Monthly Archives: 10月 2012

有期労働契約34(X学園事件)

おはようございます。

さて、今日は有期雇用の用務員に対する契約期間中の解雇に関する裁判例を見てみましょう。

X学園事件(東京地裁平成24年4月17日・労経速2150号20頁)

【事案の概要】

Y社は、Y学園の設置・運営を目的とする会社である。

Xは、Y社において、特別専任職員として採用され、契約期間1年とする用務員として勤務していた者である。

Y社は、Xを契約期間途中で解雇した。

Xは、Y社に対し、(1)契約期間途中でなされたY社による解雇(無断欠勤2回、欠勤届不提出、昼休憩の際の打刻の不履行、生徒用掃除道具箱の清掃、備品の確認・補充の不履行を理由とする解雇)は、労働契約法17条1項に定める「やむを得ない事由」を欠くものであって無効である等と主張した。

【裁判所の判断】

解雇は無効

【判例のポイント】

1 本件解雇理由(ア)ないし(エ)記載の事実の存在が認められ、これらは、いずれも業務命令違反行為として就業規則39条1項4号に該当するものといえる。
しかし、Xが有期雇用の用務員であって教員ではないことにかんがみれば、本件解雇理由(ア)ないし(エ)記載の事実がY社の設置・運営する学園の教育現場に与えた影響は、非常に限定的であったと推察される。また、就業規則39条は懲戒解雇の規定であるところ、Xには、本件解雇まで懲戒歴が全くない。加えて、解雇理由(イ)につき、事後的にではあるが、一応、欠勤届を提出していること、有期雇用は、雇用期間の満了によって自然に終了する反面、期間中の解雇は抑制的であるべきこと等の諸事情を総合考慮すれば、欠勤届の提出を求め、実際の昼休憩時間を把握するために打刻を指示した点は、労務管理上、合理的かつ当然の指示であること、生徒用掃除道具箱の清掃及び備品の確認・補充を指示した点も、用務員として通常予想される職務範囲内の正当な業務指示と認めることができること、平成22年12月中旬以降のXの勤怠が著しく悪いこと等のY社に有利な諸事情を考慮しても、本件解雇に、法17条の「やむを得ない事由」があるとまで認めることはできない

2 したがって、解雇手続の相当性について検討するまでもなく、本件解雇は無効であり、XとY社との間の雇用関係は、本来の期間満了日である平成23年4月30日の経過によって終了したものと認めるのが相当である。

3 そして、本件解雇日から上記満了日までのXの不就労は、Y社の責めに帰すべきものと認められるから、民法536条2項により、Y社は、Xに対する上記期間中の賃金支払義務を免れないが、Xは、解雇予告手当を平成23年2月分に充当する前提で同年3月分及ぶ4月分のみを請求しており、Y社も、解雇予告手当が同年2月分のみに充当されることにつき異議を述べないので、Y社がXに支払うべき未払賃金額は、平成23年3月及び同年4月の各月当たり23万7850円となる(なお、通勤手当は、実際に通勤することを前提に支給される手当であるから、本件において、Y社に支払を命ずることは相当ではない。)。

懲戒解雇ですから、自ずとハードルはあがります。

普通解雇ではダメだったのでしょうか?

また、有期雇用の期間途中の解雇は、「やむを得ない事由」がなければいけませんので、普通解雇の要件よりも厳しいです。 このことも裁判所はちゃんと踏まえていますね。

とはいえ、本件でY社がXに支払うのは2か月分の賃金だけですので、それほど大きな負担ではないですね。

日頃から顧問弁護士に相談しながら適切に労務管理を行うことが大切です。

本の紹介138 大富豪アニキの教え(企業法務・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

さて、今日は本の紹介です。
大富豪アニキの教え
大富豪アニキの教え

本屋に平積みされており、表紙にやられ、買ってしまいました(笑)

とてもいい本です。 おすすめですよ。

一番大切なのは『相手を自分ごとのように大切にする心』」と、アニキはとてもいいことを言っています。

さて、この本で「いいね!」と思ったのはこちら。

手間ひま。つながり。ご縁。絆。匠。義理。人情。そういった『人間味』を持つことが大事なんや。『人間の味』やな。合理化には『人間の味』がないやんけ。そのためにはな、やっぱり、利益第一の『合理化』をよしとせず、『相手を自分ごとのように大切にする心(=つながり・ご縁・絆)』を持って、行動することやねんて」(127頁)

いいこと言いますね。

業務を合理化するのは、実はそれほど難しいことではありません。

「無駄」をどんどん省けばいいのですから。

合理化を図る上で注意しなければいけないのは、「無駄」だと思えることは、はたして本当に「無駄」なのかという点です。

一見、「無駄」に見えることでも、実は、必要なことであるということもあります。

経費削減という名のもとに、時間短縮という名のもとに、あらゆる「無駄」を省いたところに何が残るのでしょうか。

今後、ますます価格だけで勝負をしている会社は厳しくなってくると思います。

アニキの言うところの「人間の味」が、今後、もっともっと重要視されてくるのだと思います。

賃金51(X社事件)

おはようございます。

さて、今日は、強制わいせつ致傷罪で有罪判決を受けた元社員に対する退職金支払いに関する裁判例を見てみましょう。

X社事件(東京地裁平成24年3月30日・労経速2145号7頁)

【事案の概要】

Y社は、地域電気通信業務およびこれに附帯する業務等を行う会社である。

Xは、Y社の正社員であった。

Xは、女子高校生に対して強制わいせつ致傷罪に該当する行為を行い、逮捕され、懲役3年保護観察付き執行猶予5年の有罪判決を受けた。

本件非違行為については、逮捕時に、少なくとも4紙で報じられ、テレビニュースとして放送もされ、これらの中には「Y社社員」として報じたものもあった。

Y社は、逮捕翌日、報道機関に対し、遺憾の意を表明するとともに、お詫びのコメントを出した。

Xは、逮捕後、退職届を提出して受理され、合意退職したが、Y社就業規則には、退職手当について、支給前に在職中の非違行為が発覚し、退職日までに懲戒処分が確定されない場合であって、かつ、懲戒解雇又は諭旨解雇にあたると思料される場合は、退職後も審査し、懲戒解雇相当の場合は不支給(諭旨解雇相当の場合は8割支給)とする旨の定めがあり、Y社は、懲戒解雇相当として、退職手当不支給とした。

これに対し、Xは、Y社に対し、退職手当1375万1750円等の支払いを求めた。

【裁判所の判断】

Y社に対して600万円強の退職金の支払いを命じた

【判例のポイント】

1 Y社における退職手当は賃金後払いとしての性格を有している一方で、本件退職金規定122条において退職金が不支給あるいは減額となる、あるいは、支給が制限される旨定めており、功労報償としての性質も併有する。そして、Y社における退職手当が両者の性格を併有することからすると、本件不支給規定によって、退職金を不支給ないし制限することができるのは、労働者のそれまでの勤続の功労を抹消ないし減殺してしまうほどの信義に反する行為があったことを要するものと解される

2 ・・・本件非違行為の報道において、Xの肩書きは概ね「会社員」ないし「元会社員」として報道されており、Y社の社員ないし元社員であることを明示する報道においても、当該事実はXの社会的地位ないし身上を示す意味で報道されたに過ぎず、Y社が報道機関から求められてコメントをするなどの報道対応を余儀なくされたことが認められるものの、あくまでも私生活上の非行としての報道であって、それ以上にY社社員であったXが本件非違行為を行ったことによって、Y社自身が社会的な非難の対象となったものとは認めがたく、前記のような報道がなされたこと自体をよって、Y社の業務に具体的な支障が生じたり、Y社の株価が下落するなど、Y社の社会的な評価ないし信用が具体的に低下ないし毀損されたことを認めるに足りる証拠はない。
したがって、本件非違行為によってY社に生じた業務上の支障、社会的評価・信用の低下も、間接的なものにとどまり、その程度も前記認定の程度にとどまる

3 本件非違行為は、法定刑が無期又は3年以上の懲役となる強制わいせつ致傷罪(刑法181条1項)に該当し、XがY社の社員ないし元社員である旨の報道もなされたことを踏まえると、本件非違行為は、社員就業規則76条第1号(法令又は会社の業務上の規定に違反したとき)、同条第11号(社員としての品位を傷つけ、又は信用を失うような非行があったとき)に該当し、その重大性等にかんがみれば、懲戒解雇も選択肢として検討されうる事案であることは否定しがたいものの、Y社が現に合意退職に応じていることからすると、それが不可避の事案であるとはいえず、諭旨解雇とするなどそれ以外の選択の余地がない事案であったものとはいえない。また、本件非違行為が私生活上の非行であること、本件非違行為によって直接被害を被った被害者との間の法律的あるいは道義的な問題が示談によって解決していること、本件非違行為によって生じた業務上の支障、社会的評価・信用の低下も、間接的なものにとどまり、その程度も前記認定の程度にとどまっていることなど諸般の事情にかんがみれば、本件非違行為がそれまでの勤続の功労を抹消するものとは言い難く、著しく減殺するにとどまるものであって、減殺の程度は5割5分を上回るものとは認められない

4 本件不支給には一部理由がなく、本件非違行為の内容及び事案の明白性等諸般の事情にかんがみれば、遅くとも本件不支給決定時には、退職金の支給は可能であったものと認められ、本件不支給決定の翌日から履行遅滞に陥るものと認めるのが相当である。

私生活上の非行を理由に退職金を支給しなかったり、減額する際の考え方として、参考になります。

強制わいせつ致傷罪ですから、犯罪としては、相当重いものですが、それでも、諸般の事情を考慮して、退職金減額は55%が相当とされています。

55%という結論を導くにあたり、裁判所が考慮した点については、上記判例のポイント3のとおりです。

判断が悩ましいところですが、顧問弁護士に相談の上、慎重に対応しましょう。

本の紹介137 日本人には教えなかった外国人トップの「すごい仕事術」(企業法務・顧問弁護士@静岡)

おはようございます あっという間に一週間が終わりますね。 
写真 2012-10-22 20 41 28
「え、もう金曜日?」という感じです。

←先日、リニューアルした「しぶち」に行きました

写真は、静岡いきいきどりのレバーです。 とってもおいしいです!

おいしすぎて、3本おかわりしてしまいました。

今日は、午前中は、裁判の打合せが1件、家事審判が1件入っています。

午後は、離婚訴訟が1件、新規相談が3件、打合せが1件入っています。

今日も一日がんばります!!

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さて、今日は本の紹介です。
日本人には教えなかった外国人トップの「すごい仕事術」 (講談社BIZ)
日本人には教えなかった外国人トップの「すごい仕事術」 (講談社BIZ)

少し前の本ですが、もう一度、読み直してみました。

著者と外国人経営者5人との対談が載っています。

さて、この本で「いいね!」と思ったのはこちら。

クリアな未来の視野なんて、実は持つ必要はないと私は思っています。人生というのは、自分が想像している以上のチャンスを与えてくれるものです。・・・そこで必要になるのは、自分自身がオープンマインドでいることです。その時々の周辺状況にしっかりと目を配り、決して思い込みをすることなく、オープンな姿勢でチャンスを待つ姿勢を持てるかどうか。そして、チャンスが来た時には、それを思い切ってつかむ行動力を持てるかどうか。
むしろ、あまりにもクリアに道を思い描き、それに執着し過ぎてしまうと逆効果になりかねない。環境の変化に対応できず、チャンスを得る機会を見逃してしまいかねないからです。
・・・だから、道に関しては大きな柔軟性を持っておくというのが大切だと思います。
」(18頁)

日産のゴーンさんの言葉です。

あまり明確に方向性や目標を定めないほうがよいという視点です。

明確に方向性や目標を定めて、なにがあっても修正しない(できない)となると、それに執着しすぎて、状況の変化に柔軟に対応できないからです。

方向性や目標は定めても、状況の変化によって、それらは変わりうると考えるほうがいいんだと思います。

配転・出向・転籍16(エバークリーン事件)

おはようございます。

さて、今日は、ドライバー職から工場職への配転命令に関する裁判例を見てみましょう。

エバークリーン事件(千葉地裁松戸支部平成24年5月24日・労経速2150号3頁)

【事案の概要】

Y社は、再生油の販売、産業廃棄物の収集・運搬・処分、産業廃棄物のリサイクル等を業とする会社である。

Xは、平成20年4月、Y社と労働契約を締結し、ドライバーとして廃棄物等の収集・運搬業務に従事していた労働者である。

Y社は、Xをドライバー職から工場職へ配転命令を出した。

Xは、配転命令は、職種限定の合意違反又は権利の濫用であるから無効であると主張し争った。

【裁判所の判断】

配転命令は有効

【判例のポイント】

1 Xは、ドライバーを募集している旨の求人広告を見て応募し、Y社と労働契約を締結したこと、雇用契約書にも「ドライバー」との記載があったこと、就労の当初からドライバーとして勤務していたことが認められ、Y社においては、ドライバーとして稼働する従業員についてはその他の従業員と別途の就業規則及び賃金規程が定められていたことが認められる。
しかし、Y社のドライバー職従業員を対象とした就業規則には、Y社が業務の都合により、従業員に勤務地、所属、職務の変更を命ずることがある旨の規定があること、Y社においては従前からドライバーから工場職(製造部勤務)に異動する従業員が年間5名程度いることに照らせば、上記事実をもって、本件労働契約においてXの職種をドライバーに限る旨の合意があったと認めることはできないというべきである。

2 本件労働契約締結の経緯、Xが従前ドライバーとして就労していたこと、ドライバーと工場職(製造部勤務)の勤務内容の違いに照らせば、Y社における業務上の必要性は相当程度のものであることを要し、また、不当な動機ないし目的のもとにされたものである場合においても権利の濫用に当たると解すべきである
この点、Xは、平成20年9月6日に腰を痛めて稼働できなくなり、同月17日まで出勤せず、平成21年1月22日には業務作業中に痛風性関節炎を発症し、同年4月7日まで出勤しなかったことがあったところ、平成22年3月24日、業務作業中に右足を負傷し、同年5月8日、業務作業中に右足を負傷したことが認められる。そして、平成22年5月8日の負傷については、少なくとも2、3日程度業務に従事することを差し控えることが相当な程度であったことが推認されるところ、以上の経緯及びドライバー職が一人で客先を回ることとされ、また、重量物を一人で持つことがあり、長距離の運転を行うことから、Y社において、Xに対する安全配慮義務及びY社の業務の円滑な遂行の見地から、本件配転命令を出すべき業務上の相当程度の必要性が認められるというべきである。

3 Xは、Y社には不当な目的がある旨主張し、同主張に沿う証拠もある。しかし、従前、Y社の管理職において退職に追い込む目的をもって工場職への異動を命じた例があったとしても、直ちに本件において同様の目的が推認されるとまではいえないところ、前述したとおり、業務上の相当程度の必要性が肯定されること、・・・Xに抵抗感があることに理解を示しつつ、身体に無理をさせないように配慮する旨や収入が下がらないように配慮する旨を述べるなどをしたことが認められることに鑑みれば、Xが主張する不当な目的があったことを認めることはできないというべきである

配転命令は有効との判断です。

労働者側からすれば、ドライバー職から工場職への配転ですから、業務上の必要性はないし、不当な動機目的に基づく配転だと主張したくなる気持ちはわかります。

問題は、業務上の必要がないことや不当な動機目的を立証できるか、です。

使用者側からすれば、当然のことながら、必要性があったことを主張立証することになります。

手持ちの証拠の多さからしても、一般的には、労働者にとって、この立証の壁を超えるのは容易なことではありません。

配転命令が無効となるのは、よほど使用者側のやりかたがまずかったり、へたくそな場合ですね。

実際の対応については顧問弁護士に相談しながら行いましょう。

本の紹介136 壁を越えられないときに教えてくれる一流の人のすごい考え方(企業法務・顧問弁護士@静岡)

おはようございます
写真 2012-10-21 11 42 40
←先日、久しぶりに焼津の「うな鐵」にうなぎを食べに行ってきました。

このうな重、秀逸です。

このお店に行ったら、串を頼まなければはじまりません。

写真 2012-10-21 11 38 20これがまたおいしいのですよ。 他のお店では食べられません。超おすすめです!

今日は、午前中は島田の裁判所で離婚調停です

午後は、裁判が1件、家事審判が1件、外部の法律相談、打合せが2件入っています。

今日も一日がんばります!!

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さて、今日は本の紹介です。
壁を越えられないときに教えてくれる一流の人のすごい考え方
壁を越えられないときに教えてくれる一流の人のすごい考え方

内容としては、よくある部類の本ですが、クイズ形式になっているところが新しいですね。

見せ方がとても上手なところが参考になります。

内容が同じでも、切り口、角度、見せ方で、売れ行きが天と地ほど変わってきます。

これは書籍に限らず、どの仕事でも言えることだと思います。

さて、この本で「いいね!」と思ったのはこちら。

正岡子規が36歳で他界するまでのわずか16年間で詠んだ俳句の数。23647句。
エジソンの死後、アイデアがぎっしり書かれたノートが発見された。その数。約3500冊。
」(65頁)

みなさんは、これの文章を読んだとき、どのように感じますか。

私は、ガッツがみなぎってきます。

天才と言われる人や偉大な業績を残した人たちは、天賦の才能から、いとも簡単に結果を出しているのではないということがわかります。

偉大な業績を残すまでに気の遠くなるような努力をしてきているということがわかりますよね。

つまり、私のような普通の人間でも、気の遠くなるような努力をすれば、偉大だと言われる業績を残せるかもしれないと思うわけです。

結局のところ、気の遠くなるような努力ができるかどうかだけなんです。

日々、努力して向上していくことが生きがいです。

労働災害54(中部電力ほか(浜岡原発)事件)

おはようございます
写真 2012-10-19 20 15 50
←先日、事務所の近くのお祭りに行ってきました。

テンションが上がり、たこやき、焼きとうもろこし、お好み焼きなどを買ってしまいました。

完全におなかいっぱいになってしまい、夜ごはんを食べられませんでした。
 
今日は、午前中に裁判が3件入っています。

午後は、新規相談が1件、打合せが2件入っています。

今日も一日がんばります!!

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さて、今日は、中皮腫で死亡した孫請会社社員の遺族による損害賠償請求についての裁判例を見てみましょう。

中部電力ほか(浜岡原発)事件(静岡地裁平成24年3月23日・労判1052号42頁)

【事案の概要】

本件は、孫請会社である有限会社A工業の従業員としてY1社の浜岡原子力発電所においてメンテナンス業務に従事していたXが、腹膜原発悪性中皮腫により死亡したことについて、Xの遺族がY1社、元請会社のY2社、下請会社のY3社の安全配慮義務違反またはY1社が所有する工作物である浜岡原発の瑕疵によるアスベストばく露によって死亡したと主張して、Y1社らに対して、債務不履行または不法行為による損害賠償を請求した。

【裁判所の判断】

Y1社に対する請求はいずれも棄却

Y2社、Y3社に対しては、連帯して、5000万円強の賠償義務を認めた。

【判例のポイント】

1 安全配慮義務は、ある法律関係に基づいて特別な社会的接触の関係に入った当事者間において、当該法律関係の付随的義務として当事者の一方又は双方が相手方に対して信義則上負う義務として一般に認められるべきものである(最高裁昭和50年2月25日)。
そして、注文者と請負人との間において請負という契約の形式をとりながら、注文者が単に仕事の結果を享受するにとどまらず、請負人の雇用する労働者から実質的に雇用関係に基づいて労働の提供を受けているのと同視しうる状態が生じていると認められる場合、すなわち、注文者の供給する設備、器具等を用いて、注文者の指示のもとに労務の提供を行うなど、注文者と請負人の雇用する労働者との間に実質的に使用従属の関係が生じていると認められる場合には、その間に雇用関係が存在しなくとも、注文者と請負人との請負契約及び請負人とその従業員との雇用関係を媒介として間接的に成立した法律関係に基づいて特別な社会的接触の関係に入ったものとして、信義則上、注文者は当該労働者に対し、使用者が負う安全配慮義務と同様の安全配慮義務を負うものと解するのが相当である。これは、注文者、請負会社及び下請会社と孫請会社の従業員との間においても同様に妥当する

2 安全配慮義務の前提として、使用者が認識すべき予見義務の内容は、生命・健康という被害法益の重大性に鑑み、安全性に疑念を抱かせる程度の抽象的な危惧であれば足り、必ずしも生命・健康に対する障害の性質、程度や発症頻度まで具体的に認識する必要はないと解される(福岡高裁平成元年3月31日)。
・・・アスベストの粉じんは、これを人が吸引した場合には、悪性中皮腫等を発症させて人の生命・健康を害する危険性があるところ、Y2社及びY3社は、上記のとおり、これを予見することが可能であったといえるから、労働者が石綿の粉じんを吸入しないようにするために万全の措置を講ずべき注意義務を負担していたと解される。
具体的には、Y2社及びY3社には、アスベストが使用されている材料をできる限り調査して把握し、A工業の現場作業指揮者や作業員であるXらに対して周知すべき注意義務がある。また、アスベストの人の生命・健康に対する危険性について教育の徹底を図り、Xらに対してマスク着用の必要性について十分な安全教育を行うとともに、アスベスト粉じんの発生する現場で工事の進行管理、作業員に対する指示等を行う場合にはマスクの着用や湿潤化を義務付けるなどの注意義務があった

3 工作物責任は、工作物が通常有すべき安全性を欠くときに認められ、工作物の構造、用法、場所敵環境及び利用状況等の事情を総合考慮して具体的個別的に判断すべきであると解される(最高裁昭和56年12月16日)。
・・・シール材はポンプに配管を連結する箇所等に使用される原子力発電所において必須の部品であり耐熱性、強度などの点でアスベスト含有製品の使用が適していること、シール材については現在においても法令によってアスベストの使用禁止から除外されていること、アスベスト非含有の適当な代替品が当時なかったことが認められる。そうすると、アスベスト非含有の代替品を使用することは当時としては不可能ないし著しく困難であったといえるから、社会通念上、工作物が通常有すべき安全性を欠くということはできない

地元静岡の裁判例です。

上記判例のポイント1の安全配慮義務については、応用可能性があり、参考になりますね。

工作物責任は否定されています。

本の紹介135 脳を活かすアインシュタインの言葉(企業法務・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。 

さて、今日は本の紹介です。
脳を活かすアインシュタインの言葉 (PHP文庫)
脳を活かすアインシュタインの言葉 (PHP文庫)

よくあるタイプの本ですが、嫌いではありません。

アインシュタインさんのことばが紹介されていますが、脳を活かすと結びつけるのは、やはり無理があります。

茂木さん監修なので、むりくりなんでしょう。

さて、この本で「いいね!」と思ったのはこちら。

言葉とは空しい響きであり、かつそれに尽きています。かつて破壊への道には常に理想に対する口先だけの奉仕が伴っていました。けだし、個性というものは聞いたり言ったりすることによって形成されるものではなく、労働と活力によってのみつくられるものだ。」(68頁)

これは、1963年、アメリカにおける高等教育300年祭講演「教育について」の一節だそうです。

要するに、言っているだけでは何も変わらないということです。

どんなにいいアイデアがあっても、それを実現しない限り、何の意味もありません。

実行あるのみです。

私も、まだまだ発展途上です。

これからもものすごい勢いで、アイデアを実行してきますよ。

賃金50(日本機電事件)

おはようございます。

さて、今日は、退職した営業社員からの退職慰労金および割増賃金請求に関する裁判例を見てみましょう。

日本機電事件(大阪地裁平成24年3月9日・労判1051号70頁)

【事案の概要】

Y社は、建設現場仮設資材の製造、販売、リースを主たる業務としている会社である。

Xは平成7年にY社に入社し、Y社グラフィック事業部に配属され、その後は、Y社を退職する20年までの間、営業に従事してきた。

Xは、退職後、Y社に対して、退職慰労金、時間外労働割増賃金および付加金の請求をした。

【裁判所の判断】

退職慰労金規定の廃止は無効

退職慰労金の支払いを命じた

未払残業代約680万円の支払いを命じた

【判例のポイント】

1 本件退職慰労金規定4条には、「支給しない場合もある」旨規定されているところ、本件退職慰労金が、賃金の後払い的性質を有していることにかんがみると、当該従業員に懲戒解雇事由若しくはそれと同等の背信行為が存在したというような特段の事情が認められない限り、Y社が恣意的な理由に基づいて退職慰労金を支給しないということは許されないと解するのが相当である。他方、当該従業員としても、懲戒解雇事由若しくはそれと同等の背信行為をしたにもかかわらず、退職慰労金を請求することは信義則に反することになると解するのが相当である。

2 ・・・確かに、XがY社の競業他社に就職していることは、上記就業規則に反するものではある。しかし、(1)同条項は、1年間という制限はあるものの、一般的抽象的にY社の競業・競合会社(同概念も抽象的一般的であると評価できる。)への入社を禁止しており、Y社を退職した従業員に対して過大な制約を強いるものであるといわざるを得ないこと、(2)Y社においては、同制約に見合う代替措置(退職慰労金の支払等)が設けられていたとは認められないこと(ただし、Y社は、退職年金制度を廃止するに当たって、解約返戻金を支払っているが、同支払をもって、1年間の制約を正当化できるとは言い難い。)、(3)Y社がXの同競業行為によって個別具体的にいかなる損害(損害額等)を被ったか明確であるとはいえないこと、(4)取引先との信頼関係等種々の理由があったとはいえ(Y社代表者)、結果的に、Y社は、Xの同競業行為について、これを禁止する法的な手段(仮処分申立手続)を執らなかったこと、以上の点が認められ、これらの点からすると、Xの上記行為は、形式的には競業行為に該当し、就業規則49条に反するものとはいうものの、同行為をもって、退職慰労金を不支給とするに相応しい背信行為に該当するのは相当とはいえない

3 本件においては、タイムカード等Xの労働時間を直接証する資料が作成されておらず、Xの正確な退勤時刻を認定することは困難であるが、上記したXの業務内容、XのY社における売上実績、上記した時間外労働に関するY社の指導内容等にかんがみれば、Xは、少なくとも、営業活動後の残務整理等のために、午後8時までは業務に従事していたと推認するのが相当である

4 Y社は、Xを労基法上の管理監督者に該当するとして、他の従業員に比して高額な賃金(役職手当20万円を含む60万円)を支給していたこと、Y社は、Xに対し、幹部会議への出席などを要請し、Xは、同会議に出席するなど、形式的には幹部社員として待遇されていたこと、労基法上の管理監督者に該当するか否かは種々の事情を考慮した法的判断を要求されるものであること等諸般の事情を総合的に勘案すると、本件に関しては、Y社がXに対して時間外割増賃金を支払わなかったことをもって、付加金の支払義務を負わせることは相当とはいえない

いろいろと考えさせられる裁判例です。

やはり、どの裁判例を見ても、残業代の不支給を管理監督者該当性を根拠とするのは、もはや無理があると言わざるを得ません。

裁判所の基準では、まず管理監督者には該当しないということを、そろそろ会社は自覚すべきです。

本件では、付加金こそ課せられてはいませんが、管理監督者に該当するとして、月額60万円もの高額な賃金を支給していたため、算出される未払残業代がえらいことになってしまいます。

もう1つ。

退職金の不支給については、多くの裁判例が出ていますが、今回も金額こそ多額ではありませんが、競業行為を理由とする退職金の不支給は認められませんでした。

退職後の競業避止義務については、職業選択の自由との関係からも制限的に解釈されますので、ご注意ください。

残業代請求訴訟は今後も増加しておくことは明白です。素人判断でいろんな制度を運用しますと、後でえらいことになります。必ず顧問弁護士に相談をしながら対応しましょう。

本の紹介134 儲かっているラーメン屋は朝8時に掃除する!(企業法務・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

さて、今日は本の紹介です。

儲かっているラーメン屋は朝8時に掃除する! (宝島社新書)
儲かっているラーメン屋は朝8時に掃除する! (宝島社新書)

読んでみましたが、タイトルはたいして意味がありませんでした。

もっと内容にマッチしたタイトルがあると思いますが・・・。

単にキャッチーなタイトルにしたかっただけだと思います。

さて、この本で「いいね!」と思ったのはこちら。

『今は何をやってもダメだよ。そのうちまた景気のいいときが必ず来るさ』
本気でこう考えている人がいまだにいます。時代が大きく変わり、自らを変えない限り生き残れない環境にあることを肌身に感じなければなりません。多くの成功者はいま、逆転の発想で破壊に取り組んでいます。創造のための破壊をしていくのです。成功者はこの『破壊力』を持っているのです。
」(72~73頁)

これも言うのは簡単ですが、実際に「創造のための破壊」を実践している人がどれほどいるでしょうか。

「創造のための破壊」と言われても、なにをどうしたらよいのかわからない人もいると思います。

また、「逆転の発想」というのもまた言うのは簡単ですが、有効な「逆転の発想」というのは、とても難しいです。

現時点での私の考えでは、最初からうまくいく「逆転の発想」など存在しないということです。

とにかく数多く「逆転の発想」をしてみる。

みんなが右に行くといったら、とにかく左に行ってみる。

これを繰り返し繰り返し行っていくと、今まで意識して行ってきた「逆転の発想」が、無意識にできるようになってきます。

「そんなの無理だよ」と言われたら、チャンスと思うくらいがちょうどいいのです。

多くの人が無理だと考えているのだから、それをやってうまく行けば、すごいことになります(笑)

多くの人から無理だと言われ、そんなことやって大丈夫?と心配されるくらいがちょうどいいのです。