交を重ねたにもかかわらず、組合らは自己の主張を維持する態度に終始していたという本件事情からすれば、Y1社は、組合らの理解と納得を得るために尽くすべき措置を講じたものと評価することができ、全面解決協定違反(支配介入等)にはあたらない。
まず、上記判例のポイント1はしっかりと理解しておかなければいけません。
労働契約法上の「使用者」概念と労働組合法上の「使用者」概念が異なることを意味します。
次に、上記判例のポイント4の「全面解決協定」に関する解釈についても参考になりますね。
同協定の趣旨から規範を導いています。
このような協定を締結している会社は、是非、参考にしてください。
組合との団体交渉や組合員に対する処分等については、まずは事前に顧問弁護士から労組法のルールについてレクチャーを受けることが大切です。決して素人判断で進めないようにしましょう。